第13話 手合せ2
ラーンベルガ―の一声で始まった。
刹那、バルバロッカが動こうとしたよりも速く、ファルタリアがバルバロッカの懐に入りバトルアックスを水平に切り裂く。
反応できない程、瞬く間の攻撃だったけどそこはバルバロッカ。
軌跡が見えたのかガントレットの甲で受け流し、剣圧を逃がすように一度後方に飛ぶ。
ファルタリアは追随しないでその場に構える。
へぇ、怪力ファルタリアの一撃を受けるのか、俺たち以外で初めて見た、さすが勇者だよ。
「フゥ、やるな。次は俺の番だ」
腰を落とし、素早く左右に移動しながらファルタリアに近寄り踏み込む。
そして、構えているファルタリアに躊躇なくガントレットの両手で交互に振りかざした。
「ウォーッ! 千手投撃!」
両手が残像で十数本にも見える強烈な打撃をバトルアックスで受ける。
普通なら、一般なら、並みなら受けきれず、すぐに滅多打ちにされるのだろう。
金属同士がぶつかり合う連続音だけが響いている。重量級同士の戦闘みたいだな。
しかし、攻撃技にも名前をつけるのか。そして叫ぶのか……わからん。
もしかしたら魔法詠唱みたいな効果が出るのかな。
ファルタリアは苦悶の表情で受け続け、何とか受けきった。
――ように見せた演技だった。
凄い攻撃だけれども、半予知化もあるのでファルタリアなら容易いと思う。
「くぅ、さすがですバルさん」
「俺の武技を受けて耐えたのは、ファルタリアで二人目だ」
「行きます」
刹那、再びバルバロッカの懐に飛び込み、バトルアックスを凄まじい速さで連撃する。
バルバロッカもガントレットの甲で受けてはいるが、徐々に苦悶の表情になり、またもや金属音だけが響き渡る。
あれじゃ魔法攻撃を放つ余裕なんて出来ないな。
そして――。
「くっ」
最後の一撃だけ、本気のファルタリア。
バルバロッカのガントレットをかち上げ、両手が上がった瞬間、首筋にバトルアックスの切っ先を向けていた。
万歳のような恰好で固まる勇者バルバロッカ。
「お、俺の負けだ」
「フゥ、何とか勝てました。バルさん、ありがとうございました」
反対側から観戦しているラーンベルガー一行も信じられないようだね。
一礼して笑顔になって戻って来るファルタリア。更に呼吸も乱れていないし。
おい、演技上手くなったな。デスナイトで練習したからか? もしかしてダンジョンでも練習したのか? これなら誰も分からないと思うよ。
――俺たち以外はね。
「ラサキさんに言われた通り、拮抗する程いい戦い、を演じて見ました。エヘヘ、どうでしたか?」
「さすがだよ、ファルタリア。改めて惚れ直した」
「そうですか、そうですか。デレて下さいよ、すぐにでも受け止めますよぉ……んー」
抱きついて口づけしてくる。墓穴を掘った、余計なひと言だったな、仕方がない、ご褒美だ。
次に前に立ったのは弓士とルージュ。
「俺は弓士、アーチャー。ラベルラガーデだ。ラベルと呼んでくれ」
「ラベルさん、よろしくお願いします。ボクはルージュ、魔法剣士です」
ラベルラガーデは、弓士と言っても腰には剣を装備している。
そうだよな、接近戦になれば弓矢は不利だよ。多分剣士でもあるのだろう。
ラーンベルガ―の一声。
「始め!」
両者動かない。
ルージュは相手の出方を見るのか剣を両手で持ち、正面中段で構える。
ラベルラガーデは背中から矢を取り出し弓を引いて構えている。
サリアが俺の横で教えてくれた。
「あの矢は魔法を練り込んでいるがや」
サリア曰く、それを知らなければ撃ち落としても避けても魔法が発動し吹き飛ぶ。
さらに軌道も変えられる。
ルージュなら既に見極めているし無効化も余裕だ。
後はルージュの戦い方次第。
「ルージュ、来ないのなら打たせてもらうよ」
「どうぞ、ラベルさん」
ラベルラガーデから放たれた矢は、風切音も無く放物線も描かず、一直線にルージュの正面に飛んで行く。
ルージュは見切った矢を無造作に叩き落とし、吹き飛ばされて空中に舞う。
上に飛ばされれば落ちるのは当たり前。
受け身も取れずに地面に叩きつけられる。
サリア曰く、ルージュは爆風に任せ、合わせて飛び上がり、落ちた時も体と地面の隙間に魔法緩衝で受けたので被害はない。
すぐに立ち上がれば、次の矢が放たれているので横に避ければ、そのまま横にまたもや吹き飛ばされる。
サリア曰く、一回目を受けた時点で見切ったので、爆風に合わせられる。
その通りで、今度は綺麗に着地して片手を前に出し、小さなアイスランスを三本勇者ラベルに放った。
「アイスランス」
勇者ラベルは反応し、弓を前に出す。
「シールド!」
魔法の壁でアイスランスが砕け散ると同時に、ルージュが腰を落とし一足飛びに踏み込んで切りかかった。
並みの冒険者なら反応できない速さだったけどやはりさすが勇者、すかさず剣を抜いて真面に受けた。 けどこれはルージュの真骨頂。
刹那、ルージュの片手が勇者ラベルの脇腹に伸びる。
「ファイヤボール」
ゼロ距離から放たれ、爆炎と共にラベルラガーデが吹き飛ばされ転がった。
それに合わせるように踏み込んで、転がっているラベルラガーデの前に剣の切っ先を向けた。
サリア曰く、極力魔力量を小さくしたファイヤボール。鍛錬並みに放ったら死んでしまうから。
ラベルラガーデは、両手を胸の辺りに小さく出す。
「お、俺の負けだ。やられたよ」
「フゥ、ギリギリですけど勝てました。次は勝てないと思います。ラベルさんありがとうございました」
ラーンベルガ―一行は、またも信じられないのか更に驚愕の表情をしている。
ラベルラガーデに一礼して振り返り、嬉しそうに小走りで向かって来るルージュ。
うおぉ! 二つの破壊兵器が、タユンタユン、と。
あ、サリアは影響されてワシワシするなよ。横目で見れば、タユンを睨んではいたけれどしていなかった、偉いぞサリア。
「ラサキさーん、勝ちましたー、言われた通りギリギリでー。……んーっ」
両手を広げ、タユンが変形する程抱きついて、口づけしてきた。
ファルタリアを見ていたから計画的だな。
んー、これもご褒美だ。
次に前に立つのは魔道士とサリア。
サリアは俺の前に立ち、両手を頬に当ててくる。
「ラサキ、行ってくるがや……ん」
おいおい、先にするか? 前払いか? まあいいけど。
「ああ、行ってきな」
対峙する二人。魔道士が女性らしいさわやかな声で話してくる。
「私は魔道士、キャスターよ。名はリリースマロン。リリーで結構よ」
「あたいはサリアがや。まじ、ま、魔法……剣士がや」
「プッ、あたい……ね」
「ムッ」
サリアには、魔法対決で演技が難しいなら普通に勝っていいよ、と言ってある。
樹海の魔女サリアはどうするのかなと見ていたけど。
リリースマロンの一言で、カチン、と来たようだ。
リリースマロンはすでに杖を前に出し、攻撃態勢は整っているようだ。
一方サリアは――両手を腰に当て、仁王立ちだった。ああ、あれは怒っているな。
演技も何もなさそうだ――ご愁傷様。
ラーンベルガ―の一声。
「始め!」




