第 7話 ヴェルデル王国2
王女様は何やらずっと叫んでいたけど、聞いていなかった。
王女様も綺麗は綺麗だけど気が合わないよ。それに俺には、綺麗な可愛い嫁もいるし十分です。
出て行く途中の通路でも、誰にも何も言われず城を出てきた。
城を出れば、見渡せる広いヴェルデル王国が広がっている。
来た時は、検問所を通り過ぎ、一路反対側の検問所を出て、フェーニとミケリのいる戦場まで向かっていたのでよく見ていなかった。
途中で鼻を鳴らしたファルタリアが、横目で見ていた皿食屋以外はね。
中央に石造りの城がそびえ建ち、城を中心として、眼下に見えるよう放射状に街並みが形成されている。
主な街道は、馬車が二台づつ行き来できるほど広く、その外側には歩道も完備していた。一〇〇万人程が住んでいる大きな国。
もしかしたら、ファンガル中立国より広いかも、いや、広いな。
街道を歩けば町と違い、外界と隔離された感じがした。外の事、戦場の事は何も知らされていないように、活気に満ち溢れている国。
それとも勝つのが当たり前なのかな。ま、俺には関係ないけどさ。
ファルタリアの行きたがっていた皿食屋に歩いて行けば、コーマが嬉しそうに現れ腕を組んで来る。
「あ、お帰り、コーマ」
歩きながら、透き通った銀髪の髪を揺らし深紅の美しい瞳で、じっと覗き込んでくるコーマ。
「え? どうした?」
「ううん? 何となく見ただけ。ウフフ」
「何だよ驚かせるなよ」
「だってラサキは忙しかったんでしょ。だから。うーん、久しぶりのラサキの腕ねー。あー久しぶり」
あー、気にしているし、根に持っているな。
「いいのよいいのよ。皿食が食べられればねー。ウフフ」
暫く消えていたコーマが、現れるときはいつも遠慮する三人。それに反対側の腕は一本だから決められないのが実情だ。
悪いと思うけど、こればかりは仕方がないよ。コーマとの約束だしさ。
「ウフフ、ありがと。好きよ」
いつになく嬉しそうで何よりだ。
後ろから声が聞こえた。
「もー、コーマさんのイチャイチャはいいですから、皿食屋に急ぎましょう」
「コーマが一番がや。知っているがや。急ぐがや」
「ボ、ボクも、早くお嫁さんになりたいです」
腕を絡ませ、ルージュ張りに胸を押し付けるコーマ。
「だってさ。ウフフ」
「もう、勘弁してくれよー」
別に、嫌な気分にはなっていないよ。俺を好いてくれているのにさ。勿体ない、本当にいい奴らだと思っている。
皿食屋が立ち並んでいる場所に着いた。その中でファルタリアが行きたいと言っていた店の前に立つ。
看板には、魚専門、と書かれていた。
なるほどね、しばらく魚が無かったから、ここはファルタリアの意見を尊重しよう。
入れば、久しぶりに見るレイクフィッシュ、シルバーフィッシュを始め、その他様々な魚の料理が並んでいた。
さすが王国と言わざるを得ないな。
各自、塩焼きやタレ焼き、煮込みや刺身、揚げ物などを頼んでいた。
一押ししていたファルタリアは、味付けをしない素揚げと素焼きを頼んでいたよ。フーン、まずは素材の味を確かめるのかな。
料理を食べながら、魔物や魔王の事、戦い方など談笑した。すぐにお約束のお代わりもしていたよ。
お、ファルタリアは塩焼きか。魚の頭からバリバリ美味しそうに食べている。
サリアは可愛い笑顔で食べているけど、口の周りを衣だらけにしているし。
綺麗に食べているのはコーマとルージュだけか。
見ていたら、俺の眼線に気が付いたルージュが急に赤くなって手が止まっているし。恥ずかしがりやさんだね、気にするなよ。
結局ファルタリアは四回、コーマとサリアは三回、ルージュは一回お代わりしていた。
それは、城で騎士が約束した通り無料で食べられるから。
城で手渡された、手の平程の紋章の入ったプレートを見せれば、国内の皿食屋は全て王国払いになるのだとか。期限とかは効かなかったけど。
これは遠慮なく、ありがたく使わせてもらおう。
さて、折角王国に来たのだからすぐに帰っては勿体ない。これは全員の総意だ。
次は宿屋を探そうか。
外はまだ明るく、夕暮れにはまだまだほど遠いけど、旅と戦いの疲れもあるだろうから早めに宿を探す事にした。
皿食屋で聞いた場所に行けば、石造りの宿屋が数軒立ち並んでいた。
ヴェルデル王国も広いので、皿食屋と宿屋は東西南北の検問所の近くにあると言う。
今回俺達は南の宿屋に来ている。何処にしようか迷っていたら。ファルタリアが大声を張り上げた。
「大きい部屋にお風呂とー! 五人は一緒に寝られるベッドのあるー! 宿屋さんはどこですかー?!」
おいおい、恥ずかしいよ。って思ったら、中から手を上げて返事をしてくる女将。
「はーい、私の宿は一部屋あるし、今、開いていますよー」
女将が言い終わると同時に、一斉に入って行くファルタリアご一行。ん? 一番後ろのルージュも赤ら顔で嬉しそうだぞ。
部屋に通されれば、広い居間と、五人どころかもっと寝られる巨大なベッド。本当にあるんだな。
どんな人が泊まるのだろうか。
「ラサキのエッチ。ウフフ」
「何だよ、それ」
そして、奥の扉を開けば、俺たちの家より大きい風呂が、それも岩風呂が湯気の中に見えた。
これにはサリアが大喜びしていた。また漂うんだろうな、きっと。
装備を外し、居間で椅子に座り、お茶を飲みながらくつろぐ。
ファルタリアは、さっそくバトルアックスの手入れを始めた。今日の戦闘が余程楽しかったのかな。
サリアとルージュはテーブルを挟み、今日の魔法攻撃について、反省点や改良点など俺には良く分からない高度な話を始めていた。
俺は少し離れ、コーマと並んで座っている。
「なあ、コーマ。邪王って知っているのか?」
両手でお茶を持ち、ホゥ、と飲んでいるコーマ。
「うん、知っている」
「何者なんだ?」
「うーん、それは言えない」
「何でだ? ダメなのか?」
「だって、それが原因でラサキの身に何かあれば言うけど、一応、私も神だから余計な事は言えないのよ」
「独り言でも?」
「うん、ゴメンね」
「いや、いいよ。俺こそ聞いて悪かった」
一息つけば、ルージュと話し終わったサリアが立ち上がる。
「風呂に入るがや」
手入れが終わったファルタリアも。
「いいですね、入りましょう」
いつの間にか全裸なっていたコーマが、風呂に入って行く。
上目使いで、モジモジしているルージュに気が付く、ファルタリアとサリア。
「ルージュも一緒に入りましょ」
「入るがや。早く脱ぐがや」
「は、は、はい」
女同士、まあ、四人で仲良く入りなさい。俺が椅子に座ってくつろごうとすれば、すぐにコーマが扉越しに顔を出す。
「ラサキ、早く」
「え? ダメだろ、ルージュも入っているんだぞ」
「もう口づけもしているんだから、いいでしょ、早く来なさい」
「え? そう? う、うん」
……入りました。




