第 8話 帝国5
二百年前の世界では、彼女の一人も出来なかった。
ましてやデートなんて無縁だったし、それらしい事も一度も無かったから……モテないへタレだった、俺。
ファルタリアが俺を覗き込むように見る。
「どうしましたか? 私と歩いてもつまらないですか?」
「そんな事は無いよ。可愛いファルタリアとのデートだからさ。こんなに幸せでいいのかなって考えていたんだよ」
「いいのですよ、いいのですよ。デレていいのですよ。二人だけなのですから。エヘヘ」
気になった店を見て回りながら仲良く歩き、宝飾店まで来た。
一緒に入れば店主が――何だ?こいつ、みたいな表情で俺を見る。
三回目だし、午前中にも来たし、購入しているし、顔を覚えられているし。
止めてください、そう言う眼で見ないで下さい、へこむから何も言わず察してください。
どう思われてもいいから突っ込みを入れないで下さい。思わず昔の自分に戻った気分だ。
――打たれ弱いな、俺。
見定めるように色々と眺めているファルタリアは、そんな事は全く動じない、感じない、わかっていないようだ。
「わぁー、これもいいなぁ。あ! あれも綺麗だし。へぇ、これも可愛いー。ラサキさんはどれがいいと思いますか?」
「ファルタリアならどれでも似合うよ」
「ダメですよぉ。一緒に選んでくださいよぉ」
で、ファルタリアだけが、やいのやいの、とまず二つ選び、聞かれて俺が答え一つを肯定する。
そして何度も繰り返し俺の意見を尊重し、振り落とされて最終的に二つの候補になり、どちらにするかこれもファルタリアに、選んでほしい、と懇願された。
「ファルタリアなら――こっちの首飾りが似合うな」
金色に輝く宝石が大小散りばめられた首飾り。
「はい、ではこっちにします。エヘヘ」
で、購入した後は同じパターンで宿に帰った。何で同じにしたいのか良く分からん。
「エヘヘ―。買ってもらいましたよー」
ファルタリアは部屋に入るや否や二人に、嬉しさを表現したけど、既に貰っている二人は、フーン、と言う表情。
一応、後輩たるルージュが声を掛けた。
「良かったですね」
「うん、良かった、嬉しいなぁ。エヘヘ」
「似合うがや」
「ですよねー、ですよねー、ラサキさんに選んでもらいましたから。エヘヘ」
自分の欲しかった首飾りを買ってもらったルージュは真顔だ。
「ラ、ラサキさんに選んでもらったのですか?」
自分の選んだ首飾りを買ってもらったサリアは悔しそうだ。
「そ、その手があったがや。失敗したがや。グヌヌ」
何だか変な空気が漂っているし。首飾りの一つで、こうも変わるのかね――参ったな。
「ならこうしよう。次のデートはヴェルデル王国に行った時にしようか。どうだろう」
また空気が変わった。
「ボクは賛成です」
「あたいもそれがいいがや」
「いいですね、楽しみです」
変な重圧が圧し掛かった気がしたけど……頑張れ、俺。
最後はコーマだ。
少しして現れたコーマ。
「ただいま、ラサキ。行くよ」
「了解」
「三人も行くのよ」
「「「 え? 」」」
「その足で料理食べに行くから」
「ああ、また触手か。皿食とかでなくてもいいのか?」
「うん、ウフフ」
「デートもいいのか?」
「ラサキとデートは沢山したからいいの。ウフフ」
で、宿を出ていつものように全員で歩く。俺の隣はコーマ。後ろに三人の美女が並んで歩く。
今はコーマがいるので周囲の男どもは、こちらに全く興味も無く一度も見ず何も感じていないようだ。
「さすがコーマだな」
「ウフフ」
後ろでは三人が、首飾りの品評しているし、止めとけよ、喧嘩になっても知らないぞ。
でも楽しそうだから大丈夫かな。
四度目の宝飾店に行ったら普通だった。
顔を覚えられているのにもかかわらず、普通に接してきた。これもコーマの力だから。
「ラサキ、選んで」
多分そうなるだろうと、ファルタリアと来ていた時に探して決めていた。
「これだ。コーマに似合うよ」
銀色に輝く中に、色とりどりの宝石をちりばめられた首飾り。
「じゃ、それでいいわ。着けて」
コーマに着けて代金を支払う。何気に持って来た所持金は、ほぼほぼ、使い切った。
宿代や食事は問題ない。けど、王国でのデート費用が無くなった。
んー、参ったな。どうしたものか。
取り敢えず食事をしながら考えよう。
料理店に入り、いつもの部屋に案内されて、料理を大量に注文する。
料理が来るまでは首飾りの品評会で話に華が咲き、決してけなしたりせず、むしろ相手の首飾りを褒め合っている。
俺は酒を飲みながら四人からの口攻撃に、うん、そう、うん、と肯定し続けていた。
決して否定なんてしないよ……後が怖いし考えたくも無い。
料理が運ばれて来れば、テーブルには沢山の料理が並んだ。
「いただきまーす」
「食べるがや」
「いつもながら美味しそうですね」
「ウフフ。あむ」
舌鼓を打ち、美味しい美味しい、と談笑しながら食べる。食べている途中、一息つく頃に話を切り出す。
「数日したらヴェルデル王国に行くけど、持ち金が底をついた。一応報告まで」
「私は金貨三十枚ほどありますよ。使う事はないですから使ってください」
「あたいは十枚くらいがや。使わないからいいがや」
「ボクも十枚あります。けど使った事が無いですからぜひ使ってください」
「ウフフ。美味しい」
「ありがとう、でも大丈夫だ。今気が付いた」
コーマが返してくれた貴金属を換金すれば高値になるはずだ。明日にでもギルドで換金しよう。
「と言う訳だ」
「足りなかったらいつでも言ってくださいね」
「そうがや」
「ボクも頼られたいです」
「ウフフ」
料理はおいしく食べて宿に帰った。
夜はルージュを可愛がって満足したようで就寝。今回もあの二つの破壊兵器は健在だった。
その晩、深い眠りにつき、夢を見た。




