第11話 二人で鍛錬した
剣を構え向かい合う。
ファルタリアが踏み込んできた横一線の一撃。重く鈍い金属音が響き渡り、俺は五mほど弾かれた。分かって受けたけど凄まじい力だな。
今度は俺がファルタリアに連続で左右に撃ちこんでみるけど、バトルアックスの重さを無視した動きで難なく受けきった。
あの細腕のどこに理不尽な腕力があるのだろうか。その腕力に、バトルアックスがしっくりしているのだろう。正解だな、
ファルタリアの連続攻撃も素早く、昔の俺なら瞬殺だったな。水を得た魚のように無駄の無い動きで力強く攻撃して来た。
しかし、ここまで化けるとは思わなかったよ、もう十分だろう。
「これくらいにしておこう、ハァハァ、俺が持たないよ、終了だ。ハァハァ」
「ハァハァ、ありがとうございました、ハァハァ。いい感覚です、ハァハァ」
鍛錬を終了し家に入る。
その夜、今日も簡単な肉野菜料理を作り、森で獲れたジャガイモを蒸かして塩をまぶし、テーブルに乗せる。
コーマは文句も言わず何時ものように、嬉しそうに食べている。
ファルタリアはというと、眼が輝いて感激しているようだ。
「んー! 美味しーい! ラサキさん、美味しいです!」
「それは良かったよ、ゆっくり食べな」
俺も一緒になって食べ始める。談笑しながら食べたけど、三人になると賑やかだな。これはこれで楽しいよ。
食べ終えたコーマもお腹をさすって満足したように見える。勿論ファルタリアもね。
「ファルタリアは料理は出来るのか?」
「ううぅ、聞かないでください、全く出来ません。毎日、町の皿食でした」
「悪い事を聞いて悪かった。まあ、気にするな」
「でも、いいお嫁さんになれませんよね。ラサキさん、作り方を教えてください」
「面倒臭いよ、自分なりに少しづつ覚えればいいよ」
両腕を曲げ、胸の辺りで両手を握るファルタリア。
「わかりました、頑張ります」
夕食後、居間でマッタリとしている時、ファルタリアに聞いてみる。
「なあ、ファルタリア。お願いがあるんだけど……」
「はい、何でしょうか。ラサキさんがお望みならこの体でご奉仕します」
「いや、そこまではいらない。けど、尻尾を触らせてもらえないかな」
すぐに俺の隣に座り、赤ら顔で膨らんだ尻尾を俺の膝に乗せる。うわ、柔らかいし毛並みもいい。
「ど、どうぞ、遠慮なく蹂躙してください」
「そんな事はしないよ。けど、失礼します」
いやー、モフッた、モフッた、最高でした。やっぱりファルタリアの尻尾はいいよ。毛並みも良く正解だ。また頼もう。
その余韻で、気持ちよく就寝した。
翌日、ファルタリアの懇願に負け、鍛錬はさらに数日続いた。
◇
今日も鍛錬している。さらに上達したファルタリア。バトルアックスの動作も、機敏に自由自在に手に取るように使えている。
「これで終わりだな、ファルタリア。俺が教える事はもうないよ。と言うより俺はもう、ファルタリアには勝てない」
「ハァハァ、本当ですか? ハァハァ、私、強くなりましたか? ハァハァ」
「ああ、俺の見立てでは、そこらの冒険者が束になって掛かって来ても勝てるよ」
「ありがとうございます、これもラサキさんのお陰です」
「いや、ファルタリアの力だよ、お疲れ様」
「では、やっと私もラサキさんの部屋でご一緒になれるのですね」
「何でそうなるかな、まだダメだよ」
「ええぇ? まだですかぁ? では、お礼にこの体でご奉仕をさせていただきます」
「大丈夫か? ファルタリア。いらないよ、だったらお願いがある」
「いいですよ、いいですよ。ラサキさんのお願いでしたら何でも聞きますよ。また尻尾ですか?」
「そうだよ、いいかな」
すぐに尻尾を俺に向ける、顔が赤いファルタリア。
「いいですよ、何度でもどうぞ。ラサキさんの気が済むまで蹂躙して下さい」
「では失礼して」
堪能する事しばらく――いやー、何度モフッても気持ちがいい尻尾でした。毛並みもいいからなおさらだね。これは癖になる。いや、もうなっているな。
一息ついて、今度は森の中に入り、狩りに出かけた。今は獣感知のコーマも同行している。ファルタリアにも狩りが出来るように、俺より大きく長い槍を持たせている。
歩くこと十数分でさっそくコーマが見つけ小声で話し指を差す。
「あそこに猪がいるわよ」
「よしファルタリア、見えるか? やってみろ」
大きく振りかぶり槍を投げる。
「はい、行きまーす。フンッ!」
もの凄い風切音と共に槍がすっ飛んで行く。あ、外れて岩に当たり、槍も粉々になった。でも、砕けた槍の破片が猪に突き刺さり、仕留めたよ。
「どれだけ馬鹿力なんだ? 槍が無くなっちゃったよ」
「す、すみません。今度はもう少し手加減します。槍も作ります」
「いいよ、猪も仕留めたし、これで暫くは食料に困らないから」
その後は俺が一頭を仕留めて終わり。ファルタリアと一頭ずつ担いで帰った。
その日の夜は、ステーキで腹を満たした。感激するファルタリア。
「んー、美味しいですね。こうしてラサキさんの料理を食べられて幸せです」
「そうでしょ、でも、私の為よ」
「はい、知っていますよ。私は二番ですから」
よく分からないけど、二人とも満足したようだね。
夕食後、俺は水浴していると視線を感じ、扉を見る。その扉を少し開けて顔を出している、緩んだ笑みのファルタリアの眼と眼が合う。
「何しているんだ?」
「コーマさんが、一度くらい見てくれば? と言っていただけたのでお言葉に甘えて見ています」
俺も、四十年生きているし、見られて恥ずかしい年でもないから隠してはいないけど。
「はぁ、全く。もういいだろ」
食い入るように見ている、緩んだ笑みのファルタリア。
「ラサキさんのちんこ、大きいですね」
「ば、な、何言っているんだ。馬鹿じゃないのか?」
「え? ラサキさんのちんこ、好きですよ、素敵です。エヘヘ」
「何でそこだけ強調しているんだ! 変態だぞ!」
「ええぇ? だってラサキさんのちんこですから。見ていて楽しいですよ、ちんこ。エヘヘ」
「ちんこ、ちんこ、うるさいよ! 黙れ! 俺が恥ずかしくなるから止めろ! 早く扉閉めろ!」
「はーい、失礼しましたぁ」
ファルタリアは、馬鹿を通り越して変態の域に踏み込んだのか? 獣人はそこが気になるのか? コーマもコーマだよ、何そそのかしているんだよ全く。
心が落ち着くまで大変だったよ。
◇
就寝前のひと時に、ファルタリアにコーマの事を簡単に話した。俺の事は面倒だから話していない。ファルタリアは驚いていたけど、秘密厳守を命令した。
「コーマさんは、神様なのですね」
コーマは頷き、ファルタリアに話す。
「そうね、でも気にしなくていいわ。口外無用は大前提として、私はラサキ以外に対して何もしない。手も出さない。例えファルタリアが殺されそうになってもよ」
「はい、わかりました。私、これでも口は堅いんですよ。安心してください」
「本当のようね、なら私は何も言う事は無いわ」
「では、今後の動向にご一緒してもいいですか?」
自分の家を捨ててこの家に住んでいるんだ。断る理由は無いな。
「いいよ、仲良くやろう。それに、強くなったファルタリアがいれば何かと楽だろうからね」
「お願いします、ラサキさん」
「私はラサキに任せているわ」
「お願いします、コーマさん」
一緒に行動する事を確認し、就寝した。




