第21話 森の日常
ドラゴンと戦った邪王リコの母、源王。
結果、負け、はしたけど途中までは、互いに負けず劣らず拮抗していたくらい強かったように見えた。
あくまでも遠巻きに見た範囲の憶測で。
おいおい、冗談は止めてほしいな。
あのドラゴンと戦ったって? 激戦で拮抗したって? あの非常に硬質な鱗だぞ? 俺はあのドラゴンには勝てない、勝てる気がしない。
だから戦うつもりも無い。
どれだけ強いんだよ、話が本当なら俺は源王、真祖の魔王には勝てないと思う。
「リコ、源王はどんな母親なんだ? リコとは違うのか?」
申し訳なさそうに下を見つめる邪王リコ。
「いえないです。ごめんなさい」
「あ、いや、無理には聞かないよ、悪かったね。仕方がない、その時はその時だ」
気にしていても仕方がない、と話しも変わり、その後はファルタリア、サリア、ルージュと楽しく会話も弾んだ。
楽しいひと時は、時間が経つのも早く、リコの家を後にする。
また来てください、と邪王リコは言い、また来るね、とファルタリアが言って別れた。
すぐ近くだから行き来も楽だし、何か問題でもあったら三人が何とかしてくれるだろ。
小さな可愛い女の子だけど、邪王と言う魔族の大きな荷物が舞い込んで来たな。
帰り道は、日も沈みかけ赤く染まった幾つもの綿のような雲が、ゆっくりと流れている。
――静かに時が流れているような気がした。
前を並んで歩く三人は、今日の事を談笑しながら歩いている。
久しぶりの新しい出来事なので楽しかったのだろう。
ここ最近は腕を組んで歩かなくなっている事に気が付いた。
嫁としての自覚を持って来たのか、気持ちが大きくなったのかは知らないし聞かない。
俺としてはいい事だと思うよ。
夜のお勤めはしっかり守っているし、その時は、これでもか、とイチャこいて可愛がっているからそれで十分だろ。
何にしても、充実している生活な毎日で楽しい。
直近の問題は、覇王レムだ。
邪王リコには言わなかったけど、ドラゴンは古巣に帰ってもういないから、実質失敗なんじゃないのか?
まだ幾つか魔石を持っているのか不明だけど、練り込むための剣は俺が持っているのだから増える事はない。
覇王レムには、俺の住むレムルの森の事は何一つ教えてない、言っていないのだから多分来ないと思う、思いたい、思いたいのだけれど……。
そんな事は、俺の思いと関係なしに、お構いなしに、何も起こらず平和な二ヶ月ほどが過ぎた。
慣れた生活に付け加え、週に一度鍛錬場で三人と邪王リコが遊ぶ。
その間は交互に、我が家に来たり、邪王リコの家に行ったり、とした生活リズムが加わった。
コーマもその生活に合わせ、邪王リコが関係するときは、お勤めに行ったり、消えていたり、家で寝ていたり、と相変わらず俺達以外と接触していない。
これはこれで大変だし迷惑を掛けていると感じ、邪王リコの事は三人に任せ、コーマとイチャこく時間を多くした事は言うまでもない。
街道の向こう側も着々と家が立ち並び始めている。
早くも十数軒は完成し、建築途中の家も多く有り、街並みが形成されてきた。
住民を始め、職人や商人が大勢行き来し、活気に満ち溢れていた。
水の調達は、川から離れた場所では何かと不便らしいので、至る所に井戸が掘られていた。
商店、雑貨屋も増え、そしてついに皿食屋が一軒開業した。
今は職人や住民でごった返しているので落ち着いたら食べに行って見よう。
もしかしたら今後、更に増えるのかな。
こうなるとファルタリア達も肉の調達する量が必然として増える。
これはファルタリア達の力量からすれば問題では無い。
問題なのは猪や鹿などの獣の減少、最悪は絶滅が懸念された。
だがしかし、それは俺の取り越し苦労に終わる事になる。
一度森で妖精のレズリアーナさんに聞いてみた所、妖精や精霊の住む森は、野菜や果物が豊富に育つのと同じで絶えず獣も訪れる。
獣が狩られ、居なくなればその縄張りが無くなるので、絶えず訪れた獣が居着く。
この程度ならレムルの森と周囲の樹海で十分事足りる、との事。
ただ最後に、テヘペロ、と一言付け加えられた。
「なのでまた媒体になってくださいね。エヘヘ」
「いつでもどうぞ、お安い御用だ」
――更に一ヶ月が過ぎようとしていた。
日差しが差し込む我が家。
早朝からファルタリア達三人は狩りに出かけているので、寝ているのは俺とコーマだけ。
起きてはいたものの、もうすぐお勤めだから、とイチャこいていた。
そして朝食の準備に取り掛かろうと起き上がればコーマも起きる。
「行ってきます。ウフフ」
「ああ、気を付けて」
「んー」
朝食が出来上がり、テーブルに並べていればファルタリアを先頭に三人が帰って来た。
「ただいま帰りましたー」
「ラサキ、帰ったがや」
「ラサキさん、戻りましたー」
「丁度出来上がったところだ、手を洗ってどうぞ」
ファルタリア達は、狩りに行ったその足で獲れた肉を住民達に販売してくる。
その方が効率いいからね。
三人も手慣れたもので、血抜きも簡単に終わらせ売りさばいて帰っても、何の疲れも見せない。
まあこれも鍛錬の賜物かな。
美味しそうに食べているファルタリアを見れば体型も変わらず、むしろもっと引き締まったかな。
――いいスタイルだよ。
隣のサリアもまた少しだけ身長が伸びた気がする。
美しいスレンダーだけど、二つの膨らみも少しだけど確実に成長しているし、サリアなりに頑張っているようだね。
ルージュの体型も絞り込まれているものの、タユンは、破壊兵器は、引き締まる事無く自己主張しているかのように健在している。
――そしてダイナマイト。
あ、三人が俺の視線を見て察知したようだ。食べながら、眼を細くして横目で見てくる。
「ラサキさん、そんな目で見なくても脱いでほしいのならすぐにでも脱ぎますよ? あむ」
「そうがや。今胸揉むかや? 脱ぐかや? あむ」
「な、ならボクも脱ぎます。胸の贅肉を蹂躙してほしいです。あむ」
「え? そ、そんなに変な視線だったか? わ、悪かった……」
以後何だか嫁達が、生暖かい眼になって俺を見ている気がした。
朝食が終わり、俺とルージュが食器を片づければ扉を叩く音が聞こえサリアが対応した。
「ラサキ、代表がや」
話しを聞けば、少々厄介な事になっている。貴族が一軒、家を建て始めた。
俺との約束通り揉め事にならないように、貴族にこの森の規則を説明した。
了承はしたものの一区画全てを利用すると言い出した。
一区画は住民の住む家が二十件は建てられる。
平等に分ける話をしたが聞く耳を持たない。
ましてや貴族を相手に不平の一つでも言えば切り殺されてしまう事もある。
なので領主として話をしてほしい。と願い出て来た。
貴族相手じゃ大変だな、代わりに話をしてみよう。
しかし、何で貴族がこの森に来るんだ? どこぞの町か国から来たのか知らないけど、そっちで暮らした方が楽じゃないのか? こんな何も無い不便なところに。
それに貴族は勝手に移住していいのか? そんな事したら、それはそれで問題だと思うのだけれど、余計なお世話だな。
そして俺一人、問題の場所まで行って見た。




