第 5話 戦地4
ラサキとファルタリアが、目の前に立っていた。
一言残し行動するラサキは、凄まじい素早さで、魔物の間をすり抜けるように走る。その周囲の魔物は何をされたか分からないうちに倒れ、倒されて行く。
剣さばき、太刀筋が余りにも高速なため、周囲からはそう見えているだろう。
ファルタリアは、走りながらバトルアックスを振りかぶり、
真っ二つ、真っ二つ、真っ二つ、真っ二つ、真っ二つ、真っ二つ、ことごとく。
半予知化の能力があるので、相手の隙が見えているように全て真っ二つに、豪快に切り飛ばしていく。
剣も盾も紙切れのように、馬鹿力、いや、怪力と、念入りに手入れをした切れのいいバトルアックス。
それも二人共、楽しそうに、楽しむように、楽しんでいるように。
続いて後方から、サリアとルージュが来る。
「こっぴどくやられたがや。アハハー」
「フゥ、二人共お待たせ」
すぐにサリアが二人を回復させる。ルージュが中隊の兵たちを回復させる。
「う。あ、ありがとうございます。う、う、」
「うぇ。あ、ありがとうございますニャ。うぇ」
「泣くのはまだ早いがや。中隊長、副隊長らしくするがや」
「二人共、しばらく休んでいて。あとはボクとサリアさんに任せて」
振り返り、両手をかざせば、魔方陣が展開され、攻撃魔法を連射で放つ二人。ファイヤランス、アイスランスの大安売りだった。
連打している攻撃だが、確実に魔物に突き刺さり倒している正確な攻撃で、全く無駄が無い。
さらに、負傷しながらも戦っている兵隊を優先して、援護するかのように打倒している。
たった四人の攻撃で、蹂躙されて行く魔物の群れ。見ていて気持ちがいいほど、見る見るうちに魔物が減って行く。
そして数刻後、魔物は殲滅していた。
◇
殲滅を確認して、念のためすぐに構えられるように剣を担ぎ、フェーニ達が座っている場所まで歩く。
向こうから、尻尾を大きく揺らしファルタリアも、バトルアックスを回転させながら意気揚々と歩いて来た。
バトルアックスを背中に納め、隣を歩くファルタリア。
「ラサキさーん、こんな感じですかねー」
「ああ、十分だよ。ご苦労様」
「エヘヘ、嬉しいですぅ……んー」
抱きつき口づけしてくる呑気なファルタリア。
他の人が見ているだろ恥ずかしいな、ま、今回は仕方がない、ご褒美だ。
フェーニ達の元に来たら、サリア達が回復したので元気になっている。
元気な二人は、俺に駆け寄り抱きついて来た。
「助かりました。ありがとうございました」
「助かったニャ。恩人ニャ。旦那様ニャ」
大雑把に頭を撫でれば、中隊長では無く、いつものフェーニに。副隊長では無くいつものミケリに戻っていた。
赤ら顔ではにかむ嬉しそうな二人。
「久しぶりだね、二人共。そして、よく頑張ったよ」
隣のファルタリアも嬉しそうだ。
「危なかったですね。皿食なんて食べていたら、二人共、魔物に倒されていましたよ」
「お前が食べようと言ったんだろ」
「え? あ、はい。エヘヘ」
「エヘヘ、じゃない」
「そうがや、間に合わなかったらファルタリアの責任がや」
「そうです。ボクもそう思います」
「ええぇ? だから我慢したじゃないですかぁ」
聞きなれた、いつもの会話を聞いていたフェーニとミケリが笑顔になる。
「でも結果、助けていただいた事は事実です」
「こうやって生きているニャ。感謝ニャ」
今度はルージュが二人に寄り、抱き合う。
「元気そうだね、二人とも」
「ハハハ、さっきまで死にかけていたけどね」
「ニャハハ、うん死んでいたニャ」
「でも良かった」
周囲を見渡せば、王国帝国の生き残った兵たちが俺達を見ている。それも驚愕の眼差しで見ている。
何故そんなに簡単に魔物を倒せるのか、と思っている表情だった。
察知するファルタリアとサリアも周囲を眺める。
「ラサキさん、どうしましょうか。この状況」
「どうするかや? ラサキ。注目の的がや。アハハー」
「気にしないで皿食でも食べに行くか?」
「いいですね、賛成です。さっきの皿食屋がいいですね」
「賛成がや」
「ボクはラサキさんと一緒ならどこでもいいです」
俺達の会話に戸惑っている二人と中隊の兵たち。
「ラ、ラサキさん。ここは一応……戦場なので」
「規律があるニャ。戦争ニャ」
「ああそうか、悪かった。とりあえず王国に入ろうか」
全員立ち上がり、野営地に戻ろうとすると、またもや転移門から魔物が湧き出てきた。
動揺する中隊や、また恐怖に怯える生き残った兵士たち。
俺は頬を指でかき転移門を、ファルタリアは生暖かい眼で転移門を見ている。
「魔物の群れの中には誰もいないし。さ、帰ろう」
「はい、帰りましょう」
驚くフェーニとミケリ。そして動揺する周囲の兵士たち。
「え? え? ラサキさん? ファルタリアさん?」
「あ、あれはどうするニャ? お、襲ってくるニャ」
「あ、ゴメンな、言葉足らずだった。サリア、ルージュ、後は任せる」
「特大でいいですよ。エヘヘ」
仁王立ちになるサリアと構えるルージュ。
「鍛錬の成果を発揮するがや」
「はい、了解しました」
呼吸を合わせる二人は、魔力を貯めたのか眼で合図する。
「「爆裂っ! 雷撃っ! 爆撃っ! 爆炎っ!」」
息の合った掛け声。
二人の前に、小さい魔方陣から大きな魔方陣が、赤青緑、と幾重にも展開される。
中から射出された、小さな光が魔物の群れの中心に、突き刺さるように落ちる。
そして――。
タレーヌの丘に、地響きと轟音が響き渡り、魔物がいる中心で炎、雷と共に大爆裂が起こる。
その後からやってくる怒涛の爆風で、構えなどもとっていなかった無防備な兵士たちが、転がっていく。
その規模、タレーヌの丘半分が消滅し、広大に陥没。転移門も砕け散って、樹海の正面の一部も消失した。
合体魔法の出来のよさに喜ぶルージュ。
「やったー。やりましたね、サリアさん」
仁王立ちで、塵でも落とすように両手を叩くサリア。
「ま、こんなもんがや」
俺たち以外の見ていた兵たちは、あまりの理不尽さにひっくり返って立てず、腰を抜かしている者もいた。
サリアとルージュがこっちへ向かって歩いて来る中、転移門のあった場所を見る俺とファルタリア。
「これで魔物も出てこないだろう。ん?」
「どうしましたか? ラサキさん。え?」
転移門があった場所に一体の魔物が立っていた。
体長は、立っている部分は三mほどで、足は無くとぐろを巻いている。
――大蛇か?
さらに髪の毛が蛇の女性。あ、ここから見ても視認できる、たわわ、な二つが丸出しだったよ。恥ずかしくないのかな。
俺の横で振りかえるサリアが、眼線を感じたのか、ワシワシ始める。
「あー、あれは魔王がや」
「あれが? 魔王?」
「そうがや。魔王のメデゥーサがや」
話しを聞いていた中隊の兵たち。
「メデゥーサだって? 全員、眼を見るな! 石化するぞ」
フェーニが指揮をとる。
「命令だ。総隊野営地へ引け。私も後から行く!」
「命令ニャ!」
駆け出す中隊。
「フェーニとミケリ、ルージュはここに残れ。サリアもな」
仁王立ちで、ワシワシさせているサリア。まだするか?
「まあ、ラサキとファルタリアなら簡単に倒せるがや」
「じゃ、ファルタリアに任せるよ」
「はーい、任されましたぁ。では、行ってきまーす」
背中からバトルアックスを取り出し、魔王に向かって走り出すファルタリア。次第に速くなりスピードに乗る。
そして陥没した丘を一っ跳びして、メデゥーサの手前で着地。
するはずが、失敗して転げ回って樹海の奥に消えて行った。
「ハァァ、何やっているんだ」
「大丈夫がや。問題ないがや」
サリアも、ワシワシさせていうな。




