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第30話 宴

 見学しながら歩き出す。

 天井から豪華なシャンデリアが釣り下がった一階は、パーティ用だけに造ったような広間だけで、二階に浴室などの水廻りになっている。

 一般の家と違い、一回りも二回りも大きく豪華な装飾品で飾られた、洗面、トイレ、浴室があった。

 三階は、廊下からだけ見学が許された。サリエン王女の寝室と専用の居間があるらしい。

 それと予備の部屋なのだろうか、もう三部屋あった。執事と客人用らしい。

 一通り見回ったから、もういいや、細かい部分は見る気も無いしさ、後は出てくる料理に期待しよう。


 広間には数十人の騎士や侯爵、夫婦か家族か、着飾った女性も多くいた。

 壁際には椅子が並べられて座っている人もいる。疲れる人もいるからか。


 間もなく執事の一言でパーティが始まった。


「ようこそサリエン・ギイ・ヴェルデル第三王女の別荘新築祝いの席へ。しばらくは、並べられた料理や飲み物で御もてなしいたしたい、と存じます。それでは暫しご歓談くださいますようお願いいたします」


 立食形式で十人は立てるテーブルが十数卓あり、壁際の長テーブルには、様々な料理が並べられていた。

 その横には自身で注ぐ飲み物もあり、メイドに注文しても、どちらでもいいようだ。

 さて、早速食べてみようかな。

 並べられている料理を眺めに行こうと歩き出したら、問題が発覚した。

 遠巻きから三人を食い入るような多くの視線は感じられてはいたのだけれど、近寄ってくる様子、気配もないので気にしないでいた。

 三人ともこの場では、群を抜いて他を寄せ付けない美しさだったから、余計に目立ってしまったようだ。

 パーティが始まった事を合図にしたのか、押し寄せて来た男どもに、三人が取り囲まれ徐々に別々に離されて行く。

 三人にとっては避ける事も逃げる事も、殺気、威圧を放って寄せ付け無くする事も容易いけど、今回は事を荒立てないように、我慢するように言っておいたから、されるがままだった。

 ――三人とも頑張れ。

 俺には誰一人近寄っては来ない――事も無く、三人の着飾った二〇才程の女性が歩み寄って来た。

 先頭の金髪ストレートで、目鼻立ちの整った黄色い衣装を着た気品の高そうな女性。


「あのー、失礼ですが、ラサキ様――で宜しいのでしょうか」

「ああ、ラサキは俺ですけど」

「何と言う幸運なのでしょう。国を救った英雄にお会いできるとは思いもよりませんでしたの」

「いえ、英雄でもないし、何でも無い男ですよ」

「そのようなご謙遜をされても、貴族間では今でも有名ですわよ」

「いや、止めてください、恥ずかしいので。でもその一件は俺では無く仲間も一緒だった事もあって辛うじて辛勝したのですよ」

「ええ、あちらの御三方でいらっしゃいます事は存じ上げております」


 三人を振りかえれば、知り合いになりたい、だの、今度屋敷に招待する、だの、恋人はいるか、だの聞こえて来た。

 凄い競争率だな――すみませんね、すでに俺の嫁だけど……。


「そうですか。今ではいい嫁達ですよ」

「え? よ、嫁……達。と?」

「はい、三人は俺の嫁ですけど――何か」


 右手を額に当て、ヨロヨロ、と後ずさりし後ろの二人に支えられる女性。

 正気に戻ったのか、すぐに気を取り直したようだ。


「い、いえ、何でもございません事ですの。あ、所要を思い出しましたの。で、ではごきげんよう。オホホ」


 元居た場所に戻って行った。なぜだか肩が落ち疲れたように、項垂れて見えたのは気のせいだろうか。

 ファルタリアを見れば、美しい笑顔は健在で、社交的だからなのか一番多くの男どもに囲まれていた。

 サリアはやはり苦手なのか、表情は冷たくても話はしている。

 それがいいのか囲んでいる男どもは嬉しそうだ。

 ルージュは話のやりとりが上手く、まじめな性格だからか一人一人としっかり受け答えしているので、囲まれているのではなく、いつの間にか一列に並んでいた。

 ああ、たまにはこういう雰囲気も新鮮味があっていいのかな。

 辺りを見回せば、他の女性達から嫌な眼で見られている。中には小さな殺気を放っているし――。

 これじゃ無理も無いな。可愛そうだしそろそろ三人を呼ぼう。


「ファルタリア、サリア、ルージュ、何か食べよう」

「はい、ではみなさん、旦那様が呼んでいるので失礼します」

「夫のラサキが呼んでいるがや、失礼するがや」

「ボクの亭主様に呼ばれてしまったので、後ろの方には申し訳ありませんがこれで失礼します」

「「「え?」」」

「私はラサキさんの嫁なのです」

「あたいはラサキの嫁がや」

「ボクはラサキさんの嫁です」

「「「 えぇー? 」」」


 誰一人知らなかったようで、急に落胆する貴族の男ども。

 それに引きかえ薄ら笑いを浮かべ、いい気味だ、と言わんばかりの眼で見ている周囲の女性達。

 おお、こうも手の平を返すように豹変するとは――少し怖くなった。

 事実を周囲に知れた事だし、これで心置きなく料理が食べられる。

 テーブルに行って見れば、大中小の取り皿が置いてあり、好きな更に好みで盛りつけ、食べるようだ。

 無くなる前に食べないと――ん?

 誰一人手を付けていない、いや、正確に言えば近寄っても来ない。

 飲み物は、取りに来たりメイドに頼んだりして飲んではいたけど、食べる事、手を付ける事が、恥ずかしいのか、恥なのか、自尊心が高いのか誰も近寄らない。

 だが、しかし、俺を含めた三人にとっては関係無い事だったので、お構いなしに大皿を盛りつけ始める。

 肉や魚料理を、女性が食べる量とは程遠く山盛りにしてテーブルに戻り食べ始める。

 俺には大皿は無理そうなので酒と中皿につまみ程度の肉料理にしておこう。

 三人の、飾りつけなど気にせず、山のように盛っただけの飾り気のない大皿がテーブルに三つ並んでいる。


「いただきまーす、あむ、美味しいですぅ」

「いただくがや、あむ、ん! 美味いがや」

「では頂きます。あむ、うえ? とても美味しいですね」


 俺も酒をあおり、肉をつまんで一口食べた。

 うん、美味いな。さすが王国の料理、と行った所か、味付けが繊細で手の込んだ作りだ、とすぐに感じた。

 酒も高級なのか、町で売っている酒とは違い、濃厚でこれもまた美味い。

 この酒も帰りに貰って帰りたいな。後で王女にでも頼んでみるか。

 それくらいいいよな、特に建てるための金銭なんて取っていないし、解体費用もまだだしさ。

 横の三人もいつもの如く、変わりなく、変化なく、怒涛の勢いで平らげお代わりしに行った。

 冷やかした眼から、驚愕する眼に変わった周囲の事など、お構いなしに再び山盛りにした大皿を嬉しそうに持ってきてまた食べ始める三人。

 周囲も驚愕していた眼で見ていたけど、美味しそうに、嬉しそうに、楽しそうに、美味しい美味しい、と食べている、この場の違和感など無い三人を見て、食欲が勝ったのか一人の女性がメイドに頼み、小皿で上品に乗せた料理を食べれば、美味しい、と言った。

 それを聞いた一人、また一人、そして数人、更に多くの人が料理を食べ始めた。

 なんだ、初めから食べればいいのに。よし、俺もお代わりしようか。


 そして一時。

 美味しい料理でお腹も満たされ、ほぼほぼ終了し、一息つく会場。


「ご堪能いただけていますでしょうか、これよりサリエン・ギイ・ヴェルデル第三王女がお目見えされます」


 二階の廊下から見下ろしながら階段をゆっくり降りてくるサリエン王女。

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