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第32話 戦闘

 翌日早朝、もうすぐ日が顔を出す頃。

 眼が覚めたけど、その体勢を崩さずに天井を見る。

 まだ三人と一人が起きない。手合せの約束をしたからなのか、今朝は狩りには行かないようだ。

 変わらない三人の、可愛らしく綺麗な寝顔。

 そしてもう一人、邪王リコ。スウスウと寝息を立てている寝顔は、まだあどけなくとても可愛い。

 角が生えていなければ、完全に人の子、女の子だ。

 この容姿だけど、俺よりも年上なのだろう。

 しかし、……リコまで全裸って。原因はファルタリアだな、全く。

 そして三人と一人を起こさないように、音を立てず静かに立ち上がり寝室を出る。

 万が一誰かが起きておはよう、の口づけをしようものなら、リコも惰性に任せてきそうで怖かったから逃げた。

 邪王だし、年上だろうからアウトではないと思うけど……。


「さて、朝食を作ろうか」


 日も昇り、窓から朝日が差し込む頃、テーブルの上には、目玉焼き、卵焼き、薄く切った焼き肉、肉野菜の煮込み、肉野菜炒め、そして料理を挟んで食べられるように切れ目を入れたパンと蒸かしたジャガイモを並べた。

 いつも狩りの無い時は、ルージュが手伝ってくれるけど、可愛がった翌日だけは起きてこない。

 余韻を楽しんでいるのか疲れているのか知らないけど、それもいい事だ。


「よし、出来た。こんな感じでいいかな」


 丁度寝室の扉が開き、一人出てきた。


「おはようございます」


 あ、邪王だ。全裸の邪王リコだ。


「ん? おはよう」


 窓から差し込む朝日がリコの体に当たって、清々しいなんてものじゃない、一種の芸術を見ているようだ。

 はい、日の光で輝く幼女の裸体を、しっかり見してしまいました。眩しすぎて良く見えなかったけど。

 すぐ後から全裸のファルタリアが出てくる。あ、こっちはとても見慣れているから平気、全然平気、全く平気。

 でも揺れた大きな尻尾は、艶のある金色で、それが綺麗でモフりたかった。


「ラサキさん、おはようございます。リコちゃん、ほら服を着ますよ」

「うん」


 手を引かれ寝室に戻る。その間にサリアとルージュが起きて来た。


「ラサキ、おはようがや」

「お、おはようございます」

「ああ、おはよう」

「ラサキさん、すみません。ボク、寝過ごしてしまいました」

「いいよ、気にするな」


 続いて服を着て、手を繋いで出てくる二人を見る。


「朝食は温かいうちに食べな」


 サリアとルージュは自分の席に座り食べ始める。ファルタリアもリコを座らせて食べ始める。

 リコは三人の食べ方を見よう見まねで、パンに肉や卵焼きを挟んで両手で持ち、小さな口を大きく開けてパクついた。


「あむ。モグモグ。ん! おいしい! これおいしいです! あむ」


 ファルタリアがリコの口の廻りに付いているパン屑を拭いてあげる。


「リコちゃん、無くならないからゆっくり食べなさいね」


 それをお前が言うか。サリアとルージュも食べながら、細めたジト眼で見ているし。

 全く動じないファルタリアは、リコの面倒を見るのが好きなのか、母性本能をくすぐるのか、楽しそうに、嬉しそうにリコの世話をしていた、焼いていた。

 全員美味しく食べ、俺とルージュで片付け、その間、ファルタリアとサリア、リコでテーブルを囲み、戦闘、戦いと言う手合せの打ち合わせをしているようだった。


 今俺達は、レムルの森の、集落側とは正反対の鍛錬場に来ている。この場所なら少々暴れても大丈夫だろう。

 ファルタリアはリコの手を引いてここまで来た。

 二人共楽しそうだったけど、リコは昨日の晩に一人でやって来たんだぞ? 暗い中一人で。

 国を滅ぼそうとした邪王なんだから、そこまでしなくても一人で歩けるだろ。

 リコもリコだ。手を引かれて喜ぶなよ。邪王のくせに、強いんだろ? 何かおかしくないか? その後ろを歩いて来た二人は至って普通だし、気にしていないし。

 ――何だかな。


 今回の手合せには、俺は参加しない。あ、リコにとっては真剣な戦いのようだから、三人が倒されたら俺と戦う事で納得してもらった。

 三人とも、一人づつ戦う、と言ったらリコに拒否された。邪王たるメンツがあるのだとか。と言う訳で、三対一で戦う、と言う事になった。

 もう一つの決め事は、レムルの森を破壊する攻撃はしない事。あくまでも対戦相手のみなら良し。

 リコのメンツに合わせ、どちらかが死ぬか、無抵抗、または無力化したら終了。

 ――両者二〇mほど離れ対峙する。


「準備はいいかー!」

「私はいつでもいいですよ。エヘヘ」

「あたいもいいがや。アハハー」

「ボクも準備出来ています。ハハ」

「うちのちからをみせてやるぞ!」


 いつもの鍛錬より楽しそうな三人に対し、その姿に見慣れて来た、仁王立ちの邪王リコ。


「フハハハーッ! おそれおののくがいい! ひれふすがいい!」

「始めっ!」

「え?」


 刹那、ファルタリアが残像を残し消えた。

 リコは身動き一つ出来ず、後ろから両腕を取られ捕縛されて終了。

 もがいているけど、足掻いているけど、力もあるのだろうけど、ファルタリアの馬鹿力には勝てないと思うよ。

 でも、バトルアックスも持たずに素手で戦うって、邪王相手なのに、初めから遊びじゃないか。

 サリアとルージュも、ピクリ、とも動こうとしていなかったし。

 今の立場がわかっていない、おかしな声を上げるリコ。


「え? なにを? え?」

「リコちゃん、残念でした。私の勝ちですね。エヘヘ」

「ええぇ? ちがーうっ! なし、いまのなしー!」

「はい、いいですよ。もう一度ね」


 手を離し元の位置まで戻るファルタリア。なんだよ、三対一と言いながら一対一なのか。三人で話が事前にまとまっていたな? 

 ――したたか者め。

 リコが大股で万歳し、気合を入れているようだ。


「こんどがほんとうだぁー!」

「始めっ!」


 リコが素早く攻撃魔法を発動する。


「ばくれつ!」


 リコの両手の前に、魔方陣が展開された。

 既にサリアは冷静に対処していた。


「障壁がや。捕縛がや」


 サリアの両手に、色の違う二つの魔方陣が展開され発動する。

 リコの爆裂魔法は轟音と共に凄まじかった。さすが邪王、と言った所か。

 けど、サリアの見えない壁に遮られ、横にいる二人は、絶対的な安心感があるのか平然としている。

 ファルタリアに至っては、自分は終了しているからつまらないのか、口に手をあてて欠伸しているし。

 そして同時に捕縛魔法も放っていたので、身動きできないリコに素早く走り寄り、ファルタリアと同じように後ろから両手を掴んで終了。


「解除がや」

「くはっ。ええぇ? なにそれ、ずるい!」

「ズルくないがや。あたいの勝ちがや」

「いーやーだー! ちがーう! これはちがーう!」

「いいがや、もう一度がや」


 サリアはリコの手を離し、元の位置に戻る。


「くっそー。こんどこそがほんとうだ。やっつけてやるー!」


 俺は諦めの悪いリコに確認した。


「リコいいかー。始めるぞー」

「いつでもかかってこい!」

「行くぞー、始めっ!」

「ばくれつ! ごうか! ばくらい!」


 リコの今日一番素早い攻撃魔法が発動した。三重の魔方陣が展開される。


「収縮! 鎮火! 避雷!」


 刹那、リコの魔方陣と色の違う魔方陣が重なり展開された。ほぼ同時にルージュの相殺魔法が発動し何も起こらない。

 いや、正確に言えば、ピチュン、プチュン、パチュン、と音がして、粒ほどの小さな光が三つ出ただけだった。

 驚いて辺りを見回すリコ。


「え? なに? なんで?」


 これには俺も驚いた。

 攻撃魔法を防いだり避けたりするのは当たり前だけど、瞬時に相殺する魔法を放っているルージュって、とても凄くないか? 完全に邪王に勝っているし。

 上達したとはいえ、ここまで化けるとは思わなかった。冷静なルージュは、リコを見ている。


「リコちゃん、どうぞ」

「ぐぬぬー。うちのほんとうのちからをみせてやる」


 両手を空に向けたリコが振り降ろす。


「だぁーっ! いんせきーっ!」

「おいリコ! それは反則だ!」


 はるか上空から、紅蓮の炎を纏った隕石が、黒煙の尾を上げながら勢いよくレムルの森目がけて落ちて来た。

 あれが落ちたら、ちょっとや、そっとの事では治まらないぞ。

 レムルの森の山全体どころかその周辺まで吹き飛ばす、消し飛ばすほどの隕石が。

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