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第18話 アルドレン帝国

 この状況は、魔物の討伐だけではなく、他にも原因があった。

 一昼夜程なら寝なくても全く問題ないけど、出立し、強い魔物と戦って、今に至るまで三日を要したので、強い弱いでは無く、単純に睡眠不足、女性の大敵が待っていた。

 虚ろな三人を従え歩く俺。ん? 俺も眠いけどそこまで疲弊していないな。あ、これもコーマがくれた力か。


「ウフフ、ゴメンね」

「逆だよ、ありがとう」


 昼をとうに過ぎる頃、アルドレン帝国に着いた。疲労困憊だったけど、一応聞いてみるか。


「携帯食も残っているけど、宿に帰って寝るか、皿食でも食べるか」


 急に最後の力を振り絞ったのか、三人の眼が輝いた。勿論コーマも。


「触手がいいです、触手」

「触手がや」

「ボクもその料理が好きです」

「私も食べたいな。ウフフ」


 睡魔に勝った触手料理は、確かに美味しいからね。で、食べに行きました。

 薄汚れていたけど、店では快く出迎えてもらって、先日の個室に通され、テーブルに所狭しと料理を載せてもらって美味しく食べる。

 皆も、美味しい、を連発して競い合うように食べている。

 ゆっくり食べろ、といつも言っているのに聞かないね君達は。

 ちなみに食べる早さは、見た目ではサリアが不利かと思ったけど、丁寧に綺麗に食べるルージュが一番遅かった。口いっぱいに頬張っているサリア。


「モグモグ、ルージュ。化け物たちと戦っても意味ないがや。モグモグ、自分のペースで食べるがや」


 反して驚くファルタリア。


「ええぇ? 私って化け物なんですかぁ?」


 うん、俺もそう思う。


「当たり前がや、化け物がや。勝てた事一度も無いがや」


 一緒にされていたコーマは、気にする事無く美味しそうに食べている。

 急に開き直ったファルタリア。


「いいです、いいですぅ。私もコーマさんに習って気にしない事にしました。あむ」


 怒涛の食事も終わりお茶を飲む。


「ウフフ、美味しかった」

「本当ですね、とても美味しかったです」

「美味かったがや。アハハー」

「ボクも虜になりそうです。ハハ」


 メイドに食べ終えた事を伝え、やはり会計は無料だったので、お礼を言って宿に帰った。

 腹が満たされれば眠くなる。けど眠い目をこすりながら部屋に入れば、さっそくいつもの配置で風呂に入って温まる。

 温まれば気持ちがよく、眼が覚める。一時的だけどね。


「おい、ファルタリア」

「は、はい。お気の済むまで、どうぞ」

「フフフ」

「アン……」


 俺はファルタリアの尻尾を前にして、仕返しとばかりに、これでもか、と言うほどモフッてやったよ。

 でも、嬉しそうにしていたのは悔しい気分だな。

 温まり出れば、さすがに疲れが、ドッ、と出た。夜遅くも無いけど、俺も含め泥のように眠った。


 翌日、目を覚まして天井を見る。各ホールドはキツイけど、これも一種の愛情だと思ってそのままで考える。

 魔物関係は取り敢えず、これでしばらくは安泰だけど、やっぱり報告は必要だよな。それも両国に……。

 あー、面倒臭い。

 邪王率いる魔物の討伐は誰も知らないし、知る由も無い。

 知らない事は良い時もある。知ったところでどうなる事でもないからさ。

 どうやって報告しようか。普通に信じてもらえるだろうか。急ぐ事も無いからゆっくり考えるとしよう。

 ん? 居間からいい匂いがしてきた。いつの間にかメイドが朝食を運び入れていたようだ。

 匂いに敏感な、それも食べ物の匂いに特化したファルタリアが目を覚ます。


「スンスン、良い匂いですね。おはようございますラサキさん。……ん」

「おはようラサキ。ウフフ……ん」

「おはようございます。やっと疲れも取れました。……んー」


 笑顔でよじ登ってくるサリア。


「おはようがや。朝食食べるがや。……ん」


 居間に行けば、いつも通りの料理が敷き詰められていた。


「今日はゆっくり食べなよ。じゃないと次回の触手料理はお預けだからね」


 素直に従う四人は、ゆっくりと食べ始める。そうだよそう、緩やかな時間が流れるようで気持ちも安らぐだろ。料理も堪能できるしさ。

 で、美味しく頂いて完食。

 デザートの果物も食べ終わり、お茶を飲みながらひと時を過ごす。

 マッタリしているから、昨日の帰り道に感じた疑問をサリアに聞いてみた。


「なあサリア。タレーヌの丘の陥没した場所って、魔法で元に直らないのか?」

「無理がや。物理的に無理がや」


 サリア曰く、爆裂や雷撃などを放ち、焼失、変形、切断、消失なら普通に起こる。

 しかし、土や石などの鉱物の再生、木々や草などの植物の生成は、出来ない、と言うより無理。ある物体を、切ったり、くっ付けたり、粉々にしたり、は出来る。

 もし出来るとすれば、それは等価交換。その対価に値するものと交換すれば、もしかしたら可能かもしれない。

 だけど現実は無理。

 唯一、水は作り出せる。正確に言えば、空気中の水分を凝縮させて絞り出しているから。


 お茶をすすりながら話すサリア。


「だから無理がや。そのくらいがや」

「なるほどな」


 そんな話をしていたら、ファルタリアとルージュは魔石の話をしていたので、俺とサリアも思いだし、腰袋にぎっしり入った魔石を取り出して、二人の前に出した。


「この魔石をどうする? 換金するか?」

「はい、そうします。じゃないと荷物になりますからね。エヘヘ」

「ボクも賛成です」

「なら帝国のギルドに行って見ようか」


 急ぐ必要もないので、ゆっくり身支度して宿を出る。町中は相変わらず、活気があるし平和でのどかだ。

 検問所で場所を聞いて行って見れば、シャルテンの町とは比べ物にならないくらい大きかった。

 コーマは、事が終わったら現れる、と言って消えていった。

 休戦した事もあり、中の広間には冒険者が、チラホラ、見受けられた。

 中に入れば、俺達は知られているようで、すぐに周りを取り囲まれ、感謝された。面倒だけど仕方がない、少し付き合って落ち着いた頃カウンターに行く。

 受付嬢の容姿は、フェーニに似ているけど、肌が浅黒く、尖った耳で青い髪のたくましく思えるダークエルフだった。身長も一七〇センチ程はありそうだ。


「いらっしゃいませ、受付のデュシナールと言います」


 デュシナールに魔石の換金を頼み、ぎっしり詰め込んだ布袋を二つ手渡す。たくましく見えても女性だし、さすがに持てる訳がなく、奥にいた仲間を呼び止め、二人で運んで行った。

 換金している間、俺とサリアは面倒だから、冒険者に向けて威圧を掛けていたので、誰も近寄らなかったけど、離れて待っていたファルタリアとルージュは、人柄がいいのか、優しいのか、群がる冒険者に、嫌な顔一つ見せず、笑顔で対応していた。

 少しして、奥からデュシナールが血相を変えて出てきた。

 その訳は、滅多に手に入らない貴重な魔石ばかりなので、本当に全部換金していいのか聞きに来たらしい。


「構わない、全部換金してくれ」


 半分くらい王国のギルドで換金して上げれば良かったかな。

 結局、デュシナールが持って来た金貨は、白金貨五〇枚になったので、ファルタリアとルージュに手渡そうとすると。


「全部頂く訳にはいきません。みんなで分けましょう」

「ボクもそれがいいと思います」

「嫌だよ、俺はいらない」

「あたいもいらないがや」

「ええぇ? 何でですかぁ?」

「勿体ないと言って持って来たのは二人なんだから分け前は二人分。俺は減らない金貨を持っているし増えると重くなるからいらない」

「あたいも同じがや。重くなるがや」


 結局、二人で分けてもらった。

 お金なのに、大金なのに、白金貨なのに、持たされた二人は少し悲しそうだった。好きに使っていいよ。

 ――何だか罰ゲームのようにも見えた。

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