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第18話 果し合いだ

 噂を聞きつけ、数人の冒険者達も見に来ている中、ネリセルが俺を睨んでいる。


「ラサキの言う通り、鍛錬して私は強くなった。父さんの仇だ、絶対に殺してやるからな」

「いい表情だよ、でも女の子なんだからもっと優しい口調になったほうが、可愛い顔がもっと可愛くなるよ」

「うるさいっ! だまれっ!」


 ウルバンの立ち合いで始まる。


「両者しこりを残さない事。では、始め!」


 剣を構えるネリセル。うん、ファルタリアの教えが良かったんだろう、構えだけで強くなっている事がわかる。相当頑張ったんだな。

 さて、どれだけ強くなったか受けて見るか。

 ネリセルが突進して来て、勢いを殺さずに一撃二撃と連打してきた。速くていい打ち込みだよ、施設で上位に入ったのもうなずける。

 俺は剣で受け流し、隙をついて一度上段から撃ち込んでみる。ネリセルはすぐに反応し、剣で受けた。

 いい反応だね、反射神経もいい。何度か撃ちこんで来たけど、また剣で受け、今度は少し強めの二撃を打ち込めば、ネリセルは耐えられず後方に飛ばされる。

 体重が軽いな、それに足腰の強化がまだ不足しているようだ。十分強化されているけど、俺の打ち込みだと受けきれないか。

 ネリセルの攻撃を何度か受け、俺も二度撃ちこむが耐えていたよ。

 だがしかし、そろそろ幕引きだな。ネリセルの息が上がっている。今後の課題は、体力も強化したほうがいいな。

 ネリセルの一撃を、最後と決めた俺は、振りかぶられた剣を、正面から撃ち返した。後方に吹き飛ぶネリセ。真面に受けたんだ、手が痺れて剣を握れないだろう。

 近寄り、剣をネリセルに向ける。


「降参か?」

「ハァハァ、殺せっ! ハァハァ、チクショウッ! ハァハァ」

「頑張ったよ、ネリセル。でも、これは果し合いだ、分かっているよな」

「覚悟は出来ているっ! 殺せっ!」

「いい覚悟だ、ネリセル」


 まさか本当に殺されるとは思ってい無かったネリセル。俺が剣を振りあげた時に、初めて自分の短絡的な行いに後悔したようだね。私では勝てない、と。

 でも、もう遅い。


「さよならだ、ネリセル。ハアッ!」

「ヒッ!」


 殺気を放つ剣の風圧で、髪が揺れ、ネリセルのすぐ横を通り過ぎた。

 鋭い音と共に、地面に突き刺さる俺の剣。

 座り込んでいるネリセルの、足元から液体が地面に広がり、小さく身構え涙を流し震えている。

 俺はウルバンさんに声を掛ける。


「終わりだ、ウルバンさん」

「いいのか? 果し合いは殺してもいいのだが」

「俺の後味が悪くなるから止めておきますよ。後は任せました」

「勝者、ラサキ。これにて果し合いは終わりだ」


 観戦していた冒険者達も、俺の力量を図っていたのか満足してギルドに帰って行った。勘違いしているけど、それもいいか。

 その中に、頭から布の頭巾をかぶって顔を隠した黒づくめの男が一人俺を見ていた。


「ふーん、ラサキ、か。面白い男だな。またどこかで会うかもしれないな、覚えておこう」


 俺も、男は気にしなかったけど、腰に装備した、赤く綺麗な装飾を施してある剣は少し気になった。

 放心状態のネリセルを、休ませるのかギルドに運び込まれて行った。

 離れて見ていたファルタリアが歩み寄って来る。


「ラサキさん、ダメですよ。ネリセルは私より弱いのですから、手加減してください。可愛そうです」


 もうコーマも現れている。


「ファルタリア、ラサキは十分手加減していたわ。本来の力を二割も出していないもの」

「ええぇ? そうだったのですか。ラサキさん強すぎです」

「コーマのお陰だよ。だからネリセルを殺さずに済んだだろ」


 眼を輝かせて、コーマを見ているファルタリア。


「コーマさんに感謝です」


 ドヤ顔のコーマ。


「私は、何も出来ないわ」


 一段落して、俺も落ち着いた。


「皿食屋に行こうか」


 ギルドの前に俺達は、皿食屋に行って楽しく食べた。相変わらずコーマは二人前、ファルタリアは大盛りを注文し、二人とも追加しそうな勢いで食べている。

 そんなに腹が減っていたのか? いつもは我慢しているのか? 太らないのか?

 俺の気持ちを察知したコーマ。


「ラサキ、私は太らないよ。どれだけ食べても、ラサキの理想の体型を保っていられるから安心して」


 何だか俺は悪者か? 気づいたファルタリアも真顔で声を上げて言ってくる。


「ラサキさん、私も太りませんよ。フォックスピープルは一五歳で体型が決まります。それに、獣人は栄養の消費量が大きいので食べ過ぎてしまいますけど、その時は代謝が上がって太りません。安心してください、私はラサキさんの物です」


 あー、もう馬鹿だよ、周囲の人が俺を見ている。少し太目な人が睨んでいるし、数人の女性も冷たい眼をしているし、悪者扱いだな。

 少し自己嫌悪。自嘲します。


「い、いや、好きなだけ食べていいよ。俺は構わないから」

「そう、なら遠慮しないね。ウフフ」


 コーマが席を立ち注文をしに行く。その後を追うように、ファルタリアも席を立ち足取りも軽く注文しに行く。


「いやっほーっ! おかわりしてきまーす」


 現金な二人だな、よく食べるよ。でも、美味しそうに食べる二人を見ていると、俺も嬉しいから、今後は気にする事は止めよう。

 二人には、ゆっくり食べるように、と言って、俺だけギルドに向かった。俺と一緒のファルタリアが、ネリセルと鉢合わせにならないように、念のためだ。

 ギルドに入り、受付にいたレニに、シャルテンの町の周囲の町について聞いてみた。


「レニ、シャルテンの町から直接行ける町は何処だ?」

「はい、東に向かう街道を進むとマハリクの町。途中で左に別れる街道を行けばヴェルデル王国。北東に向かう街道を進むとエランテの町になります」

「そこに行って、何か問題のある事は無いか?」


 レニ曰く、ヴェルデル王国は帝国との戦争が始まるかもしれないから、特に用事でもない限り行かない方が賢明。

 マハリクの町も、理由は分からないがここ数ヶ月連絡が途絶えている。エランテの町は元々交流がないので行ってみないとわからない。


「なあ、レニ。この町から出て行く人はいないのか?」

「商人や冒険者以外いません。先日、帰って来た冒険者に聞いたところ、シャルテンの町が一番安全との事です。住人は、町を出てもラサキさんのお店に行くのが精一杯でした。残念ですが」

「閉店した事は悪かったけど、住みやすいのはこの町だけか、ありがとう」

「どういたしまして」


 ギルドを出て町中を歩き考える。

 途中で、満腹なのか満足した表情のコーマ達と合流した。

 ヴェルデル王国は、先日の王女との一件があるから行きたくないな。

 マハリクの町は、交流があったにもかかわらず、音信不通と言う事は、ヴェルデル王国の戦争か、他の何かに巻き込まれたかだろうな。

 消去法で行けばエランテの町しかない。

 じゃ、エランテの町に行ってみようか。

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