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第 9話 ヴェルデル王国4

 ファルタリアが興味を持った剣は、この店で一番大きな剣だった。長さにして、両刃部分二m、幅二〇センチ握り手も三〇センチあり、両手持ちの大剣。

 さすがにこれを振り回せる空間は無い。なのでファルタリアも両手に持ったまま眺めている。


「これはラサキさんに丁度いいんじゃないですか?」

「大きすぎだろ、持ち運びにも苦労するよ。いや、無理だよ」


 使える前提で話をしていたら、固まっていた店員と冒険者達が、今度は嘲笑している。使えないと思っている表情の店員が声を掛けて来た。


「いらっしゃいませ。宜しければ、裏にある広場で試し振りが出来ますが、如何でしょうか」


 話しを聞いた嬉しそうなファルタリアは、毛並みの良い金色の尻尾を揺らしている。


「ラサキさん、行って見ましょうよ」

「んじゃ、少しだけな」


 サリアとルージュは興味が無いらしく店に残った。

 ファルタリアは大剣を片手に持ち、理不尽な持ち方で軽々と持って裏に出て行く。

 広場に出れば、興味本位で店員と冒険者達も一緒に出てきた。

 広場の反対側には道があり、大剣に眼を引いたのか、野次馬らしき暇そうな観客も数人柵越しに見ている。

 さっそくファルタリアが振って見る。余りにも重力を無視したような素振りに、驚愕の表情になる観客。


「えい、やっ、たっ。――うーん……私には向きませんね。やっぱりバトちゃんがしっくりします」


 どうぞ、と気軽に手渡してくるファルタリア。

 両手で縦に持ってみると、中々の重量感はあった。


「んじゃ、少し振って見るか」


 短剣でも振るように素早く高速で、鍛錬している時と同じように剣技をしてみた。

 やはり大きいので、風圧が周囲に飛んで行き、ファルタリアの髪と尻尾がたなびいているし、観客の髪もたなびいて固まっていた。


「やっぱり、これは使えないよ」


 固まっていた店員に返そうとしたら、元のあった場所に返してほしいと懇願された。

 聞いたらこの大剣は、店の装飾で飾っていた物らしく、開店以来、試し振りは無く今日が初めてだと言う。

 そして、店員一人では重くて持てない代物だった。なんだよ、早く言えばいいのに。

 武器屋を出た俺達は、また散策をする。

 何処を歩いても、のどかで活気があって住みやすそうな国だと感じた。外界と遮断されて、呑気と言うか気が抜けていると言うか……それがこのお国柄なのかもしれないな。

 ファンガル中立国も橋一本で繋がる閉鎖的な国だったしさ。


 ファルタリアとサリアを前に歩いていれば、尻尾を揺らし、スタイル抜群で綺麗なファルタリアと、小さくスレンダーで、艶やかな銀髪を揺らしながら歩いている可愛いサリア。

 すれ違う男達はチラ見した後、振り返っているし。自慢だな、うん。

 俺と腕を組んでいるルージュを交互に見られれば、チッ、と舌打ちが聞こえた。ルージュも破壊的なスタイルの上に、紫の髪が引き立って可愛いしね。

 歩く事数分。何かを思い出したように、ファルタリアが振り返る。


「ラサキさん。フェーニとミケリに会いに行きませんか?」

「ん? ああ、いいよ」

「折角滞在するのですから、宿泊先とか伝えたいので」


 と言う訳で、検問所まで来て外に出る。

 野営地に向かえば、テントが沢山あるので何処だか見当もつかない。入口付近にいた数人の兵士に声を掛けようとしたら、最敬礼されてしまった。


「だ、代表してお礼を申し上げます。せ、先日は助けていただき、誠にありがとうございました」

「いや、いいさ。ところでフェーニ中隊長に会いたいのだけれど」

「はっ、ただいま呼んできます」


 一目散に駆け出す一人の兵士。いや、そこまで必死にならなくても……。

 すぐにフェーニとミケリが駆け寄って来た。抱きつこうとするそぶりを見せたけど、悲しい表情に変わり諦めて寄ってくる。

 あ、ルージュがくっ付いているからか。


「あー、ルージュー。何だか一人占めしているみたいだー」

「う、羨ましいニャ」

「いいでしょー。ハハ」


 でも仲がいいのだろう、察したルージュがすぐに離れると。フェーニとミケリが抱きついて来た。

 二人の頭を大雑把に撫でれば、嬉しそうにはにかんでいる。


「今日はどうしましたか?」

「何か用ですかニャ?」


 俺達は、王国内を見て回るのに数日滞在する事を話し、宿泊先を教えた。

 そのついでに、フェーニ達の近況を聞いてみた。


「先日の魔物の襲来以降、戦況が変わりました。と言うより終わりました」


 フェーニ曰く、戦争から魔物の襲来までで両国とも死者、負傷者が多数出た上、タレーヌの丘も半分が消失。

 態勢を整えるにも数年から十数年必要とするし、魔物の襲来に向けても検討しなくてはならない。

 また、俺達一行の桁違いな、場違いな、お門違いな強さを見たアルドレン帝国は、降伏はしなかったものの、一時休戦から停戦協定を申し込んできた。

 ヴェルデル王国も、状況は同じなので、すぐに協定を受け入れた。

 なるほど、何はともあれフェーニとミケリの念願がかなった形になったね。良かった良かった。


「でも、フェーニとミケリはまだ中隊なんだろ?」

「はい、参戦する際に制約がありまして」

「決め事ですニャ」


 この戦争が長引いても終戦しても、半強制だが参戦した以上、最低でも一年は努めなくてはならない。なので期限が来るまで野営地で兵士として働く。


 ファルタリアが笑顔で声を掛ける。


「今度遊びに来なさいね。一緒に皿食を食べましょう」

「はい、了解です」

「了解ですニャ」


 その後、ファルタリア、サリア、ルージュと輪になって談笑していたら、俺達を見ていた兵士たちが憧れの眼差しで寄ってきて、握手を求められたり、お礼を言われたり、ちょっとした騒ぎになってしまった。

 フェーニ中隊もやって来て、俺達と知り合いと知り、羨ましがられ、気をよくした、フェーニとミケリが、命の恩人、とか、ファルタリアが師匠、とか、俺の家で一緒に住んでいる、とか、帰ったら嫁になる、だとか余計な事までしゃべくり回っていた。

 言ってしまった事は仕方がない。

 フェーニ中隊長とミケリ副隊長に敬意を表し黙っていよう。二人の格が上がる事には俺も嬉しいからさ。

 さらに兵士が増え、事が大きくなりそうなので早々に退散した。

 野営地を後にして検問所を通り過ぎ、町中に入れば、またのんびりとした空気が流れる王国内。

 俺にはこのギャップには付いていけそうもないから長居はしたくない気分だ。


「そろそろお昼も過ぎますし、皿食を食べに行きませんか?」

「賛成がや」

「ボクも賛成です」

「じゃ、行こうか」


 街道を歩けば、コーマが現れる。


「コーマ、お帰り」

「楽しみね。ウフフ」


 皿食屋まで歩いている時、相変わらず三人は注目されている。ただ、コーマは空気のような存在なのか全く眼にされない。これも凄い力だな。


「だって色々と大変でしょ。私も面倒だし。ウフフ」

「そうだね、面倒事にならない、ありがたい事なんだな」

「早く行きましょ。ウフフ」

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