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第21話 道中2

 赤くなり、下を向く子供達。

 あー、俺達は慈善団体じゃないんだけどな。遠巻きに親たちを見れば、誰も食事はせずに座って休むだけだった。

 本当に困っているようだな。

 店が破産したからって、そこまでして親族を頼り移動するには訳があるのかな。

 俺達にとってヴェルデル王国やアルドレン帝国は住みやすかったけど……違うのか? でも聞かない。

 下手に首を突っ込んで、面倒事に巻き込まれたくないからさ。

 ――仕方がないか。


「おいで、一緒に食べよう」


 俺は残っている肉の弁当を見せて子供を呼び込み座らせた。眼を輝かせる子供達。


「た、食べていいの?」

「こ、これくれるの?」

「一人一つずつ、順番に仲良くすれば全部食べていいよ」


 喧嘩もせず、むしろ譲り合って弁当を食べている子供達。その様子を見ていた四人も、半分ずつ嫌な顔一つしないで提供してくれた。

 子供に罪はないからね、運が良かったな俺達と一緒で。

 食べ終わり子供達は、ご馳走様でした、ありがとうございました、と礼儀も正しく笑顔で手を振り、親の元に走って行く。

 さて、そろそろ行こうかと立ち上がったら、数人の大人が来て、一人の子供の母親らしき女性が話しかけてくる。


「あ、あの。子供に食べ物を与えていただいて、ありがとうございます」


 全員が頭を下げる。


「いいよ、気にするな」

「み、見返りは……」

「何もいらないよ。子供が可哀そうだから手助けしただけだ。ただし、お宅たちには何もしない事は言っておく」

「そ、それだけでもありがたいです。この御恩は一生忘れません」


 再び頭を下げる。


「だからいいからさ。まだ道のりはあるし気を引き締めるように。準備して」


 戻って準備を始めた。街道を眺めたコーマは、頑張ってね、と消えて行った。

 そこに通りかかった、数人の冒険者を従えた、商人らしき三台の馬車が止まる。


「これはこれは、ラサキ殿とお見受けしました」

「ん? 誰?」

「私は、侯爵直轄の商人でして、ラサキ殿のご活躍は聞いております。ここでお会いしたのも何かの縁……」


 無視して振り返ると、冒険者がファルタリアとルージュを取り囲んで大喜びしているし。


「出立するよ」

「え? ラサキ殿? ラサキ殿―!」


 話し途中で歩き始めれば、最後尾に馬車が付いて来た。

 けれど、俺達の歩く速度は子供に合わせ遅いので、途中まで我慢していたようだけど、お先に失礼します、と抜いて行った。

 始めから、そうすればいいのに。

 決めたからには最後まできっちりしよう。結局先頭に、俺と嬉しそうに腕を組むルージュ。

 最後尾はサリアと、ファルタリア。

 歩き始めてしばらく、後ろから子供のはしゃぐ声が聞こえるので、振り返って見れば笑顔のファルタリアが、子供達と一緒に歩きながら極々簡単な剣技を披露していた。

 見ていた子供達に、凄い、凄い、と十分脅威だったようだね。


「はい、終わりでーす。見せたのですから約束ですよ、しっかり歩きましょうねー」


 その後ろを歩いているサリアは無表情……関心が無いようだね。

 その後も後方では、サリアが威圧を掛けていたから魔物も出ず、順調に進んだ。

 山を越えればシャルテンの町だけど、手前の中腹辺りで日が暮れてきた。場所を探しながら歩き、木々の間に丁度いい大きさの岩壁がそそり立って、所々に家族が寝られそうな場所を見つけた。

 子供の体力も心配なので予定変更して、ここで野宿をしよう。

 座って一息つく。


 さて、暗くなって見えなくなる前に、弁当を子供達に持って行くか。

 立ち上がった俺に、察知したファルタリア。


「ラサキさん、この魚も持って行ってください」

「あたいも少しだけでいいがや、大丈夫がや」

「ボクもダンジョンに比べれば、まだまだ持ちますから持って行ってください」


 三人は、一口、二口、口にして手渡してくれた。やはり俺の嫁とルージュは、優しいな。嬉しくなったよ。

 コーマが消える時、手渡してくれた弁当も取り出し、ファルタリアに持たせる。


「子供に人気があるんだから、これはファルタリアに任せるよ」

「はい、任されました」


 向こうで子供を呼び、輪にして座らせたファルタリアは、上手くやっているようだ。

 念の為、見張りをしようとしている大人達には、魔物が襲ってこない魔法を使っている事を話し、ゆっくり休むように言っておいた。


 翌日早朝、日はまだ出ていないけど、明るくなり始めるのに合わせて出立する。

 順調に山を登り、順調に山を下り、途中数回、商人や冒険者とすれ違った。

 食料はもう無いので、そのまま歩いても良かったけど、子供の体力を考えて休憩だけして歩く。


 昼を過ぎ、レムルの森の我が家に向かう入口が見えて来た。

 うーん、ここから先は魔物も、ほぼほぼ現れないと思うけど……何だかな。

 しっかりやろうと決めたんだし、ここまで来たら最後までだ。入口を通り過ぎシャルテンの町に進む。


 そして夕刻、シャルテンの町が見えて来た。

 検問所で町中に入って行く家族と別れる。沢山お礼を言われたけど、気にするなと言っておいた。

 子供達も笑顔で元気に手を振っていた。頑張れよ、子供達。


 見送った俺は、レムルの町に帰ろうとすればコーマが現れる。


「ラサキ、皿食食べて帰ろう。ウフフ」


 ファルタリアも、毛並みの良い尻尾を揺らし肯定する。


「はい賛成です、それがいいです」

「あたいも食べるがや」

「折角来たのですから、食べたいです」

「じゃ、食べようか」


 で、シャルテンの町に入り、久しぶりの皿食を食べてからレムルの家に帰った。

 帰る途中、あの家族と子供達が少しだけ気になった。借金が残ったのか、とても裕福には見えなかったけど……でも、一からやり直せなかったのかな。

 国を出なくてはならない理由でもあったのか、それとも、王国や帝国には闇の部分でもあるのだろうか……。

 いや、止めておこう。余計な事に首を突っ込んでも何の得も無いからね。

 その為に、誰の名前も聞かなかったんだからさ。とりあえず、無事に帰った事で良しとしよう。

 街道から森に入り、我が家に向かう。短い期間だったけど、懐かしく感じる道。

 そして森を通り帰着。

 フゥー。我が家に着いた途端、気が抜ける感じがした。四人も、ただいま、と言いながら家に入った。

 居間に入り、明かりを灯す。

 テーブルや家具には、うっすらと埃が溜まっていた。掃除は日も暮れていたから、明日にしようと思ったら。そこは嫁たち。


「ラサキさん、掃除しますよ」

「ラサキ、綺麗にするがや」


 そしてルージュも。


「ボクも台所掃除してきます」

「ウフフ」


 コーマは椅子に座って、途中の森で採っていた果物を食べている。

 掃除は俺も手伝ったけど、さすが三人だね、ある意味感激さえ覚えたよ。

 ならお礼の意味を込めて料理を振る舞おうかな。

 食料庫の干し肉を取り出そうとしたら――あ、無かった。正確に言えば、干し肉が一人前だけ。

 掃除も終わり、綺麗になったテーブル席に座り一息ついている三人。と、果物を食べ終わっているコーマ。


「ラサキさんの料理ですか? 楽しみですぅ」

「久しぶりがや。アハハー」

「懐かしく感じます。ハハ」

「早くしてね。ウフフ」

「あ、いや。実は、肉が一人前しかないんだ。ハハハ。でも、シャルテンの町で皿食を食べてから、時間もそう経っていないんだからそんなに腹減ってないだろ?」


 全員に、それは別! と否定されました。

 立ち上がるファルタリア。


「では手合せで決めましょう」

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