第 8話 ヴェルデル王国3
五人が一緒に入っても、まだまだ広い岩風呂。
呼ばれて入って行けば、一番奥で仰向けに浮かんで、漂っているサリアは、久しぶりに、ちんこの歌、を歌っているし、手前に入っているファルタリアが合わせて輪唱しているし。
さらにルージュが、ちんこの歌、を必死に覚えようとしているし。
あのさ、頼むからルージュさんは歌わないで下さいね、品位が落ちるからさ、お願いします。
俺はファルタリアとコーマの間に入れば、オズオズと背を向け、お湯で膨らんでいる大きな尻尾を俺の足に載せる。
「ラサキさん、お気の済むまで、どうぞ」
赤ら顔で嬉しそうなファルタリア。お前もモフられるのが好きなんだろ。よしよし、隅々までモフッてやろうか、フフフ。
反対側ではコーマが寄り添っている。
サリアの近くに入っているルージュは、恥ずかしそうに静かにお湯に浸かっている。
しかし、だ。あの巨大な破壊的な二つは浮くのか? 巨大になると浮くのか? 事実浮いているし。
凄いな、ある種、感激さえ覚えた。
「触らせて貰えば?」
「これは読まないでいただきかったよ。いやダメでしょ。コーマとファルタリアとサリアで十分堪能しています」
「ウフフ」
「何がです? でも何だか嬉しいです。エヘヘ」
フゥ。サリアが上を向いて浮いていたから助かったよ。
十分温まったファルタリアとコーマが先に出て行った。
サリアは余程気に入ったのか、まだ歌いながら漂ってるままだけど、ルージュが恥ずかしそうに寄ってきて、何かを覚悟したようにファルタリアがいた隣で寄り添う。
潤んだ瞳が上目使いで見てくる。紫の髪が濡れて、いつになく妖艶なルージュ。百人いたら百人が落ちるな、うん。
「あ、あの……ん」
もう知っているから、してあげました。
嬉しそうに腕にしがみついて来たルージュ。
うおおおっ! 直接だよ、直だよ、腕が挟まれるよ。興奮する心を押さえ、我慢して冷静を装った。
ガン見なんて、していないさ、決して。
ちんこの歌も終わり、漂いながら寄って来たサリアが、俺の目の前を横切った時、可愛い横目と眼が合った俺。
ワシワシさせているサリア。
「胸、揉むかや?」
一瞬、眼が泳ぎ躊躇したけど、そのまま流れに任せて通り過ぎて行った。嫁なんだから、今言うなよ。
会話を聞いていたルージュ。
「あ、あの。ボ、ボクの、こんな贅肉で宜しければ……ど、どうぞ、思う存分揉んでください」
前に出された巨大な、破壊的な、壊滅的な瓜を目の当たりにしてしまった。
「ル、ルージュ。待て待て、それはまだ早いよ、まだね」
少し寂しそうに下がるルージュ。
「そうですか。ラサキさんが良ければ、いつでもどうぞ」
「え? お、おお」
俺達も十分温まったので、風呂から上がった。フゥ、一瞬理性を失いそうになったけど、踏み止まって良かった気がした。
嫁がいて良かったよ……本当に。
その夜は、ルージュの初夜になった。
あ、嫁の初夜ではなく、初めて一緒に寝る、と言う事。
両側にはコーマとファルタリア。両足の間にはサリアだったので、入る場所が無いと思った。
けれどファルタリアが自分の足を避けてくれたので、ルージュは腿にしがみつく形で落ち着いたようだ。
俺にとっては、さらに身動きできないし、窮屈になる体勢だった。
でもこれも、好いてくれているから我慢も必要だ。
翌日眼を覚ますと、まずファルタリアのホールドを解き、コーマのホールドを解き、ルージュのホールドを解き、股間に載っているサリアの頭をどけて起きる。
入口の扉が叩かれる音がして見に行けば、朝食が運ばれてきたので居間で食べる事にしよう。
さすが王国の宿、と言った所だな。パン、卵、焼肉、スープと言った具合で美味しそうだ。
部屋から出てくるファルタリアは、片手を上げ、口に手をあてている。
「ファー、ラサキさん、おはようございます」
続いてサリアは、両手を上げて伸びるように出てくる。
「うーん、ラサキ、おはようがや」
ルージュは寝起きがいいのか、爽やかな表情だ。
「おはようございます、ラサキさん。気持ちのいい朝ですね」
コーマは……いつの間にか、もうテーブル席に付いていた。
「食べようよ」
五人仲良く、朝食の載ったテーブルを囲み、これからの事などを話しながら美味しく食べた。
ただ、ファルタリアには少し物足りなかったかな。食後の果物も多めに食べていたし。
たまには我慢も必要だよ。
数日滞在する事を、女将に伝えて宿を出る。今日は装備を部屋に置いてきているから軽装だ。
装備していなくても俺もファルタリアも対処できるし、場合によっては、サリアとルージュの魔法もあるしね。
しかし、ヴェルデル王国の戦争の事は、何も聞かされて無いような呑気な町だ。
特に魔物の襲来は一大事だろ。それとも口外無用なのかな。
王国のやる事だし、気にしていても仕方がない。ましてや興味なんてサラサラないしさ。
町に出れば、コーマは、じゃあね、と消えて行った。王国はあまり好きじゃないのかな。
ま、皿食屋に行くときは現れるだろうから好きにしてもらおう。
すかさずルージュが、失礼します、と腕に抱きついて来る。
とても嬉しそうにしているルージュを見ている、ファルタリアとサリア。
「仕方ないですね」
「あたい達は嫁がや、譲るがや」
とまあ、嫁の貫録? なのか後ろを歩いていた。
「何処に行こうか」
「皿食屋に行きませんか? お腹すきませんか?」
「さっき朝食を食べただろ。却下」
「ううぅ。我慢します」
「いい天気がや、散策するがや」
「ボクもそれがいいと思います」
他愛もない話しを談笑しながら、町中を眺め歩く事しばらく。街角に建つ一軒の大きい武器屋が目に留まった。
王国だけあって、他の町より数倍大きく貫禄がある店。
「ちょっと入って見ようか」
三人とも肯定したので入って見た。
店内に入れば、短剣を始め、様々な武器が飾ってあった。並べられている剣の横には、試し振りが出来るように、所々に空間が設けられている。
サリアとルージュは、短剣やサーベル、スティレットなどを交互に持って、高度な魔法の話をしながら眺めている。
俺には全くわからないけど、サリアの話に頷いているルージュは、勉強熱心だな。
一方ファルタリアは、自分のバトルアックスより大きいメイスを片手に持ち、ブンブン軽々と振り回している。
少し離れた場所から見ていた店員は、眼を見開いて固まっているし。その横にいた冒険者らしき男達に至っては、口が大きく開いて固まっていた。
メイスを置き、次に興味を持ったのは、バルディッシュだった。バトルアックスよりも斧になっている刃先の部分が大きい武器。
片手に持ち、軽やかに振り回すファルタリア。
「ラサキさーん、これ、中々いいかもですぅ」
手になじんだのか、さらに高速に振り回している。
「気に入ったら買えばいいだろ」
「うーん、バトちゃんがヤキモチ焼くからなぁ」
「バトちゃん? あれに名前付けてるのか?」
「え? 知りませんでした? 以前から付けていましたよ」
振り返って二人に聞く。
「サリアとルージュは知っていたか?」
「知らないがや」
「ボクも初めて聞きました」
興味なさそうなサリアは、またルージュと話し始めた。
ファルタリアは、バルディッシュを眺め、あった場所に戻した。
「バトちゃんと二つ揃えては背負えないので諦めます」
「ああ、確かにそうだな」
ファルタリアが、また興味を持ったのか、眼を輝かせて剣を手に取る。




