第 2話 神
よろしくお願いします。
コーマと生活を始めて、数日が経った。朝起きれば、俺の横には密着しているコーマがいる。
寝るときは寝巻を着ているのに、いつ脱いでいるのか、朝になると素っ裸で寝ている。
言っても聞かないので、わざと胸を押し付けたり、ふざけた事をしなければ気にしないことにした。
翌日の晴れた日。居間の椅子で寛いでいる俺は、横で果物を美味しそうに食べているコーマに、疑問にしていた事を聞いてみた。
「俺は、二〇〇年後の世界に飛ばされたけど、転移とか出来るのか?」
「そんな事出来る訳無いでしょ。時空間は歪められないわよ」
「でも今は、二〇〇年後だよな。どうやって飛ばしたのか?」
「私とラサキを二〇〇年後に移動させたわけじゃないよ。私は普通に二〇〇年を過ごしてから、ラサキをよみがえらせた。それだけ」
「へ? じゃ、俺は二〇〇年寝ていたのか?」
「うーん、そうじゃないの。なんて言うのかな、ラサキの意識が二〇〇年無かった、って事かな。意識があったら精神が年老いちゃうでしょ。体だけは、若返る事が出来るけどね」
「凄いな。誰にでも出来るのか?」
「出来ないよ、ラサキだけ。偶然、私に関わりあったからね。私は、契りを交わしたラサキ以外は、傍観しか出来ないの。手を出してはダメで、助ける事も何も出来ないのよ。それが自然の摂理。ラサキが私を見た時、私は何をする事も無く、普通に戦闘を観戦していただけだもの」
「なるほどね。でも二〇〇年も過ごしていたのなら俺より気になる人とか、好きな人とかできなかったのか?」
「出来ないわ。本来私は見えない存在なの。誰とも干渉しない、そして孤独。でも、何故かラサキには私が見えた。その事によって私に、好きになる、と言う自我が芽生えたみたい。勿論ラサキにだけ。だから二〇〇年間ラサキを待っていたの」
「二〇〇年も待っていたのか、余計な事願って悪かったな」
「いいのよ、つがいになってくれればね」
「い、一緒にいる事は同意したけど。それは、まだ待ってくれ。コーマの事を知らないといけないからな」
俺は飛んだ約束をしたもんだな。神を嫁にもらっていいのか? 容姿は申し分無く美しい、性格もいいから問題ないけど、もう少し考えるか。
待てよ、俺と会った時は五〇〇歳、さらに二〇〇年経ったって事は、七〇〇歳か……黙っていよう。
「ラサキ、また変な事を考えてる。私は一六歳よ」
「だ、だから勝手に人の心を読むなよ」
「ん、考えておくわ」
「コーマは神だよな。と言う事は無敵なのか?」
「ん? 無敵ではないし強くも無いよ。戦った事も無いから。なんて言ったらいいのかな」
「俺よりは強いだろ?」
「うん、そうだね。ちょっと外に出てみようか。ラサキは剣を持って来て」
俺は剣を持って外に出る。振り返ったコーマ。
「私に切りかかって来て」
「なるほど、強さを見せつけるのか。いいだろう、見てみよう」
俺は剣を構え、コーマに素早く踏み込み、剣を、上段から袈裟懸けに切り伏せる。
何も起こらなかった。
俺の剣は、当然の如く、必然の如く、当たり前のようにコーマの首筋から胸にかけて切り裂かれ、血しぶきが上がる。
「え? な、おい。冗談だろ? コ、コーマ?」
「……ゲフッ」
「おいっ、しっかりしろ、コーマ、コーマ!」
大量の血を吐き、崩れるように倒れるコーマ。剣を落とし、すかさず抱き上げる。虚ろな目をして、何も言わず消えて行くコーマ。
俺は、なんて事をしたんだ、と両手を地面に突き泣き崩れた。そして、膝立ちになり、泣きながら天を仰いだ。
「……コーマ」
そんな俺を後ろから、両腕が俺の首に回してくる。後頭部には、柔らかくたわわな双丘が当たる。振り向けば、双丘にうずもれる形になった。細く綺麗な腕が離れる。
「プハッ、コ、コーマ?」
変な声を上げてしまったよ。
「私の事を心配してくれたんだね。嬉しいな、好きよ、ラサキ。ウフフ」
「コ、コーマ。何が起こったんだ? 大丈夫か? 驚かせるなよ、心臓が止まるかと思ったぞ」
「これが神の実態かな。物質を作れるけど、私は体じゃないのよ。実体では無く意識、いえ精神そのものかな。万が一にも体が壊れれば意識だけが離脱して、また実態を作る事が出来る。体は痛みも感じるし感覚もあるけど、さっきみたいな大きな痛みは自動的に切断されるみたい」
「聞いてて良く分からないけど、凄いんだな」
「あ、ラサキの好きな夜伽の時は、私も十分感じるからね。子供は出来ない体だからいくらでも大丈夫よ。ウフフ」
「それは聞いていない。聞かなかった事にする」
「あ、赤くなった。ウフフ。じゃ、ラサキ。もう一回、切りかかって来て。今度は切られないから」
「本当に、大丈夫か? 二度も切るのは御免だからな」
「大丈夫よ、ラサキ」
もう一度切りかかるが、今度は切れない。コーマの体に触る寸前で、剣が弾かれるように切れなかった。
もう一度、と言うので最後に、連撃で切りかかったが、全て手の平でかわされてしまった。
コーマは言う。
「神は強くは無いよ。相手を無駄に殺生出来ないから。そして死なない。いえ、死ねないのよ。世の中の理を司り、数千年を渡り歩く。終われば消滅し、また新しい神が現れる。そういうものよ」
「で、そのうちの数十年だけ俺と一緒に暮らすのか?」
「うん。その間だけでも、ラサキとつがいになりたいの。いいでしょ?」
「さっきも言ったけど、一緒に暮らすのは承諾した。でも、すぐに嫁にするとは言ってないぞ」
「でも、考えてね、約束よ」
「あ、ああ。約束は守る」
「ラサキ、お腹すいた」
「そうだな、家に入ろうか、何か作るよ」
俺とコーマは家に戻り、今後の事など話し合った。
俺とコーマの日常生活が続く。