第29話 招待
パーティには半強制的に招待されたのだけれど、書面には、正装して出席、と書かれていたので従うしかない。
武装した正装は持っているけど、パーティ用なんて持ち合わせが無かったから、先日シャルテンの町に行って四人分の正装衣装を購入して来た。
その時の事。
俺はここぞとばかりに一番の高級な店に行って、さらに高級な布の衣装を購入するように三人に言った、願った、懇願した。
「金貨を消費するいい期会だ、頼む、これは贅沢では無いよ、招待されたのだから義務だと思って高い服を購入してくれ」
三人も納得してくれたのか、綺麗な衣装に見惚れていたのかは定かではないけど、肯定してくれた。
その甲斐あって、この店の上位に入る高級な絹の衣装を、採寸して誂えで購入してもらった。
お陰様で金貨五〇〇枚程が消費された。微々たる量だけど、これでも大きな減になった。
コーマにも言ったけれど、興味はないらしい。正確に言えば、好きな衣装を自身で作れるし着られるから。
そうなんだよな、神なのだから、着ようと思えば一度消えればどんな服でも思いのままだった。
コーマの欲は、俺と料理だけのようだ。こうなったらしっかりお土産貰ってこないといけないな。
そして、行ってらっしゃい、と言いながら口づけして消えて行った。何の文句も言わないコーマに感謝だ。
着替え終えた三人。
ファルタリアは、体のラインを強調したタイトな赤いドレス。
毛並みの良い大きな尻尾にも上手く合っていて、金と赤のコントラストも美しい。
サリアは、スレンダーさを見せつける、可愛らしい青のドレス。
透き通った白髪を強調していて、白と青の爽やかさも可愛らしく素晴らしい。
ルージュは、はち切れんばかりの破壊兵器を、これでもか、と見せつける、ボン、キュッ、ドドーンをメリハリよくした紫のドレス。
紫の髪と合わせ、とても似合っていた。決して贔屓している訳では無いのだけれど。
――ルージュのスタイルは最強だ、と思うのは俺だけだろうか。
三人を、どんな時でも、どんな姿でも、どんな格好でも、いつも見ている俺が、その美しさに圧倒されるのだから、会場ではどうなる事やら。
ちなみに俺は、紺のスーツです、はい。
全員装備は外して持っていないので丸腰だけど、サリアとルージュは問題なし。
俺も身体強化しているし素手でもほぼほぼ勝てる。
ファルタリアも強いけど、念のため、一応念のために少し大きめの扇子を持たせてある。
この扇子は骨組みが鉱物で作られている。
少しだけ重いのが難点だけれど、ファルタリアにとっては至って普通の扇子だ。
開いて団扇として扇いで使っても良し、閉じて振り回せば鉄扇という立派な武器になる。
使用しない時は腰の後ろに差しておけば気にもならないだろう。
ファルタリアは、嬉しそうに尻尾を大きく揺らしながら歩いている。
「ラサキさん、どうでしょうか」
サリアも綺麗な白髪を揺らしながらその後ろを歩いている。
「どうかや? 似合っているかや?」
ルージュは、窓に向かって体を揺らしタユンさせながら窓に映る自身を見ている。
「着慣れない衣装です。大丈夫でしょうか」
いつになく着慣れない三人。なら、たまには褒めておこうか。
「三人とも美しいよ、綺麗だ。俺も惚れ直したよ」
刹那、動きづらいのにファルタリアが飛びつくように口づけしてきた。
「んー、嬉しいです、もっとデレて下さいよ、私はいつでもいいですよ、んー」
正装したファルタリアに口づけされるって――これもいいかな。
次に後ろで待っていたサリアが俺の首に両手を回す。
「ラサキ、あたいは胸が無いがや。いいのかや?」
「何言っているんだよ、サリアは可愛い嫁さんだよ」
「んー、嬉しいがや、んー、幸せがや、んー」
――これもまたありだな、うん。
最後のルージュが、オズオズ、と近寄り上眼使いになりいきなり抱きついて、強く唇を奪われた。
「んーっ! ボクはラサキさんだけです。んーっ、ボクを嫌わないで下さいね、んーっ」
「プハッ、ル、ルージュ。嫌うなんて事無いし、可愛いルージュだよ」
「う、嬉しいです、んー」
たわわな双丘が――うんうん、ありありです。
三者三様でパワフルだった。パーティに行く前に嬉しい疲れが出た気がした。
会場では何事もありませんように、節に願います。
日も傾きかけた頃、家からサリエン王女の別荘まで歩いて行けば、町の住民達が挨拶してくるのだけれど、見つめる眼が痛く突き刺さっている感じがした。
後ろの三人は、全く気にしている様子はなく、既に料理の事など、嬉しそうに談笑しながら歩いている。
俺も見習わないとな――その図太さに。
しかし本当に、実際に、現実的に綺麗な三人だ。
着飾った正装衣装に、美しくも完ぺき、スレンダーで妖艶、ダイナマイトで悩殺、するような三人。
俺はつくづく幸せだ、と感じていたよ。後ろを振り向きながら歩く俺に、気が付いた三人が話を止め俺を見る。
ファルタリアが笑顔で両手を前に広げる。
「ラサキさん、デレ手もいいのですよ。飛び込んでくださいよぉ、抱きしめますからぁ。エヘヘ」
サリアは急に胸を、ワシワシ、とさせるけど嬉しそうだ。
「ラサキ、この衣装で気分も変わるがや、胸揉むかや? 今揉むかや? アハハー」
ルージュはサリアと同じようだけど、ワッサワッサ、とさせている。
「で、ではボクの贅肉も蹂躙してください、いいですよ、この場でも、はい」
「誰も聞いていないからって大胆だな。止めておきなさいって」
俺が恥ずかしくなった。
別荘が見えて来た。
サリエン王女の家の周りには、豪華な黒塗りの馬車が十数台、好き勝手に並んでいた。
これは邪魔だな、いくら端の場所だからって迷惑だよ。
そう思っていたらまだ来る。招待しすぎじゃないのか? それより家に入れるのか? まあいいや、所詮他人事だしさ。
入口に立っている数人の騎士の一人に招待状を見せる。
「ラサキ殿か、お入りください」
「あ、外に好き勝手に止めている馬車を向こう側の空き地に並べてもらえるかな、邪魔だからさ」
「あ、いや、私どもでは無理だ、そのような事は言えんのだ」
「大変なんだな、了解したよ」
権限の無い騎士に行っても無理か。この問題は一先ず置いておこう。
両開きの扉が開かれ中に入る。一階は、ほぼほぼ、広間だけだった。これなら十分な広さがあるな。
二階へ続く階段が二つ左右に対称してあるだけ。
反対側の扉からは使用人やメイドが忙しなく出入りしている。
あ、あの扉の向こうは勇者一行の住んでいた家に続いているようだ。料理や飲み物は向こうから持ってくるのだろう。
パーティが始まるまで、家の中を見て回っていいらしいので、さっそく見て回ろうか。




