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第15話 手合せ4

 勇者ラーンベルガーに合わせた、弱めの上下左右から繰り出す連撃を、全て受け続けていたラーンベルガ―が、受け切って動く。


「行くよ」


 刹那、さっき受けた衝撃とは比べ物にならない程の衝撃波を真面に喰らって吹き飛ばされる。

 普通に着地したけど、一応倒れておこうかな。しっかり効いている振りでもしておかないと。

 で、反動を受けたように見せかけて、ゴロゴロ、と転がった。

 意外と面倒だったけど仕方がない。

 あ、でもラーンベルガ―が嬉しそうだから良しとしておこうか。


「どうだい? 俺の魔剣の力を味わった気分は」


 なるほどね、その魔剣を持っている者は、どうやるかは定かではないけど、自身の意志で蓄積も開放も自由自在に操れるのかもしれない。


「ラサキ、今度は俺から行かせてもらうよ」


 踏み込んで振りかぶり、連撃をしかけてくる。

 うーん、確かに尋常では無い速さだ。確かに速いけど、それは冒険者レベルの話で、俺の嫁達と比べたら失礼なほど遅い。

 まさしく比べ物にならない――か。

 本来は振りかぶる連撃より、相手の攻撃を剣で受ける方が力を使わないし、小手先だけ動かせばいいだけだし、楽なのだろう。

 一応、苦戦しながら苦悶の表情を浮かべてぶつかり合う金属音と共に受け続ける。

 そろそろ開放するのかな。

 一瞬だけ剣筋が変わるのが見えた。

 その剣を受けたと同時に後方に飛べば、衝撃波に合わせて飛べた。

 うん、これなら楽だ。でも着地してしっかり転がらないと。

 俺が起き上がれば、反して肩で息をするラーンベルガ―。


「ハァハァ。降参するか? どうあがいても勝てないよ。ハァハァ」


 あ、忘れてた、俺も息を荒くしないと。

 うーん、勝とうと思えばすぐにでも勝てるんだけど、それじゃあダメだろうし――。


「はい、その魔剣とラーンには勝てません。しかし、俺にも必殺の奥義があります。それでも勝てなければ負けを認めます」

「フゥ、それがラサキの強さの秘密か? よし、なら受けて立とう。来い、ラサキ」


 奥義なんて言っちゃったけど恥ずかしいな。

 そうなると名前を考えないといけないかな。

 けど、その時はその時だ。


「行きます」


 構える勇者ラーンの正面から残像を残し消える。


「え?」


 素っ頓狂な声を上げ、表情の無くなった勇者ラーン。

 いや、大した事はしていない。

 力強く地面を蹴って高速で前後左右に大きく移動しているだけなんだけど。

 あ、これが尋常では無く異常なのか、理不尽なのか。改めてコーマに感謝しよう。

 蹴る音だけが至る場所から聞こえ、勇者ラーンは構えたまま、グルグル、と廻り俺を探す。

 けど、隙を逃さずラーンベルガ―の後ろから、軽く後頭部を剣で叩き、その痛みでうずくまって終了。

 あ、危ない、息切れしないと。

 俺は剣を納め、両ひざに両手を付く中腰になり、疲労困憊の表情を作る。


「ハァハァ、俺の勝ちですね。ハァハァ」


 後頭部を手で押さえ、涙眼の勇者ラーンが立ち上がり俺を見る。


「途轍もない必殺技を隠し持っていたんだな」

「ハァハァ。一日に二度しか使えない奥の手です。ハァハァ」

「そうだろうな、あの動きで相当体を酷使しているようだし」

「フゥ。はい、この後数刻は全開では戦えません。フゥ、一度見せてしまったので次は勝てるかどうか。フゥ」

「わかったよ。確かにあの一撃が始めと同じ力でやられたら、今俺も立っていられないだろう。俺の負けだ。世の中にはまだ強い奴がいそうだな」

「ありがとうございました」


 両者仲間の元に戻る。俺は三人を見れば、この手合せは一応見ていたようだ。


「ラサキさーん、お疲れ様でーす。さすが演技上手で、ムググ」


 慌てて口を押えた。


「ファルタリア、大声出すなよ。今までの苦労が水の泡になるだろ」

「ムググ、は、はい、すみません」

「ラサキ、カッコ良かったがや」

「お疲れ様です。ボクもそう思います。あれこそ拮抗した戦い、ですね」

「お疲れ様、それは言い過ぎだよ。でもやっと終わったな」


 落ち着きを取り戻し、立ち合い、四人で並び顔を合わせると、勇者一行は嫌な奴ではなく、ただ単に力比べがしたかっただけだった。

 確かに負けても爽やかだったからね。


 そして手合せ最後の落ち。

 魔道士リリースマロンがサリアに謝り、サリアは許す表情は見せなかったものの、仕方がない、と魔法とは何たるか、をほんの極一部だけど教えたサリア。

 リリースマロンを始め勇者一行が驚愕の表情で、目から鱗が何枚も落ちているようだった。

 その驚愕している四人に、更にリリースマロンの眼の前で、手合せした時と比べ物にならない大きさのファイヤランスを無詠唱で放ち、その大きさ、速さ、破壊力に腰を抜かしていた。

 冷たかったサリアの優しさを垣間見たのか、いつの間にかサリアを師匠と崇める上下関係が成立していた。

 樹海の魔女は強し、だな。ただし、サリアの素性は秘密にした。


 ただ、この陥没した場所を造った原因だけは、サリアとルージュなんて一言も言えない、言ってはいけない、絶対に言ってはならない。

 力の差がもっと歴然となるし、それはそれで何かあったら困るからさ。

 ヴェルデル王国までの帰り道は手合せした同士で、手合せの内容を談笑しながら歩いた。

 サリアとリリースマロンの上下関係以外は特に何もなく、みんな和んでいたようだ。

 勇者と言うだけあって悪者にはならないよ、何しろ爽やかだしさ。

 まあ俺にはなれないし、なるつもりも無いし、興味も無いからいいのだけれど、勇者御一行からは一目置かれてしまったようだ。


 検問所に入り別れ際、勇者一行は、しばらくは王城内に住み王国か帝国にいると教えてくれた。

 ――教えてくれなくてもいいのに。

 俺は家に来られても、押しかけられても困るし、面倒だから教えないようにしよう、と思っていたら、既に侯爵から聞かされて、レムルの森に住んでいる上、その森の領主になっている事まで知っていた。

 個人情報をそんなダダ漏れでいいのか? ギルドみたいに守秘義務を守れよ、全く。

 知られてしまった事なら仕方が無い。

 やんわりやんわり来て欲しくないアピールをしながら別れた。

 わかってほしいな、嫌いじゃないけど察してください、お願いしますよ勇者様。

 宿に舞い戻り、女将にまだ部屋が空いている事を確認して皿食屋の前でコーマが現れ、人懐っこく嬉しそうに抱きついて来る。


「ラサキ、お疲れ様。ウフフ」

「コーマもお疲れ様」

「早く食べよう」

「私もお腹ペコペコですぅ」

「あたいも腹減ったがや」

「ボクも空腹に耐えられません」

「じゃ、入ろうか」


 今日の事を談笑しながら、美味しく楽しくお腹いっぱい食べて満足したようだ。

 そして仲良く宿に帰れば、風呂が待っている。

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