第 9話 依頼
夢の中で、タレーヌの丘の中央に立っている黒褐色のドラゴンと対峙している俺。
ドラゴンからは威圧も殺気も無く、俺も落ち着いている。
ドラゴンの口は動いていなかったけど、力強く野太い声が聞こえて来た。
「我は地竜。お主に頼みがあるのだがの」
「喋れるのか?」
「精神の中のみ、だがの。そして通じるのはお主くらいかの」
ドラゴン曰く、タレーヌの丘の地下深くにある魔石を取って来て欲しい。
自身で掘り起こせば国が亡ぶ。それはしたくない。足で掘っても気休め程度にしかならない。
どうしたものかと考えていたら俺に気が付いた。
同調するまで手間取ったが、居場所を見つけて現在に至る。
「一つ聞いていいですか?」
「うむ、何かの」
「貴方たちがここに降り立ってすぐに、討伐に来た兵士たちが返り討ちに合ったらしいけど」
「うむ。我らからは一切の手出しも何もしないがの。が、向かって来るのならば、我らの力を見せつけねばならんがの。絶対的な力をがの」
ドラゴン曰く、フェーニ、ミケリを含む兵士たち数万は、自身に到達する前にブレスで排除した、と言う。
話しは続き、向かって来る者はことごとく殲滅したが、城には手を付けていない。
毛頭そのつもりも無い。
ここに来た理由は、この地下にある魔石に引き寄せられただけだ。
その魔石から放たれる魔力は非常に心地よく、気持ちの安らぐ睡眠を誘い深い眠りに就ける。
拾って我が住処に持って帰りたい、ただそれだけ。
「なるほど……了解しました。引き受けましょう」
「うむ、頼むがの」
眼が覚めたらもう朝だ。
「ラサキ、おはよう……ん」
「ん、おはよう、コーマ」
「大変ね、ウフフ」
「仕方がないさ。頼まれたからにはしっかりやろう」
朝食の時間にはまだ早いから、コーマとゴロゴロ、イチャこいていたら、毛並みの良い美しい獣人、ファルタリアが眼を覚まして両手を伸ばす。
「ファー、おはようございます……んー」
ムクッと起き上がるルージュも、タユンが猛威を振るっているし色っぽいな。
「ラサキさん、おはようございます……んっ」
可愛いサリアは股から、ゴソゴソ、と這い上がってくる。
「おはようがや……んーっ」
「さて、起きようか」
朝食を食べながら、昨晩の夢での事の次第を話した。
ファルタリアとルージュは驚いていたけど、サリアは当たり前なのか、普通に、フーン、と言う感じだった。
「だからヴェルデル王国に行く前に樹海のダンジョンに入って魔石を取って来ようと思う」
「いいですね、行きましょう」
「チャッチャとこなすがや」
「魔法も撃ち放題ですね。ハハ」
「ラサキ、お勤め行ってくる……ん」
事は決まったけど、急ぐほどではないので、まずギルドに出向き換金をする。
日も昇って閑散としていたものの、有名になっているのでまた声を掛けられた。
ファルタリア達に対処を頼み受付まで行く。
けど場の雰囲気が違うな、陽気? 和み? 希望? 何だろこの感じ。
受付で換金を頼み貴金属を手渡す。
その間に受付嬢に、何かあったのか聞いてみたら嬉しそうに話し出す。
「はい、この度勇者御一行様が来られる事が決まりまして」
「はい? 勇者? 何処から湧いて出てきたんだ?」
「詳しくは分かりかねますが、何やら帝国と王国の共同行為を行い、呼び寄せた。とか」
「もしかしてドラゴン退治か?」
「はいそのようです。これでタレーヌの丘にも平和が戻って来ます」
そして換金され、金貨一五〇枚を持って来た。あの盗賊、いい物持っていたな。
コーマもさすが神だ、一番高い貴金属を選んでいたのかな。
ファルタリアとルージュは、十人程の冒険者に取り囲まれ、握手されたり、激励されたり、尊敬されたり、笑顔で対応している。
ん? サリアは? あ、俺の後ろにあった椅子で冷たい表情で座っていた。
今にも足先から凍り付きそうなくらいだ。
「サリア、終わったよ」
急にかわいい笑顔になる。落差激しいよ。
「そうかや? なら行くがや。ファルタリア! ルージュ! 行くがや!」
冒険者が二人から見る見る離れて行く。サリア、そんな威圧掛けなくても……。
二人が笑顔で会釈する。
「では失礼します」
「失礼します」
取り囲んでいた冒険者達の鼻の下が伸びているように見えるのは俺だけだろうか。
無理も無いな、ま、大目に見ておこう。
ギルドを後にして歩けば、三人とも話が聞こえていたようだ。
左隣で尻尾を大きく揺らしながら話すファルタリア。
「ラサキさん、どうしますか? このまま行きますか? 私は行けますよ?」
「そうしようと思うけど、サリアとルージュはどうだ?」
銀髪を揺らしながら歩くサリア。
「あたいはいいがや。いつでもいいがや」
タユ……いや、紫の髪を揺らしながら歩くルージュ。
「ボクもこのまま行けます」
「よし、なら行こうか」
閉鎖された検問所で、一声かけて挨拶して横の高い城壁を飛び越える。
一路樹海を目指し歩けば陥没した場所が見えてくる。
その先にドラゴンが三体眠っているようだ。
昨晩の夢が本当なら問題なく通れるだろう。
陥没した場所の地境に立てば、三体のドラゴンは察知したのか、首を持ち上げ俺達を見上げる。
フロストドラゴンとフレイムドラゴンが唸り声をあげると、アースドラゴンが咆哮を放つ。
刹那、空気が揺れ地響きが起こる。
すると二体は何かを納得したように眠り始め、アースドラゴンも、一度俺達を見て眠りに就いた。
うわっ、迫力満点だよ、やっぱり頂点に立っているだけあるよ。
ファルタリアの尻尾が、平常時の三倍ほどに膨れ上がっている。で、デカいな。
「す、凄いですね。毛が逆立ちました」
サリアも表情が硬くなっている。
「あ、あたいも、鳥肌が立っているがや」
ルージュはタユンを抱きかかえるように腕を硬くして組んでいる。
「ボ、ボク、ビビりました。桁違いですよ」
俺達は強くなった。
強くなったからこそ三体のドラゴンの偉大さ、強さ、存在が体を通して感じたのだろう。
「ああ、出鱈目な強さは確認した。よし、行こうか」
三体のドラゴンを回り込むように迂回して樹海に入った。
ダンジョンの入口の位置は変わらず普通に入れる。そして最下層に辿り着く。
「サリア、ルージュ、どうだ?」
「見つけたがや」
「三カ所から反応があります」
前回は、討伐しながら探るように進んで三日かかったのだから、普通に探したら何日かかるか分からない。
なので二人に探知魔法を掛けてもらった。
ダンジョン内は以前とほとんど変わらずだったけど、魔物は現れない。
ここまでドラゴンの脅威があるのかな。順調に進み半日ほどで戦ったあの広間に到着していた。
ファルタリアは、何も起こらないのでつまらなそうだし。
「ありますか? 魔石」
「あったがや」
「ありました」




