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第12話 手合せ

 翌日、身支度して宿を出るとコーマは消えて行った。

 ん? また何か起こるのか?

 帰りの道中で食べる弁当を購入しに行く為、街中を歩いていると偶然にも前方から勇者一行が歩いて来る。

 あれ? 俺を見ている? それも四人ともが? これは偶然じゃなさそうだな、俺を探していたのか?

 爽やかな声で話しかけて来る先頭の勇者。


「城の侯爵達が言っていた通りの井出達だね。君がラサキか?」

「はい、そうですが」

「俺の名は、ラーンベルガー。宜しく、ラサキ」

「はあ、俺に何の用でしょうか」

「強いんだって? 後ろの三人も」

「いやいや、それ程でもないですよ。ましてや勇者様と比べられたら」

「国を相手に勝てる、と言い切ったそうだね。それに、魔物の大群も討伐したらしいじゃないか」


 あの時にいた侯爵達が話したのだろう。余計な事を吹聴しないでほしいのに。


「いえ言って見ただけですよ、単なる空威張りです。魔物退治だって、他にも両国の兵士が大勢いましたから……」

「手合せしないか?」

「はい? 御冗談を」

「本気だよ。ドラゴン退治に呼ばれて来て見れば既にいないし。する事も無くなったので、暇つぶしに侯爵達と話をしていたらラサキの事を聞いたんだ」

「呼ばれた? ラーンベルガーさんは他の世界から来たとか」

「それは秘密、口外無用だ。で、何処でやろうか。それと俺の事はラーンでいい」

「俺とラーンで?」

「折角四人同士だから、一対一の対抗戦でやろう。事前に話はしていたから、俺達は全員やるきだよ」


 俺は三人に、面倒臭い表情で振り返る。


「どうする?」

「私は構いませんよ。丁度鈍っていたところですから」

「あたいも暇つぶしにはなるがや」

「ボクはラサキさんに合わせます」


 ――どうしてこうなった。

 勇者たちと手合せして俺達が勝ったら悪者になるのか? 王国と帝国を敵に回すのか?

 勝てるとは言っても、その後に遊びに来られなくなると嫌だな。

 皿食や触手の料理は捨てがたいし、どうしたものかな。面倒事に巻き込まれないように試行錯誤した。

 で、条件付きで受ける事にした。

 観客は無し、舞台はタレーヌの丘に残っている陥没した場所。

 国の関係者にも口外無用で、これに関してはこちらも同様。

 万が一にでも話が漏れたら勇者から話を持ちかけた事を公表する。勝っても負けても恨みっこなし。

 レムルの森に帰りたいから、やるならすぐにでも。


「これでどうでしょうか」

「おー、強気だね、勝つ気満々でいるようだ。嫌いじゃないよ、そういうの」

「違いますよ、胸を借りるつもりで行きます」


 勇者ラーンの後ろの三人は、俺と同様に、勝つ気満々、と言うより、勝って当然、と言う表情だ。

 後ろを振り返れば、笑顔のファルタリアが大きい尻尾を振らしている。

 サリアはつまらなそうにしている。

 ルージュは全くの無関心で、一点を見たまま動かないけど、大丈夫か?

 こうして目立つ四人同士が集まっていれば、嫌でも周囲から眼が向くのは当然だ。

 勇者ご一行を近くで見ようと住民や子供、兵士や騎士が集まりだした。

 すぐに取り囲まれる形になったので、俺達はすり抜けるように離れた。あっという間に人だかりになっていたよ、さすが勇者。

 参ったなぁ、あんな人気者とやるのか? やはり悪者扱いになるのだろうか……。

 こうして悩んでいても進まない、前向きに行こう。


「予定変更だ、昼に手合せする事になったから皿食でも食べてから出向こうか」


 皿食屋の前でコーマが現れる。今日は焼き鳥の皿食にした。

 各自料理を載せた皿食を持って来てテーブルを囲み、勇者の事を話しながら食べる。


「誰と誰が手合せするか?」

「私が全員と手合せしましょうか? あむ」

「それがいいがや。あむ」

「そうですね。あむ」

「ウフフ、美味しい。あむ」

「ダメだよ、一対一と決められたんだからさ」


 ヤイノヤイノ、キャッキャエヘヘ、と食べながら話し、お代わりをして、話をしながら食べた。

 今回サリアは、勇者一行を察知されないように調べてくれて、串に刺さったままの焼き鳥を小さく振りながら教えてくれた。


「モグモグゴクン、四人とも魔法が使えるみたいがや。あむ」


 サリアの見立てでは、やはり魔道士が一番魔力量がある。二番目に弓士、三番目に勇者、最後に戦士だった。

 ある程度の魔法攻撃、魔法防御はありそうだ。

 サリアの話を踏まえ検討した。

 結局、俺と勇者ラーンベルガー、ファルタリアと戦士、サリアと魔道士、ルージュと弓士で対戦が決まった。

 普通に凄いな驚いたよ、全員魔法が使えるのか。


「油断は禁物だな、気を引き締めないと」


 サリアが持っている焼き鳥の串を、俺に向けて小さく振りながら話す。


「モグモグ、ぜーんぜんがや、ゴクン。眼を瞑っても勝てるレベルがや。あむ」


 ルージュが口を開け、食べようとしていた焼き鳥を置いて補足してくれた。


「ボクも調べましたけど一番魔力量のある魔道士の量は、ボクの十分の一より少し上くらいだと思います」

「え? 勇者だぞ? そんなに少ないのか?」

「違うがや、ルージュが桁違いなだけがや。多分がや、魔道士の魔力量は世の中でも十本の指に入るがや」


 そんな話を聞いたら、段々と手合せしたく無くなってくる。

 力の差があるのだから演技しても大丈夫か? 皿食を食べ終えればコーマが消える。


「あー美味しかった。ウフフ、頑張ってねラサキ……ん」


 検問所に行けば閉じている門を開いてくれ出れば閉まる。

 ドラゴンがいなくなっても、まだ安心している訳ではなさそうだ。

 知っているのは俺達だけだし――。

 陥没した場所に設定したのは、近く以外はどこからも見られないからだ。激しい魔法の攻防をしたら、誰かが気づくと思ったからさ。

 その場所に着けば既に勇者一行が転がっている岩に腰を掛け待っていた。

 依頼が無くなって余程暇なのだろう。

 予定時刻より早く付いたけど一応謝っておこう。


「すみません、お待たせしました」


 爽やかな笑顔の勇者ラーンベルガー。


「俺達を待たせるなんて、いい度胸だね。――なーんてね、嘘嘘。早く来たのは俺達だから気にするな」


 ――こういう性格なのか。

 俺達の決めた対戦相手を伝えれば、予想していたようで了承を得た。

 多少の怪我をしても、お互いに治癒魔法があるから、殺さなければ問題なし。

 倒されるか、負けを認めれば終了。


「ではラーン、誰から手合せしましょうか」


 戦士風の大男が、野太い声を発した。


「俺からだ。いいよな、ラーン」

「バルからか、そっちはいいか?」

「ファルタリア」


 尻尾を大きく揺らし、既にバトルアックスを持っていた。


「了解でーす。いつでもいいですよぉ」


 対峙する二人。戦士の後方に勇者一行、ファルタリアの後方の離れた位置に向き合って観戦する。


「俺はバルバロッカ。戦士、アタッカーだ。バルでいい」

「私はファルタリア。武器はこれだけです。バルさん、よろしくお願いします」


 戦士バルバロッカは、半身で腕を曲げ戦闘態勢で構える。

 対するファルタリアも腰を落とし、バトルアックスを右小脇で水平に構える。

 ラーンの一声。


「始め!」


 手合せが始まった。

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