第31話 風呂
湯船に入って来るファルタリアと邪王のリコ。
「気持ちいい?」
「うん、あったかーい」
俺の隣にファルタリアがいる。その向こう隣にリコが温まっているのだろう。
そのリコが立ち上がり、湯船の中を移動しているようだ。
気になったので仕方がなく、本当に仕方がなく、正直に仕方がなく、薄眼を開ければリコがルージュの前で立ち止まっている。
そして、タユンタユンと浮かんでいる二つの破壊兵器に眼が止まり、両手で鷲掴みにした。
「でっかいちちだ! これは、すごいちちだ!」
リコの小さな手では、全く歯が立たたず変形も小さかった破壊兵器。ルージュはリコの両手攻撃に全く動じず、優しい笑顔だ。
「リコちゃんもすぐに大きくなるよ。これくらい普通よ」
ウッ、隣から殺気が。
薄眼のままファルタリアを横目で見れば、久しぶりに見る鋭い眼つきでルージュを睨んでいる。それもお湯の中で、ワシワシさせながら。
おい、それ十分あるだろ、気にする事無いだろ。大きい部類に入るから自信を持っていいんだぞ。
あ、そうだ、サリアは? あ、仰向けで漂っていたから聞こえなかったようだ。フゥ。
リコは自分の両手を見ながら、グッパグッパさせてファルタリアの前まで戻り、今度はファルタリアのタユンが眼に止まり、同じく揉みだす。
「このちちもおおきい! うん、おおきい!」
ファルタリアも動じずに、優しい笑顔だ。
「私は、ルージュ、より小さいのよ。リコちゃんなら私より大きくなるわよ」
「ふーん、そうなのかなぁ」
振り返り、今度は漂っているサリアに向かって歩いている。え? もしかして比較するなよ。止めさせないと――。
「ファルタリア、止め……」
あー、遅かった。漂っているサリアの胸を、上から手で、ペチペチ、と叩いている。何事か、と言う表情でサリアが眼を開け起き上がる。
濡れた銀色の長い髪が美しいけど、まだ事態がよく分かっていないな。
「何かや?」
「このちちは、うちといっしょだよ」
サリアの胸と自分の胸を、ペチペチさせる無邪気なリコ。
その反面サリアは、顔を赤くして怒った表情だけど、涙眼になっている。リコの手を払ったサリアは、一歩下がって、ワシワシさせている。
「あたいの方が大きいがや。この通り大きいがや」
リコはサリアの胸と交互に見比べる。
「うん。でもすぐに、うちも大きくなるって」
「だっ、誰が言ったのかやっ?」
怖い眼をしてこちらを睨んでいるサリア。
お、俺は初めから眼を閉じている。薄眼だけど今も閉じている。さっきの一言も気のせいにしよう。
あー、ルージュもファルタリアもいつの間にか背を向けているし、二人とも眼が泳いでいるぞ。
ファルタリアも口笛なんて吹けないくせに、ヒューヒューさせるなよ。
サリアも怒りだすのか? ファルタリアに近づくサリア。頼むから喧嘩はするなよ。
「ラサキッ!」
えーっ? 俺かよっ!
眼を開けて、俺の前で仁王立ちする、今にも泣き出しそうな涙目のサリアを見る。
「ん? ど、どうした?」
「今の話、聞いていたかや?」
「え? め、瞑想していたから聞こえなかったけど……」
「あたいの事、嫌いかや?」
「突然何言い出すんだよ、好きだよ」
「胸小さくてもいいかや?」
「何言っているんだ。サリアはサリアだよ。愛しているよ」
「やっぱりラサキがや。あたいも愛しているがや」
今にも涙が零れ落ちそうだったけど、笑みを浮かべ両手を俺に回し、ピタッとへばり付くように抱きついて来たサリア。
あー、見方によっては不味い体勢か? いや、大丈夫だろう、湯に浸かって見えないだろうし。
俺も片手を背中に回し、もう片方の手で頭を撫でる。
「サリアは可愛いんだし、好きだよ。心配するな」
サリアは安心したように、俺の肩に頭を乗せて首筋に口を、チュッチュ、と付けている。まあ今日は可哀そうだから、好きにさせておこう。
悪気のない? リコは別として、ルージュとファルタリアは羨ましそうに見ていたけど、何も言わない。
順番、とか言いたそうだけど言えないよな。
一言余計だったのだから反省しろよ二人共。
胸の大きさなんて、張り合っても意味ないと思うけど、サリアはツルン、ペタンとは言ってもしっかり膨らみはある。
証拠として、ワシワシしているからね。
一方リコは、ペッタンコで真っ平らだから、ワシワシ出来ない。その差は大きいと思うけど、将来は体の発育任せしかないだろ。
頑張れよ、サリア。俺は気にならないよ、うん。本当に気にしない。サリアはサリアだよ……本当に。
温まったのか、ファルタリアがリコを連れ、続いてルージュも風呂を上がった。
そして、いつの間にか嬉しそうになって引っ付いているサリア。
「んー、出るがや。んー」
しっかり口づけして、落ち着きを取り戻し風呂を上がった。
少しして俺も出る。フゥ、いつもより温まり過ぎたな。一時はどうなるかと思ったよ。
もしかしたらこれも、邪王の攻撃だったのか? それはさすがになさそうだ。
あれ? 手合せは明日にする、って言っていたよな。
で、今、一緒に風呂入っていたよな。って事は、邪王が? 泊まる? この家に? 大量の魔物を使役していたあの邪王が? いいのか?
――冷静に考えよう。
一度整理する必要があるし、三人にも聞かないといけないな。いや、帰るんじゃないのか?
寝間着を着て居間に行けば誰もいない。耳を澄ませば、寝室から複数の声が聞こえる。邪王の声も……。
扉を開ければ――いました。ベッドの上に邪王が……そして全員全裸で。
笑顔のファルタリア。
「あ、ラサキさん。今日はリコちゃんも一緒に寝ますね」
頭を下げる邪王リコ。
「あ、とまるきょかをありがとうございます。たのしいです」
悪意の無い? 幼女のした事だし、もう怒ってはいない、普通のサリア。
「今日はルージュがや。早く行き。がや」
「お、おお、そうか」
扉を閉め、ルージュのいる部屋に行けば待っていた。
「ラサキさん、お風呂ではすみませんでした。よろしくお願いします」
「ああ、いいよ。こちらこそ」
横になりルージュを抱き寄せると嬉しそうに、はにかんでいる。
「好きです」
「俺も好きだよ」
「……ん」
そして――可愛がりました、しっかりと。破壊兵器にはいつも圧倒されているけど、思い切り可愛がりました。
そして夜も更け、一眠りした後ルージュと二人で寝室に入れば、三人とも寝息を立てている。
起こさないように、ベッドに入りいつもの配置になったけど、リコもくっ付いて来た。
気にしないで寝よう、幼女が一人増えた所で同じだ。コーマがいない分人数は同じだからね。あ、ルージュはもう寝息を立てているし。
なかなか寝付けなかったけど、いつの間にか眠りに就いた。




