第11話 依頼達成
今にも押し潰されそうな、もの凄い威圧が掛かってくる。
けどドラゴン三体は、そんな気も無いようだけれど……起きている時は常にこうなるのかな。
三人をこの場において、俺はドラゴンに近づく。
強くなる威圧に負けずに目の前五メートル程の位置で立ち止まり、背負い袋から白い魔石、赤い魔石、黒い魔石、を取り出し地面に置いて踵を返しゆっくりと三人の元に戻る。
すると三体のドラゴンは、首を何度か縦に振り、咆哮を上げ感謝の意を表明したような感情が伝わって来た。
しかし、抑え込まれるような威圧も凄かった。
行きで眼が合った時と違い、こうも変わるのかな。
そう思っていたら、フレイムドラゴン、フロストドラゴンが順に赤い魔石と白い魔石を掴み、畳んでいた背中の翼を広げ飛び立って南と北に別れて飛んで行った。
残ったアースドラゴンが黒い魔石を掴み俺を一度見る。
また一度、感謝の感情が流れた気がした。
俺を見ながら頷き、翼を広げ飛び立ち、天高く上に向かって飛んで行った。
横に立っている三人を見れば――強張った表情で固まっていた。
「す、凄い威圧でしたね。エヘ、エヘヘ」
「ビリビリ来たがや。アハハ」
「全く動けませんでしたよ。ハハ」
「フゥ、終わったな。さ、帰ろうか」
帰り道では、サリアが腕を絡ませ引っ付いて来た。
なのでドラゴンと対峙して気が付いた疑問を聞いてみる。
「なあサリア」
「何かや?」
「ドラゴンの翼なんだけど、あの巨体に似合わず小さいと思わなかったか? よく飛べるよな」
「あれは魔法がや」
サリアが、ドラゴンを見た限り、で教えてくれた。体内から翼に魔力を流し、そのまま翼に魔法を掛けて、身の大きさ、重さよりも、より大きい浮遊力を得られるようにして羽ばたく。
更にその力にも魔法を掛けて増幅し飛び立つ。そして魔法を連続させて飛行する。
「そんな馬鹿げた魔法が出来るのはドラゴンだけがや」
「なるほど。やはり出鱈目なんだな」
アルドレン帝国に戻り、今日は肉料理の皿食を堪能する。
久しぶりのダンジョンやドラゴンの事など談笑しながら食べ、さっそく三人はお代わりしに席を立った。
その時、近くで冒険者が食べながら話をしている声が耳に入った。
その内容とは、数日前、ギルドの闘技場にドラゴンの鱗が、いつの間にか放置されたように置いてあった。
その鱗には、絶対に傷つけられないと言われていたにもかかわらず、穴が二つ穿っていた。
ギルド内では守秘義務があるので教えてくれない。誰がやったかは不明。
そこに放置されたままなので、腕に自信のある何人もの冒険者が試したが誰一人、穴どころか傷一つつける事も出来なかった。
おいおい、そんな事噂にするなよ、穴開けたくらいでさ。
しかしギルド内の事は守秘義務があるなんて知らなかったな。
でも功を奏して良かったよ。
お代わりした三人も、美味しく食べ終えたようで宿に帰った。
コーマは今日、本当にお勤めのようでまだ帰ってこない。
神も色々と大変なんだな。
翌日、また検問所の門番に一声かけて壁を飛び越える。
タレーヌの丘を歩き、一路ヴェルデル王国に向かった。
ファルタリアは、ダンジョンで戦闘が無かった事が詰まらなかったようで、バトルアックスを取り出し剣舞をしながら歩いている。
横で見ていたサリアとルージュも感化されたのか剣舞を始める。
ファルタリアは昔からやっているから、さすがに決まっている。
だがしかし、サリアとルージュもなかなかどうして、見事だった。
これも鍛錬の成果なのだろう。そして仲良く歩き王国の検問所が見えて来た。
「あれ? 門が開いているぞ?」
「門の向こう側に人が大勢いますね」
「騎士が多いがや」
「真ん中が割れていますよ」
「もしかして、勇者ご一行様か?」
門まで辿り着いたら、邪魔にならないように一番端に寄って隠れるように見物する事にした。
喝采や激励の中、先頭を歩いて来る装飾品のような高級そうな鎧を身に纏い、豪華な盾と剣を持った、短髪黒髪の爽やかな剣士風。身長は俺と同じくらいか。
その後ろに二人並んで歩いて来る。
一人は、女性のようで茶色のとんがり帽子に茶色の厚手の布を纏い、杖を持っている長い赤髪の魔道士風。
その横に、銀の胸当てに軽装の鎧、背中には、大きい弓を背負っている金髪の弓士風。
その後ろに一人、動きやすそうな鎧に付け加え、両手にはごついガントレットを装備している茶髪の大男の戦士風。
王道だ、見事な勇者のご一行様だ。四人は門を出て一度振り返る。爽やかな声の剣士風の男。
「ではみなさん、行ってきます」
踵を返し、威風堂々歩いて行った。
門の中に入れば、再び閉まって行く。
俺達は検問所で一声かけ、勇者様を真似してヴェルデル王国に堂々と入国した。
「まさしく勇者だったな」
「勇者様でしたね」
「勇者がや」
「勇者ご一行でしたね」
ドラゴンはもういません。とはさすがに言えなかった。
余計なひと言を口走って、一悶着あっても嫌だしさ。
でも、どうやって呼び寄せたのか? 別世界からの転移? それとも遥か遠い国からの転移か?
呼び寄せられるのなら初めからやればいいのにな。
魔物の討伐もドラゴンの撃退も、被害も少なく出来ただろうに。
それに、フェーニとミケリも……。
考えたらだんだん腹が立って来た。何かしてやろうか――けど、やっぱり止めておこう。
寝た子を起こしても仕方がないからね。
宿に行けば、女将に覚えられていたのでいつもの部屋に通された。
「じゃ、約束通り明日はデートだな」
順番は既に決まっていて、サリア、ファルタリア、ルージュ、コーマの順だと言う。
先日、四人で小一時間話し合った。とサリアが教えてくれた。
はい? そこまで時間は使わないだろ、順番の他に何を話し合ったんだ?――いや、止めておこう。
余計な事は考えないし聞かない、聞く耳持たない事に徹しよう。
翌日は順番にデートしました。
イチャこきながら、同じ順路で同じ店、三回目には覚えられ、またもや嫌な顔をされました。
帰って来たコーマは、皿食だけでいい、との事で二人仲良く皿食を堪能した。
これで約束は終了した。
ただ、一つ感じた事がある。
個人的に俺的に、デートは何か精神的に疲れる、と言う事。
その夜、宿に帰れば、勇者ご一行様が帰って来た、と女将が話していた。
タレーヌの丘を一通り歩き回ったが、ドラゴンは見当たらず、いなかった。
樹海も捜索したが特に何も無かった。
ん? ダンジョンの入口は見つけられなかったのか? 魔法探知は掛けていなかったようだな。
部屋に入って、レムルの森に帰る支度をした後、テーブルを囲み、お茶を飲みながらくつろぐ。
「ダンジョンには行かなかったようだな――ルージュはどう思う?」
「僕には見当がつきません。あの魔道士の魔力量や力量も不明なので分かりかねます」
「サリアは?」
「あたいも知らないがや。興味ないから何も調べて無いがや」
「そうか、まあ、そうだよな。見ていないコーマには聞けないから話は終わりだな」
「ウフフ、ゴメンね」
お茶を飲み一息入れる。
ん? ファルタリアが動揺している? 何だ?
「ラ、ラサキさん?」
「何だ? ど、どうした?」
「わ、私には何も聞いてくれないのですか?」
「ん? 魔力に関した事だからファルタリアには無理だろ?」
「ええぇ? 今の話の流れなら私にも何か聞いてくれてもいいじゃないですかぁ」
「そうなのか?」
「そうですよぉ、酷いですよぉ……泣きますよ?」
「じゃあファルタリアは、あの一行を見てどう思う?」
急に嬉しそうになって耳を、ピコッ、とさせる。
「はい、強そうでした。エヘヘ」
「どのくらい強そうだった?」
「はい、わかりません。エヘヘ」
「何で強そうだと思ったんだ?」
「はい、何となく。エヘヘ」
「そうか、終わり」
「エヘヘ」
「ハァァ」
他の三人は全く聞いていないし、サリアとルージュは剣の手入れをしているし、コーマは黙って味わうようにお茶をすすっているし。
でも、ファルタリアの機嫌はいいようだ。




