第20話 変な町だった
翌日、目が覚めると、二人の裸体に挟まれ密着されている。
開き直ったよ、俺の好みが二人へばり付くように寝ているんだ。うん、悪くない、むしろ気持ちがいいし感無量だね。素直に喜ぼう。
以前の世界でさんざんやっといて良かったよ。こんな場面、普通一八歳の健全な男だったら、気持ちが抑えられなかっただろうな。
多分、盛りの付いた馬鹿になっているよ。昔の馴染みの女に感謝しよう。
二人の寝顔を見ていたら、コーマが目覚めた。
「おはよう、ラサキ」
続いてファルタリア。
「おはようございます。よく眠りました」
「おはよう、いい朝だね。支度をしたら皿食屋でも行こうか」
宿を出た俺達は、検問所で聞いた皿食屋に行った。エランテの町の皿食屋も繁盛しているようで、すでに並んでいる。
俺達も、並んで順番を待ち少しして入れた。
コーマの注文は二人前、ファルタリアは大盛り、相変わらずだな。注文した皿食は美味そうな肉野菜炒めと野菜汁だった。
「うん、美味い。シャルテンの皿食屋も美味かったけど、この店も並んでいただけあって、負けず劣らず美味いな」
「本当、美味しいね。もう少し食べられそうね」
「コーマさん、おかわりですか? 賛成です」
二人が俺を見つめる。
「いいよ、遠慮しないで行っといで」
言うや否や、足早に注文しに行く二人。テーブルに戻ってきて、美味しそうに食べる二人を見ていると俺も和んだ。
食べ終わり、落ち着いたところで皿食屋を出て、エランテのギルドに向かった。
コーマは消えギルドに入ると、冒険者らしき人達から一斉に視線を浴びる。ああ、よそ者って事かな。
気にしないで受付に行こうとしたら、テーブル席に座っている獣人の冒険者に声を掛けられた。
「なあ、兄ちゃん。どこから来た」
「シャルテンの町だけど」
「この町は他の町から来た冒険者を嫌っている。依頼もこの町出身じゃないと受けられない」
その獣人曰く。エランテの町は、他の町と交流自体はあるが、閉鎖的な町だ。ギルドもエランテ出身の冒険者だけで成り立っている。
商人と同行して、他の町から来た冒険者は、寝泊まりだけを利用して出て行くのが普通。
そうか、他の町から来たやつは依頼を受けられないのか。あの子達の行っている意味が、何となく理解した。
「理解したよ。いい事を聞いた。俺達は依頼を受けるつもりはないよ」
「それが賢明だ。気をつけな」
俺は受付に行く。赤髪赤眼のメイド服を着た受付嬢が座っていた。
「こんにちは、ギルドへようこそ。ご用件は何でしょうか」
「換金して欲しいのだけど」
「では、隣の部屋にお入りください」
ファルタリアと、言われた通り隣の部屋に入る。カウンターがあったので、そこにある椅子に座って待つ。
蓄えは十分あるし、換金する必要はない。けれど、何か聞き取れないかと思った行動だ。
受付の女性が入って来た。
「換金する品物を出してください」
盗賊からいただいた装飾を施した赤い指輪を一つ出し、カウンターに置いた。
受付嬢は、指輪を手に取り眺める。
「少しお待ちください」
奥に入って行く。ファルタリアと話をしていると戻って来た。
「お待たせいたしました。残念ですがまがい物です」
戻してきた指輪は、俺の出した赤い指輪では無く、何の変哲もない青い指輪だった。
「その指輪じゃないだろう。すり替えたな」
「何を言っているのですか? これは、あなたの出した指輪ですよ」
ああ、そうか。他の町から来た冒険者には、こうしてぼったくっているのか。だから、宿泊だけなんだな。いい勉強になったよ。
しかし、ギルドがこうなるとは、二〇〇年前とは大違いだ。これじゃ信用が無くなるよ。
「そうだね、これは俺が出した指輪だった。本物だと思っていたんだけどな、調べてくれてありがとう」
何だか動揺している受付嬢。
「このまがい物はお返しできません」
「いいよ、どうぞ。何の足しにもならないから、差し上げるよ」
俺の反応に、狼狽える受付嬢。本来は食って掛かるのだろうね。そして、何かにつけて捕まる。そんな事はわかっているよ、浅はかだな。
立ち上がり、部屋を出て行こうとしたら数人の男が出てきた。
「兄さん、出られると思っているのか?」
「何もしていないけど、どうして出られないんだ」
「まがい物を出したからだ」
「それは違うよ。まがい物を出して、因縁をつけたら捕まるんだろ。それくらい知っている。俺は、本物だと思って出したけど偽物と言われ納得したんだ。さらに、その指輪を譲り渡したら何の問題もないだろ? 何だったら公の場所に出てもいいよ」
俺も伊達に四〇年生きていないよ。知らなかったら簡単に捕縛されていた。こいつらも頭悪そうだし、簡単に説き伏せることが出来て良かったな。
「そ、そうか。今後は気をつけろよ」
「ああ、そうする。行くぞファルタリア」
部屋を出て、他の者から睨まれながらギルドを出る。捕縛されなかったのが気に入らなかったのかな。
出た途端、ファルタリアが俺にすがり付いて来る。
「捕まらなくて良かったですね。偽物の指輪なんて出してはダメですよ」
ああ、やっぱり馬鹿だ。俺が出した指輪と戻って来た指輪の色にも気が付かないとは。
「違うよ。俺が出した指輪を違う指輪にすり替えられたんだ」
「ええぇ? では、抗議しましょう」
「それが手なんだよ。抗議したら今頃、捕縛されていたよ。他の町から来た者を、何かにつけて捕まえたいみたいだな」
「それは酷いですね、どうしますか? 戦いますか?」
「何もしないよ。面倒は御免だから、すぐに他の町に行く準備をしよう」
シャルテンの町を出て、旅行を始め、早々に変な町に来ちゃったな。こんな町は早く出て行った方が得策だ。明日にでも出て行こう。
宿屋に戻ると、コーマが部屋で待っていた。
コーマはゆっくり立ち上がり、俺に口づけをしてきた。濃厚な口づけをして、納得したのか満足したのかゆっくり離れる。
それを待っていたかのように、黙って見ていたファルタリアが俺に抱きついてくる。
はいはい、ファルタリアもだね。さっそく吸い付いて来たよ。俺も避けないで受け止めた。
恍惚の表情で離れるファルタリア。コーマは全く気にしていないでベッドに横になっている。
「ラサキさん、いいですねぇ。ウットリします」
「それは良かったよ」
「後は、コーマさんと合体していただいて、次に私がラサキさんの、んーこで合体ですね」
「ブッ、ばっ、馬鹿か? ファルタリア」
「え? ちんこって言っていませんよ。ラサキさんに止められているので、ちゃんと、んーこって言いました。ダメですか?」
「子供じゃないんだから、よく考えような。そういう事は言わないの。今後気をつけろよ」
「ええぇ? んーこでもダメですか? どうしたらいいのでしょうか」
コーマは気にしていないのか横になったままだ。ファルタリアは、そう言う事に対して馬鹿だから許しているんだろうか。ああ疲れる。
「そんなに悩む事じゃないだろ、言わなければいいんだよ」
「無理です、それは無理です。私からラサキさんのんーこを取ったら悲しいです。ううぅ」
ああ、泣いちゃったよ。ファルタリアは、馬鹿を通り越して変態なのかな。コーマもジト目で見ているから許してやるか。
「わかったよ。直接言わなければいいよ。どうしてもダメなら、心の中で叫べばいいさ。程々にな」
「え? はい、ありがとうございます。ラサキさん、やっぱり私が好きですね。いやっほーっ!」
前向きなファルタリアには、四〇歳の俺は負けました。どうしたらそんなに前向きになれるのだろうか。




