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第26話 手合せが始まる

 一口、口に入れれば初めての味と食感で、とても美味かった。

 多種の野菜をふんだんに使って煮込みの元をじっくり、コトコト火にかけ、肉を入れ、更にコトコト火にかけた味だな。

 手間を掛けているのが十分にわかる深い味だ。これは美味いな、作るのも大変だろうに。

 気に入ったよこれ、うん、美味い。

 食べているサリアとルージュも喜んでいた。


「これは美味いがや、凄い美味しいがや。あむ」

「うーん、美味しいですね、初めて食べました。美味しい料理はまだまだありますね。あむ」


 一方ファルタリアとコーマの手ごねステーキは、肉を細かく粒状にして練り込んで、手で成形したのだろう、丸く肉厚の形にして少し焦げ目をつけて焼いてある。

 その上から煮込みに使った元を更に水分を飛ばし濃厚にしたタレを掛けてあった。

 あ、見ただけで美味しい、と感じるよ。


「この料理、美味しいですよ、あ、お肉もとても柔らかいです。あむ」

「美味しいね、ウフフ。あむ」


 俺は味わいながら堪能し、次回は手ごねを食べようと思っていたら、四人はお約束のお代わりをしに行って、結局今日だけで両方を食べた。

 楽しみは後に取っておけばいいのに……。

 そう思っている俺の気持ちとは関係なく、お構いなしの四人は、美味しい美味しい、と皿食を堪能していたよ。

 食べ終え飲み物を飲んで、一息入れ談笑していたら、皿食屋に明かりが灯り、辺りは暗くなってきた。

 辺りを見回せば、道幅は狭いもののシャルテンの町の雰囲気と同じようだよ。

 ほのかな明かりでいい雰囲気だな。村でもいいのだけれど、俺としてはこれから町と呼ぼうかな。

 帰り際に街道の方を見たら、向こう側から勇者一行がこっちに向かって歩いて来ている。

 あ、こいつらもこの皿食屋で食べていたのか。

 声を掛けられても面倒だから、気配遮断して、そそくさ、と退散した。


 翌日、今日は勇者一行との約束を守る手合せの日だ。

 邪王リコには、信頼しているファルタリアから話をしてもらったから、二度返事で了承してもらっていた。

 だがしかし、デスナイトとの手合わせで、もしデスナイトが倒されそうになったら、自ら参戦する、手助けする、守護する、とこれだけは譲らなかった。

 うん、何となくわかるよ。

 前回俺達が殲滅した魔獣とはいえ、悲しがっていた邪王リコにとっては、愛着のある部下たちだったのだろうから致し方が無いか。

 でも最悪の時は、俺も出るしかないけど、それまでは勇者一行の働きとファルタリアたちに任せよう。

 俺達は一足先に鍛錬場に来て、勇者一行を待っていれば邪王リコが、家というダンジョンから、テケテケ、と可愛らしく歩いて来た。

 今ではファルタリアと邪王リコはとても仲が良く信頼して知るようだ。

 ちょっとじゃれ合っていたか、と思えば、邪王リコが突然凄まじい攻撃魔法をファルタリアに向けて放つ。

 しかし、無効化されて魔法が消える。


「コラコラ、リコちゃん。おいたはダメですよ」

「アハハー、ファルおねーちゃんごめんなさい」


 凄い攻防だけれど、慢性化したのか、麻痺したのか、慣れているのか、サリアとルージュは気にも留めず、魔法の事など話し合っていた。

 ――何だかなー。

 今コーマは家で寝ている。気にしないで行ってらっしゃい、と言ってはくれたけど、やはり面倒事は嫌なようだ。

 早く事を済ませて帰ろう。


 勇者一行が軽快にフル装備でやって来た。魔王かドラゴンでも倒しそうな勢いで……。

 無理だろうけどさ。先頭のラーンベルガーは、相変わらず爽やかな笑顔だ。


「やあ、ラサキ。お言葉に甘えて来たよ」


 ハァ? 何に甘えているんだ全く。

 ――まあいい。


「では準備してください。ちなみに手合せするデスナイトはあっちで畑を耕しています」


 知らなかったようで振りかえる勇者一行。

 言ってから振り返るって、気配感知とかで気が付かないのかね。


「あれか、本当にデスナイトだ。一体で一国が亡ぶ魔物か」


 バルバロッカも驚愕する。


「あのデスナイトが畑仕事など、見た事どころか聞いたことも無い、それも二体も」


 ラベルラガーデも信じられないようだ。


「あれを使役している者がいるのだろ? ラサキでなければ誰なんだ」


 リリースマロンはサリアに感化されているのか、至って冷静だった。


「もしかしたらサリア様かもしれないわ。私もその域に達してみたい……」


 あ、サリアは聞こえていたようだけれど、無視してルージュと話をしていた。何かと面倒なのだろう。

 ラーンベルガーが、少し離れた所でファルタリアと遊ぶ邪王リコに眼が止まった。


「ラサキ、あの子は誰かな?」


 嘘を言っても後々面倒だし、仕方がないので正直に答えよう。


「デスナイトを使役している邪王、ゼグ・リコッサザニエです」

「何だって? 邪王だって? 魔王では無く邪王と言う魔物の王がいるのか。確かに頭には二本の角が生えているけど……安全なのか?」


 これは難しい質問だ。

 さっきみたいに遊び気分で放つ攻撃魔法だけど、勇者達に向けて放ったら厳しいだろうし、全滅するかもだし、死んじゃうかもだし、いや死んじゃうし、どう答えようか。


「安心ですよ、俺達といれば。ただし、彼女には絶対に挑発はしない事。声も掛けない事を守っていただければ、ですけど」


 俺は補足して勇者一行に、魔王はファルタリアが一人で倒した。邪王も改心して、今ではこの先のダンジョンに住んでいる。

 ドラゴンに関しては、全く関係無い事を話した。

 俺の話を聞いて、ラーンベルガーよりバルバロッカが食いついた。


「ファルタリアが魔王を倒しただと? それも単独で戦って倒したと言うのか」

「はい、その通りです」


 バルバロッカは肩を落とし、ファルタリアを見る。


「勝てない訳だな――納得したよ」


 あ、やばいな。俺達との力量の差に疑問が出そうな雰囲気だ。

 だが、しかし、勇者一行は気にも留めていないように手合せの話になった。

 フゥ、取り越し苦労だったな。

 またも爽やかな笑顔のラーンベルガー。


「よし、俺達はいつでもいいよ。手合せを始めようか」


 後ろの三人も肯定していた。

 あー、ちょろいのか。

 爽やかだけれどちょろいのか。疑問も持たないのだから、ちょろいのだろうな、うん。

 邪王リコに話をして、デスナイトに来てもらった。今のデスナイトの装備は、鍬では無く重厚な剣と頑丈な盾を持っている。

 ちなみにもう一体のデスナイトは、手合せ、と言う鍛錬の事など気にも留めずに、今も畑仕事で精を出している。


 勇者一行とデスナイトが対峙する。

 デスナイトは、畑仕事をしている時と違い、戦いの場に立ったことを感じたのか、本気になっているようで、威圧、威嚇、殺気、を放つ。

 俺としてはいい感じで、戦闘モードになるデスナイトを見た。

 勇者達も動じていないようだったよ、さすが勇者。


「お、これならいい手合せになりそうだ。やっぱり勇者達を見くびったらダメだな」


 隣でファルタリアが驚いた表情で俺を見る。


「ええぇ? ラサキさん、何を言っているのでしょうか。以前話したように勇者さん達は弱いから負けますよ」

「そうがや、弱いがや、全滅がや」

「ボクもそう思います。死にますね」


 何だよ、全員否定的な態度して。

 確かに勇者達は弱いと分析したけど、手合せする気満々なんだから、何かしら隠し玉があるんじゃないのか?

 そう思いながら一行を見れば――あ、ダメそうだ。

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