第 4話 ギルド
翌日、スウスウ、と気持ちよさそうに寝息を立てている嫁達を起こさないように起きる。
顔を洗っていたら扉を叩く音が聞こえる。
扉を開けば、期待もしていなかった朝食が数人のメイドより運ばれてくる。
以前と変わらない豪華な料理がテーブルに載る。
これはてっきりアルドレン帝国が提供してくれたものと思ったら、宿屋が行っている、との事。単なる俺の勘違いだったけど、改めてお礼を言った。
一通り並べ終えたらメイドたちは、相変わらず統制のとれた綺麗なお辞儀をして出て行った。
んー、いい匂いだ。
その匂いに釣られて全裸のファルタリアが片手を上げ、片手を口に当てて部屋から出てくる。
「ファー、ラサキさん、おはようございます。いい匂いです。わぁ、美味しそうですね」
「おい、服着てくるように。丸見えだよ」
「いいですよ、いいですよ。見てくださいよ嫁ですから。デレ手いいのですよ。受け止めますから私の胸に飛び込んでください」
緩い笑顔で両手を広げるファルタリア。その後ろから起きてくる三人。
「何しているがや、服着るがや」
「ファルタリアさん、服くらい着ましょう」
「ウフフ、ラサキ、おはよう」
三人が服を着て出てきたので、いくら慣れているとはいえ恥ずかしくなったのか、ファルタリアは、スゴスゴ、と部屋に入り服を着て出直して来た。
そして朝食を食べ始める。
これからの事など談笑しながら美味しい朝食を食べ、みんな満足したようだ。
食後のお茶を飲みながらマッタリする。その後コーマは朝食時に話をしていたのと俺を読んだのか、
「頑張ってね、ウフフ……ん」
両手で俺の頬を抑えるように口づけして消えて行った。
俺は立ち上がる。
「これからギルドに行くけど、どうする? 別行動でもいいよ」
「ボクはラサキさんに付いて行きます!」
ルージュは立ち上がり、準備をしに部屋に入って行った。
お茶をすするサリア。
「あたいは部屋にいるがや。ゆっくり朝風呂に入るがや」
「私もバトちゃんの手入れと、お風呂がいいですね」
「了解、風呂はいいけど大声で歌うなよ、ちんこ」
え? バレている? みたいな表情の二人。
「は、はい、勿論ですよ。エヘヘ」
「だ、大丈夫がや。あ、安心するがや。アハハー」
あーやっぱり。思う存分歌うつもりだったのか。まあ、声が外に漏れなければいいけどさ。
「ラサキさん、準部が出来ました」
「ああルージュ。ちょっと待っててくれ」
俺もすぐに支度をしてドラゴンの鱗を持ち一緒に出掛ける。
町中をギルドに向かって歩けば、さっそく嬉しそうな笑顔のルージュが引っ付いて来た。
最近慣れてきたとはいえ、タユンの破壊兵器は……やはり凄いな。
表情なんて全く変えないよ、決して。
ギルドまで、嫁なのに恋人のように楽しく話をしながら歩けば、ルージュの美貌に男達が振り返り、俺を見返して、爆死しろ、とか聞こえて来たけど致し方ないな。
組んでいる腕を解き、ギルドに入れば、俺とルージュの事を知っている冒険者たちが寄ってきて取り囲まれる。
特にルージュに集中しているけど、色恋では無く称賛して握手を求められたりしているからほおっておこう。
ルージュも笑顔で対応しているし、偉いな。
取り巻きはルージュに任せて受付に行く。
「お久しぶりですね、ラサキさん。今日はどういったご用でしょうか」
「ああ、頼みがあって来た。ギルドに鍛錬場とか戦闘が出来る広間とかは無いのかな」
「ありますよ。この地下に闘技場が。ご使用になりますか?」
「ああ、頼む。出来れば貸切がいいな」
「はい。では使用貸切で金貨五枚になります」
すぐに支払った。よーしよし、金貨が減ったぞ。この調子で減ればいいな。
闘技場の準備が出来て、ルージュを呼ぼうとしたら予想を上回る冒険者達に取り囲まれていた。
よく聞けば、称賛だけではなく、パーティに入りたい、と希望、要望、願望する奴らの多い事、多い事。
ルージュはきっぱり断っているけれど食い下がる男ども。ん? よく見れば数人の女性冒険者も希望していた。
単純に、純粋に、本当に入りたいみたいだね。
でもルージュなら、威圧や殺気を放てばすぐに委縮させられるのに、笑顔でいなしながら耐えていた。
偉いな、ルージュ。
俺は声を大きくし、小さく威圧を放つ。
「ルージュ! 準備が出来た! 行くよ!」
「はい。では失礼します」
しつこくする冒険者もいないので道が開け、ルージュが通り抜けるように来る。
そして受付嬢に案内され、地下の闘技場に来た。
思っていたより広く、走り回れるほどだ。それに天井の高さも六m程はあるし、これなら申し分ないな。
さっそくドラゴンの鱗を乗せる頑丈な台を用意してもらった。
このギルドで一番頑丈な台を頼んだら、受付嬢が忠告してきた。
「無料でお貸ししますが、壊したら弁償となります。なので保険として金貨三枚を保証金として……」
「払う、今払う、すぐ払う」
支払った。よしこれで台が壊れるくらい使っても大丈夫だ。
闘技場に入り用意された武骨な台にドラゴンの鱗を乗せてきつく縛り上げる。
「うんよし、こんな感じかな」
隣にいるルージュが聞いてくる。
「ラサキさん、何をするのですか?」
「実験だよ」
「実験ですか?」
「見ていればすぐにわかるよ。少し離れて」
ドラゴンの鱗を前に立ち剣を抜き、上段で構え、デスナイトを切り倒した力で振りかぶる。勿論鱗を切るつもりで。
だがしかし、鈍い音と共に弾かれた、簡単に。当たった表面には傷もついていない。
もう一度上段に構え、今度は台ごと切り裂くつもりで渾身の力で振りかぶった。
「ハァッ!」
結果――切れなかった。
押される力で少し歪んだようだけど、その瞬間だけで元に戻り、かすり傷が付いただけ。
「フゥ、いや凄いな。硬いと知っていてもここまでとは思わなかったよ」
見ていたルージュも驚いている。
「ラサキさんでも切れないのですか。非常に硬い鱗ですね」
剣で小突くと軽い音が響く。
「これが最強たるドラゴンの鎧だな。軽く叩けば切れそうに感じるんだけどけどな」
「あのー、ラサキさん。ボクにも試させてもらえますか?」
「ん? いいよ。でも範囲魔法は厳禁だよ、闘技場が壊れるかもしれないからね」
「はい、了解しました」
今度はルージュの希望で、鱗を立てて縛り直す。鱗の前五m程の位置に立つルージュは、片手を前にかざす。
「アイスランス!」
青い魔方陣から氷柱が、勢いよく飛び出す。けど鱗で弾かれ粉々に――ならない。
鱗に溶けるように、吸い込まれるように、爆風も音も無く消えた。
驚くルージュ。これには俺も驚いた。落ちた鱗も効力が持続している。
「え? 何?」
「これがドラゴンの魔法攻撃の無効化かあ。初めて見たけどこれはこれで凄いな」
「グヌヌ」
眼に炎が宿るような勢いで鱗を睨み、闘志を燃やすルージュ。
「ラサキさん、もう一度試してみていいですか?」
「ああ、何度でも気の済むまでやってごらん」
今度は両手を前にかざす。
「アイスランス!」
魔方陣からは、以前隕石に突き刺さった大きさの氷柱が勢いよく射出された。
――けど結果は同じで消えた。
何度か色々と攻撃魔法を試したけど、全て同じ結果だった。




