第20話 道中
「ラサキ殿、お待ちしておりました」
全員馬車に乗り込み、一路ヴェルデル王国に向かう。
今回もファルタリアとサリアは、眼を輝かせて座席を逆に正座して、窓から見える外の景色を、キャッキャエヘヘ、と眺め楽しんでいた。
検問所を抜け、なだらかなタレーヌの丘を一直線に進んで行けば、一刻程で王国に到着した。
王城に入れば行き慣れた広間に通される。慣れるっていうのも何だかな。
そして壇上には、両国の国王とお偉い様が数人、豪華な椅子に横並びに座って待っていた。
中央に立てば、すぐに聞きたいのだろう、髭の指揮官が話し始める。
「ラサキ殿の活躍は、両国王城内では、持ちきりになっておる。そして、その後の経過について申されるとの事で、この場を設けた。包み隠さず申されよ」
「魔王を倒した事はご存知かと思いますけど、その後現れた、デスナイトなどを調べて行くうちに、強い魔物を使役する、更に強い邪王と名乗る魔物の王がいました」
広間にどよめきが起こった。ざわついているので、落ち着きを待って話を続ける。
俺は、樹海に入り戻って来るまでの、ダンジョンでの出来事を、簡潔に話した。
邪王の容姿は、さすがに信じてもらえないだろうと、デスナイトに似ていると報告した。邪王は幼女でした、なんて言えないし、嘘くさくなるからさ。
魔物は殲滅したけど、最後は邪王に逃げられた事も話した。
「何? 逃げられただと?」
「はい、逃げられました。しかしですね……」
「ラサキ殿は、それでおめおめと帰って来たと申すのか?」
「え、ああ、そうですけど、でも……」
「ラサキ殿に期待しておれば、何たる失態だっ!」
「あのー……」
結局俺の話に聞く耳を持たず、報告は終わった。両国王のどちらかが何か言ってくると思ったけど、何も言ってこなかった。
「これにて会見を終わる。ラサキ殿一行の褒賞は魔王討伐における、レムルの森とその周辺権利のみとする。以上」
「一言いいですか?」
「何? 申してみよ」
「次に邪王率いる魔物が現れたらどうしますか?」
「魔物の強さも知ったうえで、これより数年かけ両国で態勢を整えるから心配はいらぬ。これ以上は何も望まぬ。ラサキ殿は好きにするが良い」
「ありがとうございます、では失礼します」
文句を言っても仕方がない。それに、国内では良くしてもらったからさ。何も言う事はないよ。後は頑張ってくださいね。
他の三人も、特に何も無く、興味も無く、関心も無く、無表情だった。
ファルタリアに関しては、天井の一点を見つめたままで、話しさえ聞いていないようだった。
――早くレムルの森の我が家に帰ろう。
王国内にいるのも面倒になったから、このまま帰る事にした。
フェーニとミケリにも会いたかったけど、仮にも今彼女達は、王国を守る兵士だからね。
他の兵士たちからのとばっちりも受けたくないしさ。
それに二人は、あと半年もすればお役御免で帰って来るだろうし。そうなったら我が家で出迎えよう。
城を出て、まだ日も昇って早々経っていない朝の町を歩く。
ヴェルデル王国から我が家があるレムルの森までは、通して歩けば一昼夜。
なので現れたコーマと共にみんなで話し合い、帰りも野宿をしないと決めれば、携帯食ではなく弁当を調達しよう。
繁華街を並んで歩き、暫く探せばありました、弁当屋。さすが王国、何でもあるものだな。
干し肉から野菜まで豊富に並べられ、調理方法も選べるとか。
その中から俺は、鶏のから揚げとパン。そして、肉の塩焼きを挟んだパンを購入した。俺を見ていたルージュはすぐに、同じ注文をする。
コーマは一口サイズに切ってある肉料理弁当を二つ。サリアは肉と魚弁当。ファルタリアは、大きいシルバーフィッシュの塩焼きを六個も購入していた。
幾つ購入しようが、持てればいいんだし、何も言う事はない。
出来上がった弁当は、各自の腰袋や背負い袋に入れて検問所を抜け、一路我が家のあるレムルの森に向けて出立した。
ヴェルデル王国の北側にある検問所を出て、街道を歩く。
来る時はフェーニ達の為に景色を見る余裕はなかったけど、帰り道はのんびりと眺め楽しんで歩く。
途中、魔物も現れた、いや、見かけたけど、デスナイトに比べれば到底弱く、威圧を掛けるだけで逃げて行った。
その時、違和感があり後ろを振り返る。
そこには複数の人が、家族? が同じ方向に歩いている。
ここは街道だし、王国を出てそれほど経っていないから出入りもあるし、それはおかしい事ではない。
ただ、冒険者もいない無防備な人達が、俺達の速度に合わせ付いて来る。
確認する為に少し早く歩けば慌てて歩く。小走りしている子供もいるし。
あー、俺達と一緒に行けば助けてくれる、とでも考えているのか?
気になったので、ファルタリアに頼み聞きに行ってもらい話をし、帰って来た。
「シャルテンの町に行くそうです。冒険者に依頼するお金も無く悩んでいたそうです」
ファルタリア曰く、店が破産してシャルテンの町にいる親族を頼るために出立しよう、と検問所に来たが、無一文で途方に暮れた。
道中では何人かが犠牲になるかもしれない、と悩んでいたところ、駐在していた騎士が俺達を見かけ、着かず離れず付いて行けば助けてくれる、と吹聴した事が発端で、聞いていた数組の家族が後を追うように付いて来た。
眼を輝かせて尻尾を揺らしている、お人好しなファルタリア。
「ラサキさん、一緒に連れて行ってあげましょう」
「あたいはどっちでもいいがや」
「ボクはラサキさんにお任せします」
「私もラサキに任せるわ」
「のんびり帰ろうと決めていたし、大した事ではないか」
了承し俺達の後ろに十数人の家族を従えるように歩く。前方からの魔物は出てこない。
最後尾の後ろから魔物が現れた時は、事前に察知したサリアとルージュが魔法で対処する予定なので、家族は安心して歩いている。
歩く事数刻、とうに昼を過ぎているけど疲労も無く歩く。けど、後ろの家族は必至で、疲労の色をにじませている。
決めた以上しっかりやろう。
街道沿いの、木陰が多く点在し、全員が休める緑の濃い森の一画で、休憩をする事にした。
俺達は輪になって座り、後ろを見れば家族同士、個々に離れて座って休み始めた。
さっそく弁当を広げ食べ始める。
シルバーフィッシュの塩焼きを、頭から、バリバリ食べる嬉しそうなファルタリア。
「こうして食べるのも美味しいですね。あむ」
「ラサキ、美味しいね。ウフフ。あむ」
「美味いがや。あむ」
「緑が気持ちいいですね。あむ」
「風も心地いいしな」
弁当を堪能していたら、少し離れた木の陰から、隠れるように俺達を覗き見る子供が数人。
すでに俺達全員は察知していた。
「何しているんだ? こっちを見ているのは知っているから隠れていないで出て来なさい」
バレて、見られているので観念するように、木の陰からうつむき加減で出てきた。
見れば男子が三人、女子が二人いた。
「どうしたのかな? お父さんとお母さんの所にいないと心配するよ。魔物も出るからね」
俺の話を余所に、ファルタリアの豪快な食べっぷりを真剣に見ている。
あー、そうか。
「お腹が減っているのか?」
反して答える一人の男の子。
「も、もう食べた」
女の子もお腹をさする。
「お腹いっぱい」
その直後、大きく長く、子供らの腹の鳴る音が聞こえた。




