第24話 対戦相手
俺は緑の濃い小道を帰りながら考えた。勇者ラーン達は手合せがしたいって言っていたよな。
前回負けたから勝つまでやるつもりか? 今は暇しているから用事が出来るまで帰らないつもりか?
さてどうしよう、前向きに強くなりたいなら、邪王リコと遊ばせようか。
あ、それいいな。
加減の出来ない邪王リコ。フフフ、自分たちの弱さを痛感させられたらどうするのかな。
うん、面白い、そうしよう。
もう全滅してもいいや、その時はその時だ。
もやもやした問題も解決し、気分も良くなり歩調が軽く楽になった気分だ。
我が家に帰って三人に、事の発端から顛末を話したら、ファルタリアを筆頭にやる気がみなぎっているようだった。
「ラサキさん、今度は気にしないで、私達の実力の差を見せつければ諦めるのではないでしょうか」
「そうがや。リコの前にあたい達の力の差を見せつけるがや」
「ではボクも、サリアさん以外で初めて全力を出しましょう」
偉くやる気のある三人だった。
「あ、いや、君達が強いのは俺も十分知っているし、下手に理不尽な強さを見せつけて良からぬ噂を広げられてもこっちが困るから却下。けど、一対一ではなく、一対四でリコと戦えばいい勝負にならないかな」
「全くなりません、なる訳ないです」
「ならないがや、弱すぎるがや」
「ならないと思います、確実に、絶対に死にます」
即答なのね。
「そうか」
全滅してもいいと思ったけど、勇者一行が可哀そうに感じた一瞬だった。
――気を取り直して考えよう。
弱いのか。四人がかりでも、邪王リコより弱いのか。
確かにファルタリア達の遊びは尋常ではないレベルだ。それを踏まえ考える。
――うん、弱いな。
――あ、閃いた。
「リコに頼んでデスナイト対勇者四人ってどうだ?」
ファルタリアは、可愛い耳を、ピコッ、としてたけど、いつになく冷たい表情だ。
「うーん、まあ妥当ですね。でも手合せと言うより、生き死に、の戦いになりますよ? 微妙に勇者さん達が弱いので」
「一度全滅してみればいいがや」
「サリアさん、死んでしまったら生き返れませんから、元も子もありませんよ。一応勇者だから、何かと問題になります」
「気にしないがや、興味ないがや」
「おいおい、あれでも勇者だぞ? 四人がかりで戦ってもデスナイトより弱いのか?」
「弱いですよ、確かです、はい」
「少し届かない弱さがや」
冷めたファルタリアとサリアを見て、ルージュが以前行った手合せを、見た限り、でデスナイトとの差を説明してくれた。
攻防は激戦にはなるが、悲しいかな勇者達の魔法は効かない。
なので魔道士リリースマロンは治癒、回復以外は戦力外で後方支援に回るしかない。
弓士ラベルラガーデも矢の攻撃は論外で、魔法の矢も無効化され剣の攻撃も弱い。
結局、剣士ラーンベルガ―と戦士バルバロッカの二人の物理的攻撃だけしかない。
一応効き目はあるが、体力の差は歴然でデスナイトに軍配が上がる。
回復魔法、治癒魔法を出し惜しみしないで掛けて戦えば、もしかしたら、偶然で、奇跡的に勝てるかも――しれない。
ただ、四人が隠している、奥の手、奥義、秘技、必殺技など決め手があれば判断外。
それがダメだったら、疲労が無いデスナイトは攻防を続けられるから、勇者達の魔力が尽きた時、負けが確定する。死、全滅、と言う負けが。
ルージュの冷静な説明を聞いて驚いた。凄い解析能力だな。これも魔法鍛錬の賜物だろう。
しかしなぁ、これもダメとなると、必然的に、確実的に、絶対的に俺達との手合わせになるよなぁ。
かと言って、勇者一行を叩き潰す気満々の三人には任せられないし。
結局、白羽の矢は俺に刺さるのか。悩んでいる俺に察知したようなファルタリア。
「では私がフォローしますよ。ラサキさんの手を煩わせてもいけませんから。エヘヘ」
ファルタリア曰く、デスナイトと勇者一行の戦いを近くで状況判断し、劣勢になって厳しくなったら手助けする。
決してデスナイトは自身で倒さず、常に補助する形で行えば何とかなるのでは。
「おお、いつになく冴えているよ。ファルタリアらしくないな」
「ええぇ? 私、いつもそう見られていたのですかぁ? 悲しいですよぉ」
「あ、いや、悪かった。さすがファルタリアだ」
「エヘヘ」
褒められて、嬉しそうに大きな尻尾を揺らすファルタリアを見て、負けじとサリアとルージュが参戦した。
「あ、あたいもやるがや」
「ボ、ボクも協力しますよ」
「ああ、二人共ありがとう。なら後は、リコに頼むだけだな」
ただ心配もある。いくら俺達と一緒だとしても、デスナイトを目の前にしたらどうなるか。
前もって話をつけておかないと大騒ぎになる事は確実だ。
――けど、めんどうだからいいや、その時はその時だ。
勇者一行に、いちいち気を使っても何の得にもならない。
結論、勇者任せ、行き当たりばったりに決めた。
ここ数日、リコだの、王女だの、勇者だの、と余計な荷物の事でコーマをかまってあげられない。
と言う以前に、お勤めに行ったまま帰ってこない。こんなに長く姿を消しているのは初めてだった。
本当に忙しいのか、何処かで傍観しているのかは知らないしわからない。
帰ったら謝罪しないといけないかな。
そう思いながらも三人とのお勤めは、しっかり守って可愛がっています。
ファルタリア達が早朝、狩りに出て行ってすぐにコーマが帰って来た。
眠っていたけど気配を感じ、目を瞑ったままでいたら、寝ている俺の上に覆いかぶさり起こすコーマ。
「ラサキ、ただいまー。んー」
「ん? コーマか、おかえり」
「寂しかった?」
「ああ、勿論さびしかったよ」
「嬉しい。んーっ」
で、結局順番も関係なしに、日差しの差し込み始めたベッドで、久しぶりにコーマを可愛がりました。満足した様子のコーマだった。
その後もファルタリア達が帰ってくるまで、いつも以上にイチャこいた事は言うまでも無い。
最近のファルタリア達は、狩りに行って獲った獣の肉を血抜きし、さばき、自宅用と分けて住民に売りに行ってから帰ってくる。
働き者のいい嫁だよ、本当に。
最近俺って最低な事しているのかな。
嫁だけ働かせている俺はコーマとイチャこいているし……うん、最低だ。
「いいのよ、ラサキの好きにして。ウフフ」
「いや、ダメだろ、夫として、男として最低だろ」
「それもラサキの考えの一つよ。ウフフ、私はいいのよ、今が楽しいし」
「コーマはいいかもしれないけど、――三人が帰ったら会議でもしようかな」
昼食を作りながら待っていたら、暫くして三人が、元気よく扉を開き帰って来た。
料理も出来上り、イチャこいて料理の邪魔をしていたコーマは、丁度席に着くところだ。
「ただいま帰りましたー。あ、コーマさん久しぶりですねー」
「ただいまがや、元気かや?」
「帰りました。コーマさんもご苦労様です」
「ウフフ」
お腹を空かせた三人は、装備を外し手を洗って、さっそくコーマと一緒にパクついた。




