第33話 戦闘2
邪王の反則技にはさすがに参った。
これも邪王との戦いなのだから決め事なんて、破られても仕方がない。約束する事態がおかしいのだから。
どうするかな。と三人を見れば横並びで至って冷静に見上げている。
「まだボクの番なので」
「はい、いいですよ。ルージュに任せます」
「ルージュがやるがや。鍛錬の成果を見せるがや」
「フハハハッ! しょうめつだぁー!」
ルージュは両手を空に向ける。グッ、と力の入った表情を見せ、隕石を睨む。
「アイスランス! アイスランス! アイスランス! 爆縮!」
いつものアイスランスの魔方陣とは比べ物にならない程、桁違いな大きさの青白く光る魔方陣が展開され、一〇m程の巨大な氷の矢が三本、凄まじい速さで連射した。
見る見る上空に飛んで行き、雲と同じ高さを越えた、そして……。
落ちてくる隕石に、見事真ん中に突き刺さり大爆発が起こり被害が……え? 何だ? 何が起こった?
大爆発と相殺する爆縮魔法で、爆発が内側にねじ込まれ閉じ込められるように、空気中にめり込むように、何かに丸め込まれるように、吸い込まれ消えた。
「フゥ。ボクの勝ちですよ」
自信に満ちた笑顔のルージュに、信じられない表情の邪王リコ。戦意喪失で棒立ちになっている。
「つよいよお、つよすぎるよお」
可愛そうだけど勝敗を告げる。
「リコの負けだよ。これで終了」
俺に顔を向け、我に返ったリコ。
「くっそー。こんかいはこれくらいにしておくぞ。こんどこそ、うちほろぼしてやるからなー。おぼえてろー!」
振り返り、反対側に走り出すリコ。
そんなリコを、ファルタリアが笑顔で手を振る。
「リコちゃーん。また遊びに来てくださいねー。待っていますよー」
サリアは昨日の出来事が気に障っているのか普通に接した。
「気を付けて帰るがや」
今日一番凄かったルージュも、鍛錬の成果を納得したようで、嬉しそうに手を振った。
「リコちゃん。また戦いましょう」
三人の声が届いたのか、振り返ったリコは、一度俺達を見る。
「はい、またきます。ごちそうさまでした」
転移の魔方陣が展開された前で、両手を前に下げ、綺麗なお辞儀をして振り返り、魔方陣の中に消えて行った。
フゥ。小さな魔人が、邪王が帰ってくれた。
――あれ? あ。
「あー! ドラゴンの事、聞き忘れたー!」
綺麗な金色の尻尾を、大きく揺らすファルタリア。
「ラサキさん、いいじゃないですか。リコちゃん、また来ますよ。あー楽しかった」
後ろのサリアは、長く透き通った白髪がそよ風でそよいでいる。
「いいがや、いいがや」
一歩離れていたルージュが小走りで近寄り、タユンタユンの上下運動がとても激しかった。いや、見ていないけど、決して。
「こんなに真剣になったのは初めてです。いい勉強でした。ハハ」
三人とも簡単だな。次も来る、って……俺は個人的に来てほしくないよ。
礼儀正しい幼女だけど、国を滅ぼそうとした悪の根源の邪王だし、時には弾けた事するし、言う事聞かない事もあるしさ。
それに、また来る、と言っていたから再度、復讐しに来るみたいだし、参ったな。また面倒事が増えた。
あの時確かに、レムルの森にいる、とは言ったけど、本当に来るとは思わなかったよ。
そんな俺の思いも余所に、三人は呑気だった。
「よーし、今の手合せのおさらいで、鍛錬しに行きますか。その後狩りと言う事で」
「いいがや、あたいも賛同するがや」
「そうですね、ボクも反省点があるので行きます」
何処まで鍛錬好きなんだ、この三人は。と言うよりも、バトルが好きなのか? 現状では魔王を凌駕し、邪王より強くなっているのに……どうしたものだか。
事が決まった三人と俺は、途中の小道で別れ、家に戻った。
居間の椅子に座る。
「フゥ。何とも忙しなかったな」
昼間から酒をあおりたい気分だったけど、止めておこう。多分コーマが帰って来るからさ。
座っている俺の後ろから、両手を首に回したわわな双丘が後頭部に当たる。何だかいつもより強めだな。
「お帰り、コーマ」
「ウフフ、ただいま。ラサキごめんね、大きくなくて」
「あー、やっぱり見ていたんだ。それは人それぞれだろ? それにコーマも十分に大きいだろ」
「ウフフ、好きよ」
コーマは俺の後頭部に頭を、そっ、とスリスリさせてきた。うん、気持ちがいい。今回もコーマに面倒掛けたかな。
「いろいろ面倒事が起きているけど、ゴメンな」
「いいのよ。ラサキの好きなようにすれば。私は一緒に居られれば楽しいし」
一度回した手を離し、前に回り込んだコーマ。
俺の両膝を跨いで座り、両手を首に軽く回して来て、深紅の美しい瞳で俺を見る。
「ラサキ。私の胸は三番目だけどいいの?」
「何を言っているんだよ。俺は初めからコーマだよ。全てにおいてコーマが一番だよ。知っているだろ?」
「ウフフ。嬉しい、好きよ。……ん」
優しい口づけをしてくるコーマ。愛情が籠っているのは俺も感じた。コーマは納得したのか、ゆっくり離れる。
「邪王もヤンチャだね。アハハ」
「やっぱりコーマは知っていたんだな」
「うん、知っている。過ぎた事は話せるけど、ラサキが知る前に、経験する前に、私の知っている事は言えないから」
「ハハハ、いいさ。それは今に始まった事じゃないしさ。気にもしないよ」
「ゴメンね」
「何だよ急に。新しい人生と健康すぎる体をくれたんだ。今も感謝しているよ」
「……感謝……だけ?」
「あ、アハハ、ゴメン。俺はコーマを心から愛しているよ」
「ウフフ、ありがと。嬉しい」
強く抱きしめてくるコーマ。多分、昨日今日の出来事を見ていたのだろう。焼きもちも焼かず何も言わないコーマは偉いし、尊敬するよ。
――益々好きになった。
そうだ、気になった事があったんだ。
「なあコーマ。ルージュの使う魔法がサリア並みに凄まじくなったんだけど、素質があったのかな」
「ラサキ、それは違うよ。ルージュが嫁になって、ラサキに愛されているからよ」
「はい? ファルタリアの攻撃力や防御力は聞いていたけど、魔法もなのか?」
「そうよ。ルージュだけではなく、サリアもさらに強くなっているわ。そしてファルタリアは、攻撃魔法の無効化も向上して今ではデスナイトを上回っているわ。三体同時に相手をしても簡単に倒せるくらいかな」
「そ、そうか、そうなのか、なるほど……何とも凄いな」
俺の嫁達は、どれだけ強くなるのだろうか。すでに単騎で邪王より強いし。
世間に公表するつもりもないけど、大騒ぎになること請け合いだから黙っていよう。
「そうだ、コーマ。俺はドラゴンと戦ったらどっちが勝つかな」
ピクリ、としたコーマは、一度目を逸らし人差し指を顎に当てて、少し考え込んでいるようだ。そして俺を見る。
「ラサキ。前にも言ったけどラサキは世界最強なの。――誰も勝てない。人族、魔物、魔人族、竜神族ならね」
悲しい表情になるコーマを見て理解した。
「余計な事を聞いた。ゴメンな。ドラゴンと戦うなんて事はしないよ。約束する」
「ラサキ……ん」
優しい口づけだ。コーマの愛が俺の中に満たされる感じがした。
納得したようなコーマが立ち上がり、俺の手を取り引っ張り上げる。
「ウフフ、ラサキ。早く」
「え? 今から? まだ日も高いぞ?」
「ダメなの?」
「い、いいよ、いいに決まっているだろ」
「ウフフ、行こ」
日も高く気持ちのいい昼下がり。俺はコーマを可愛がった。きっちり可愛がった。兎に角可愛がった。
レムルの森に、爽やかな風が吹き抜ける。
満足してくれたのか、横で気持ちよさそうに昼寝をしている。
そんなに熟睡して夜は眠れなくなるんじゃなのか? などと余計な事は言わず、起こさないように部屋を出る。
集落も落ち着きを見せていたけど、少なからず、まだ出入りもあるようだ。
面倒事は代表者に任せ、しっかり管理するように、少しだけ、ほんの少しだけ威圧を掛けてお願いした。
お願いしますね、と笑顔でね。
タレーヌの丘のドラゴンは、ヴェルデル王国とアルドレン帝国に任せるとして、放置しておいてもいいだろう。
俺には関係ないしね。
また来る、と言っていた邪王はファルタリア達に任せようかな。仲良さそうだしさ。
悲しい事もあったけど仕方がない。それも人生だ。
そろそろ三人が帰って来る頃かな。
今晩の料理は何を作ろうか。
そんな楽しい日が続いて行く。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
これにて第三章が閉幕です。
ドラゴンの落としどころなど考えながら、またプロット作りから始めます。
お待ちいただければ嬉しいです。




