第 2話 帝国へ
さらに数か月が過ぎた。
あの手合せ以来、邪王リコは来なかった。
我が家での生活は、それほど変化はない。
戦争により兵士として両国に軍として入っていた冒険者達も、その任を解かれ報酬を貰って、各町に戻る者、王国帝国に居残る者、とになったらしい。
また、シャルテンの町の周囲に出没する魔物は相変わらず多く、警戒はしていても、時折その網をかいくぐり町中に侵入して暴れ回り被害が出る。
ギルドにより定期的に討伐が行われ、ファルタリア達三人も依頼を受け、魔物を倒しているけど、タレーヌの丘に住み着いたドラゴンがいなくならない限り、逃げてくる魔物は減らず厳しそうだ。
ファルタリア達三人にとって、魔物の討伐は全く持って脅威でもなく、鍛錬にもならず単なる暇つぶしだ。
町の為とはいえ、貢献しているとはいえ、全く相手にならない魔物の討伐なので、最近では三人が別行動して、誰が一番魔物を狩ったかを競っている。
いや違った、魔物の種類も多種なので、厳密に言えば報酬の金額で競っている。
それも毎回、桁違いに大量に魔物を狩るものだから、報酬も白金貨で貰っている。
――それが三人分。
なので、当然として、必然として、歴然として、金が貯まる一方だ。
金庫と称した倉庫は今では白金貨が溢れ返っている。
入口には仕切り板を腰の高さまで作り、床も見えず、白金貨で足の踏み場など全くない。
まさしく宝の山の絵図だ。この分で行けば次期にあふれるだろうな、確実に。
「ラサキさーん、帰りましたー」
「帰ったがや、ラサキー」
「ラサキさん、戻りました」
今日も、依頼、と称した暇つぶしを終え、三人が元気に帰って来た。
装備を外し軽装になった三人が数枚の金貨だけテーブルに残し、白金貨を無造作に金庫に投げ入れる。
以前、その行為を見て、お金は粗末にするな、と言ったけど三人とも、投げ入れただけで粗末にはしていない、と言い張った。
投げること自体がそうだ、と言えば、何でだ? 何故? と逆に迫られたので言い負ける前に許した。
最近言葉も強くなっている嫁達だ。何だかなー。
で、残った数枚の金貨は、と言うと、皿食用と雑貨、酒用にする為専用の棚に仕舞い入れた。
それでも数百枚はある。
今も変わらず資金は減らない。皿食、香辛料、酒など必要な物には使っているけど、稼ぎに比べれば微々たるものだ。
三人とも未だに全く使わない。何かに使え、と言っても、何も無い、と言う。
服とか装飾品とか買ってきな、と言っても、今あるだけで十分だ、と言う。欲が無いのか? 欲しい物買えよ。有り余っているんだからさ。
ハァァ、いい嫁だよ、でも使ってほしいな、本当に。
そんな俺の思いも余所に、ファルタリアが毛並みの良い大きな尻尾を揺らし美しい笑顔だ。
「今日は私の勝ちでしたね」
紫の髪も真っ直ぐ伸び、腰辺りまでになって、より一層綺麗になっているルージュ。
「その次がボクです」
身長も一五〇センチ程になって、膨らみも少し出てスレンダーなスタイルも可憐な美人になったサリア。
「ぐぬぬ、今回は、あたいの負けを認めるがや」
一位と三位で勝敗が付き、二位は勝敗無しで決めている、と言う。
別行動の依頼になって現在、二七戦。
ファルタリアが十勝八敗九分
サリアが 九勝十敗八分
ルージュが 八勝九敗十分
何だかんだと実力差は拮抗しているし。
興味の無いコーマは、テーブルで妖精の果物を美味しそうに食べている。イチャこいた後なので上機嫌だ。
襲来する魔物の影響は、シャルテンの町だけでなく、スマルクの町やエランテの町でも深刻なようで、少数ではあるけれどレムルの森に移住してくる人や家族が今現在も続いている。
シャルテンの町と変わりなく緑も濃く住みやすいそうだ。確かにここには未だに魔物が現れる事も無い。
勿論これからも、コーマ、サリア、レズリアーナさんの力でね。
もしかしたらこう言う事も、密かに噂になっているのかもしれないな。
街道と平行に並んだ住宅の乱立を防ぐ為に造った小道は、現在五本並列になった街並みが出来ている。
更に中央の一画には雑貨屋が店を開いている。
数十軒の住居が立ち並べば、商人が鼻を聞かせてやって来るのが世の常。住民も助かるから、ま、その位いいだろう。
一応代表者に、物価はシャルテンの町と同じで、と伝えた。
住民達は俺を見れば気さくに挨拶してくる。村長とでも思っているのか、知らないけど。
そんな俺よりもファルタリア達三人は、今では子供達に人気があるらしい。
肉や野菜、果物を売りに行った後、剣舞や生活魔法を見せて、眼を輝かして見入っていた、との事。
あ、そうそう、住居の周囲で採れる果物や野菜は、供給より需要が上回り、いざこざが出る程足りなくなっていた。
ここまで大所帯になるとは予想もしていないから、乱獲されても困るし採取を禁止させ、立候補して来た正直そうな商人を売買の代表にして任せた。
元手は無いのだから、労働分に少し上乗せするだけを条件に安くする事で承諾して貰った。
たまに、料理をたくさん作り、展望台で昼食をすれば、レズリアーナさん率いる妖精達も飛んで集まってくる。
こうなるだろうと見越していた昼食をみんなで分け、一緒に食べる。ワイワイガヤガヤ、キャッキャエヘヘと、これも楽しいひと時だ。
その他レズリアーナさんとは、たまに畑を見に行った時など、俺を見つけたら嬉しそうに飛んで来て肩に乗り、他の妖精達を含め順番に、チューチュー、と吸われている。
ファルタリアが思い出したように金色の毛並みの良い尻尾を大きく揺らす。
「ラサキさん、触手を食べに行きませんか?」
「あー、あれか」
「ラサキ、あたいも食べたいがや」
「いいですね、ボクも賛成です」
「ウフフ、食べたいな」
「了解。じゃ、久しぶりに食べに行こうか」
さっそく準備をし、レムルの森を後にして一路ヴェルデル王国に向かう。
住居の代表には魔物除けの効果は持続しているから安心するように言ったら、普通に納得していた。
お人好しのようだ、あまり人を信用しないようにね。
今回は俺達だけなので、早歩きで休まず一日足らずでヴェルデル王国に到着した。
検問所では、以前貰ったプレートを見せれば思い出され、すぐに通された。王国内は変わらず呑気で平和な空気が漂っていた。
あの戦闘から一年と数ヶ月が経っていたけど、歩いているうちに、俺達の装備を見て思い出したように、騎士なのか冒険者なのか不明だったけど、何度か声を掛けられた。
「ドラゴンを倒しに来たのですか?」
「はい? 違います」
「で、では何用で?」
「アルドレン帝国に行く為に」
「タレーヌ側の城門は封鎖されていますが」
「行ってから考えるよ」
タレーヌの丘側の検問所に行けば、確かに門は閉まっている。役人風の騎士が近寄って来た。
「これはラサキ殿、どうしましたか? やっとドラゴン討伐を?」
「いや、残念だけど違うよ、この門、すこ―しだけ開けられない?」
「ダメです、国の命令で開ける事は不可能です」
「了解した、では帰る」
検問所の脇に行き、俺とファルタリアはジャンプ一番、高い塀を乗り越えた。
サリアとルージュも、重力魔法を使って一っ跳びしてタレーヌの丘側に入った。
ルージュがフゥと一息入れる。
「やはり魔力量の減るのがわかりますね」
「ダダ漏れがや、でもこの位問題ないがや」




