第28話 レムルの森
休憩していた職人に聞けば、快く答えてくれた。
シャルテンの町で、魔物のファイヤドッグが、何度か検問所をすり抜けるように、飛び越えるように、突破して町中に乱入してきた。
すぐにギルドで対処したけど、その度に数人から十数人が襲われ負傷した。町では不安が募ったが、どうする事も出来ない。
ある日、何組かの住民が立ち話をしている時に小耳に入った。
シャルテンの町からレムルの森に続く街道は、今も魔物が現れない。それは俺の力によるもの。
勘違いしているし。
――違うけど――サリアとコーマの力だけど。
レムルの森にも魔物が現れなくなっている。それも俺の力だと。
――全く違うけど――サリアとコーマとレズリアーナさんの力だけど。
なら移り住んだ方が安心できる。町まで数刻掛かるが、俺達に守られれば安心だ。
――何考えているんだ? 出かけていたら無理だし、いつもいるとは限らないのに。
現在、俺の領土にもなっているし、頼めば許可してくれるに違いない。
はい? そんなに簡単に移住するんだ。資金もかかるだろうにいいのか? シャルテンの町のギルドは、領主は、偉い人は、文句を言わないのか?
面倒事は嫌だから、代表の男に一度住む人を集めてもらい、問題が起こったら自主解決する事、俺を頼らない事、全て個人の判断、移り住んだ人の判断で住む許可だけを貰った事を伝え、了承させた。
――許可しなければよかった、とつくづく思う。今更遅いけどさ。
それからも家づくりは進み、職人も交代せいなのか出入りも多くなった。
それが原因なのか不明だけど、さらに噂が噂を、話が話を呼び、今ではシャルテンの町だけではなく、エランテの町、マハリクの町からも移り始め、いつの間にか、代表をはじめとする数人のまとめ役も出来た、と報告があった。
現在、村に近いような集落が形成されつつある。
街道から少し入った場所に平行に小道が数本。この道を基準に縦横綺麗に整備して家並みが立ち並んでいる。
水の確保は、支流が何カ所もあるので安心だろう。また、山の麓だし、必要な場所に井戸を掘っても湧き出るだろう。
また、ファルタリアもお人好しだから、サリア、ルージュを連れて、何度か移住してきた人に、肉や野菜をお裾分けしに行っている。
一度見に行ったら、感謝されているし、尊敬されているし、照れているし、落ち着いたら買ってもらうのだろうか。
その間俺は、時間があれば我が家でコーマと毎日イチャこいていたよ。
――そして一か月が過ぎた。
ドラゴンは、陥没した場所を寝床にして、寝ているか、起きれば相変わらずタレーヌの丘を闊歩しているだけ。
――何だかなー。
レムルの森に建つ家並みも、最近になって街道から目立ち始めていたので、面倒だけど、レズリアーナさんにお願いして、道境に樹木で塀を作ってもらった。
レズリアーナさんは、嫌な顔一つせずに、いや、むしろ妖力がもらえる、と嬉しそうに手伝ってくれ、塀は一晩で出来上がった。
勿論その間は、椅子に座って順番に、妖力の媒体となる、口づけ、と称して、チューチュー吸われていた事は言うまでも無いけどさ。
レズリアーナさん達に作ってもらった塀は、とても素晴らしかった。
小動物でも通り抜けるのが困難な程密接した、大小の樹木と草や蔦で編み上げられ、立派な塀が完成した。
唯一俺達が、街道から出入りする場所は何の遮蔽物も無く、誰もが行き来できる。
これは使える、と数日後、追加をお願いして俺たちの家と集落の間に一線を引くのに、勝手に進入禁止、と垣根を作ってもらった。
その代り住民には、レムルの森の集落のある周囲で採れる、果物や木の実、野菜は、乱獲しなければ必要なだけ採っていい事を伝え、感謝された。
後から教えてもらった事だけど、樹木の塀の効果は、遮蔽だけではなく、強めの魔物も近寄らないように、俺から多く吸い取った妖精の力を練り込めてあるらしい。
凄い事だけど、住民には余計な事は言わず黙っていた方がいいな。
家々が順に完成し、住みだした住民も増え始めている。その間、何度かシャルテンの町に行って、皿食を食べた。
ギルドのレニは、タレーヌの丘の経過報告を聞きに行ったりしたけど、ドラゴンは寝て起きて闊歩、と相変わらずで、両国の城は、城門を閉めたまま平静を装っている。
レムルの森の集落に関しては、何の話も無かったし、関心もなさそうだ。
逆に現在、シャルテンの町の周囲に現れる魔物の討伐で忙しい。なので、是非手伝ってほしい。
話しに食いついたファルタリアを筆頭に、サリア、ルージュも腕が、ウズウズ、しているようだ。
「ラサキさん、受けていいでしょうか」
「久しぶりがや。鈍るがや」
「ボクも受けて見たいです」
「ああいいよ。行っといで」
三人は装備しているし、意気揚々と、シャルテンの町の周囲を見回る、と言って楽しそうに討伐しに出かけた。
その間俺は、コーマと町中を、イチャこきながら散策していた。
最近コーマも嬉しそうだ。
「ラサキと一緒で楽しいな。ウフフ」
「何よりだよ、俺も楽しいよ」
周囲から、リア充め、とか、爆死しろ、とか、羨ましいぞ、とか聞こえてきそうだけど、コーマには何の干渉もされないので、何事も起こらない。
誰もが眼を引く美人なのに一度も見られない。やっぱり神って凄いな。
それから数刻立ったので、そろそろ戻って来るだろうとギルドに行けば、丁度三人がギルドに帰って来た。
肩に抱え持っていた荷袋には、倒した魔物の戦利品が、パツンパツン、に入っていたので、換金しに行ったようだ。
あー、また資金が増える。
すでに衣食住に関する物は揃え終わって、予備や在庫もあるし当面はいらない。香辛料と酒、塩、お茶などの在庫も倉庫に入りきらない程ある。
資金があるうちに購入しておこう、と買い込んだ結果だ。その資金も、減ったかどうかわからない程微量だった。
最近使うと言っても、皿食代だけだから、貯まる一方だ。お金はあっても不便じゃない、と言っても、自給自足に近いし、こうも使わないと置き場にも困っている。
で、今回ギルドで換金した金貨は、とりあえずファルタリアが持って帰った。
夕食を作る前に、ファルタリアが換金した金貨百数十枚を載せた。
「ラサキさん、どう分けますか?」
「俺は何もしていないから、三人で分けなよ。どうぞ」
「ええぇ? みんなで分けましょうよぉ」
「そうがや、等分がや」
「ボクは、嫁なので、むしろいらないくらいです」
ハァ。だから魔物を倒しても何も持ってこなくていいのに。
いや、成果を報告しなくてはいけないのだから、ギルドに持って帰っても換金を拒否すればいいのに。
ファルタリアとルージュがしゃがみこんで、楽しそうに袋に収集している姿が眼に浮かぶよ。




