第17話 樹海2
それだけでも十分だよ。魔法の無効化で、無傷で残ったデスナイトは、俺とファルタリアで確実に、一体また一体と打ち倒した。
「ま、こんなところかな」
中央付近で落ち合う俺と、笑顔のファルタリア。
「フゥ、ラサキさーん。終わったみたいですねー」
そこに、威風堂々と歩いて来るサリアと、その横を普通に歩いて来るルージュ。
「これで良かったかや?」
「ボクも言われた通りにしたのですけど」
「ああ、お疲れ様。よくやってくれたよ」
一息入れていればファルタリアとルージュが二人して、あっちこっち、とまたしゃがみこんで、落ちている魔石を拾い集めているし。
しかも、腰袋がパツンパツンになっているし。
さらに、失礼します、と俺とサリアの腰袋にも入れて来るし、貧乏性と言うよりも、収集する事が楽しいのかな。現に楽しそうだから、好きにさせておこう。
「う、う、ううぅ」
ん? 静かになった空間で、魔物を倒した場所からさらに奥にある大岩の陰から、女の子の可愛らしく高い声が聞こえて来た。
そして――。
「う、うわーん! あたしの、グリちゃん、ワイちゃんがぁ! うわーん! キメタンにデナタンがぁ! うわーん!」
何だ? どうした? 何が起こっている?
俺も三人も良く分からないけど、声のする方向に歩いて行けば、岩陰に隠すように設置された豪華な椅子に、幼女がちょこんと座って、両手を顔に当てて号泣していた。
身長一一〇センチ程だろうか、黒い髪が長く伸び、高級そうで赤く煌びやかなゆったりした布の服を身に纏った、色白の女の子。
あ、頭には黒髪を押しのけるように、可愛く桃色の小さい角が二本、左右に生えていた。
「え? 邪王か?」
号泣して我を忘れていたのか、近寄った俺達に気が付かなかったようだ。
両手を離せば、泣き顔とはいえ、とても可愛らしい顔をした幼女だった。
俺達が目の前に現れ驚く幼女。
「え? ええぇ?」
慌てて両手を前に出す幼女。
「ごうかよ、うちほろぼせー!」
幼女が両手を前に出した時点で察知していたサリアとルージュ。
「障壁がや」
「障壁」
サリアに引けも足らない、凄まじい爆炎攻撃だったけど、俺達の前にある魔法障壁で簡単に防いでいた。
さらに幼女は。
「ええぇ? ばくらいよ、うちはなてー!」
「障壁」「障壁がや」
けたたましく大きな雷が何本も落ちたけど、また簡単に防ぐ。
けどサリアは知っているかのように面倒臭そうに防いでいるし。
「邪王かや? あたいは樹海の魔女がや」
「え? まじょ? まおうとおともだちの?」
「違うがや! 友達でも何でもないがや!」
「そ、そんなぁ。ふ、う、うぇーん」
また号泣し始めた。大粒の涙を流し、鼻水も垂れている。
俺は一歩前に出て邪王に話しかける。
「で、君が邪王でいいんだよね」
攻撃魔法も効かないと観念したようだ。
「そのとおり、わたしがじゃおうだ。よくもわたしのだいすきな、かわいいまものたちをたおしてくれたなぁ?」
椅子から降り、サリア顔負けの仁王立ちで俺達の前にたった。
邪王曰く、これだけの魔物を使役するのに数十年かかった。整えるまで、また数十年かかる。倒された惨状を見て叶わないと観念した。
「なら降参するか?」
「いやだぁー」
また両手を前に出す邪王。
「ばくふうよ、たたきつぶせー!」
サリアの力の無い一言。
「ハァ、しょうへきがや」
凄まじい暴風が吹き荒れる。だが、やる気ない言葉でも、効果は絶大で、俺達は何の干渉も受けない。
その間に走って岩壁まで逃げて行く邪王。逃げ道らしき場所は無いのに、と思って放置したら振り返った邪王。
邪王と言えど、見た目は幼女だから、何だか素振りが可愛く思えてしまった事は黙っておこう。
「いまにみていろぉ。つぎこそは、かならずいたいめに、あわせてやるぅ」
「あー、面倒だからさ、その時はレムルの森に来なよ。俺達が住んでいるし、逃げも隠れもしないからさ。俺達を先に倒さないとまた邪魔するよ。なんならタレーヌの丘で戦ってあげるからさ」
「くっそぉー! ほえづらかくなよぉ!」
言い終わった瞬間、岩に展開された魔方陣と共に消えて行った。
「逃げたがや、どうするかや?」
「これで少しは懲りただろうし、俺達の存在も知ったから、ほおっておこう。ましてや、そう簡単に立て直しが出来ないんだろ?」
「いいのかや? また来るがや」
「その時はまた、受けて立てばいいしさ。現に今回は殲滅したんだし」
「ラサキが言うならいいがや」
「よし、帰ろうか」
ん? あれ? ファルタリアとルージュがいない。
見渡したら、邪王は眼中にない、と判断したのか、また魔物を倒した場所で、二人仲良くしゃがみこんで楽しそうに魔石拾いしているし。
俺とサリアの腰袋も沢山入っているのにどうするのか見ていたら、何処で探したのか、はたまた拾ったのか、背負えるような布袋に入れている。
楽しそうに、それ綺麗、とか、この色好き、とか言っているし。
邪王相手に戦ったのだから、緊張感持とうよ。陽気なファルタリアはともかく、ルージュも流されているし。
あー、こうなるとルージュも、ちんこの歌、を堂々と歌うんだろうな。少し悲しくなったけど……一人増えた所で変わらないから、と心に決め、気にしない事にした。
「おーい、帰るぞー」
「はーい。今行きまーす」
「はい、了解です」
帰り道は、来た道を辿って行く。帰りながら、今回の魔物の事など談笑して歩いたけど、拾っていた魔石が気になったので聞いてみた。
「二人は魔石をどうするんだ?」
「え? 換金ですよ換金、勿体ないじゃないですか」
「ボクもそう思います」
「いや、いいんだけど。でも俺達の資金は貯まるばかりで減っていないよ。むしろ増えすぎているのが現状なんだけど」
「確かに私の手持ちのお金も全く減っていませんね」
「ボクも、レムルの森に来てから使っていません」
「なら拾わなくてもいいんじゃないのか?」
「ラサキさん。だから勿体ないですよ、折角落ちているのですから」
「ボクもそう思います。備えあれば憂いなしです」
「さ、さすがだね。そうだね、そうだよ、うん」
言いくるめられたようで、少し悔しかった。ルージュはまだ嫁じゃないから許してあげよう。
だがしかし、宿に帰ったらファルタリアを思う存分に、モフッてやろう、うん、そうしよう。
「へくちっ、あれ? へくちっ」
俺を見つめるファルタリア。
「ラサキさん。私の事、さらにスキスキ、になりました? え? ラサキさん? ラサキさーん」
聞こえない振りして無視して先を進んだ。
今回の討伐は、睡眠をとる事無く終了した。樹海に出たら日も高く、木々の隙間から日差しが強く入り込んでいる。
眩しく眼を細めれば、コーマが嬉しそうに現れ腕を組んで来た。
「お疲れ様、ラサキ。穴に入ってから三日経っているよ」
「道理で眠いわけだよ」
「ウフフ、早く帰ろう」
コーマは両腕を首に回し、口づけをしてくる。
悪いと思い振り返れば、疲れ切った三人が朦朧として、半分寝ながら歩いていた。
特技か? よく歩けるものだな。




