第 2話 戦地
調子に乗った訳では無いだろうけど、風呂も希望して来たけど、やんわりやんわり却下した。
ファルタリアとサリアからは、可愛そう、と言われたけど、そこまでしたら戦争に行っているフェーニとミケリの方が可哀そうだろ。
納得したルージュは、それだけでも嬉しそうに満足しているようだ。
ルージュに口づけを許可した時、コーマは何も言ってこなかった。
「私とのつがいの約束を守ってくれているからいいわよ。ウフフ」
コーマは優しいな。
今日はみんなで、レムルの森の山頂に来ている。ほとんど来た事はないけど、いや、一度も来た事はないけど、ここに見晴らし台を作ろうとやって来た。
「うん、この辺が妥当かな」
隣で嬉しそうに腕を組んでいるコーマ。
「うん、いい場所ね。ウフフ」
振り返り、すぐ後ろの三人に声を掛ける、
「じゃ、この周辺の木を切って広場を作ろうか」
と言った瞬間、空気が変わった。
間髪入れず止める。
「ちょ、ちょっと待った! 止まれ! あのさ、力一杯やらない事。丁寧にな」
腰を低くして突進できる体制で、バトルアックスを水平に構えていたファルタリア。
「え? 丸坊主にするのではなくて?」
両手を前に出し、片足を後ろに出して予め放つ、魔法の反動の対処をしているサリア。
「え? 山頂を吹き飛ばさなくていいかや?」
どれだけ大きい魔法を放とうとしたんだよ、全く。
ルージュは? あ、何もしていなかった。前回に放った魔法を気にしていたのか、冷静だった。偉いぞルージュ、抱きしめてあげたいくらいだよ。
「してあげれば?」
「読むなよ、コーマ」
「いいのよ。ウフフ」
これだけでも察知力の高まっているルージュは。
「え? いいのですか? では、失礼します。……ん」
両手を回して来て唇を重ねてきた。
それを横で見ているファルタリアとサリア。
「さすがですね」
「さすががや」
お前達は何なんだよ、全く。ルージュと口づけした後。
「この辺の木だけでいいんだ。適当な大きさの見晴らし台を作るだけだからさ。あまり広くしないでくれよ」
「はい、了解です」
「わかったがや」
「はい、この辺だけですね」
三人とも、自分一人で十分なのに、と言う表情だったけど、仲良く順番を決めていた。
ファルタリアがバトルアックスで十数本の木を、小枝でも切るように、あっと言う間に切り倒す。
サリアが木の根っこを弾き飛ばす。
ルージュが整地する。
サリアとルージュが、切った木を加工して見晴らし台を作り出来上がった。これまでかかった時間は五分あまり。
「お前ら凄いな、凄すぎるよ。少し感激したよ」
驚いた俺が余程うれしかったのか。
「私は嫁ですよ、嫁。ラサキさんの嫁なんですから。エヘヘ」
「あたいも嫁がや。問題ないがや。アハハー」
「ボ、ボクもラサキさんに褒められて嬉しいです。ハハ」
出来上がった見晴らし台を上がる。椅子まであるし完璧だよ。
で、何の見晴らし台か。
それは、タレーヌの丘で行われている戦争を眺めるためだ。でも、近くはない。
遥か遠くに上がる土煙と、小さな、ごく小さな点のような魔方陣が時折見えるだけ。
その両側の手前には、山がそびえ、右側にあるヴェルデル王国も、左側にあるアルドレン帝国も山が邪魔をして見えない。その山と山の間にタレーヌの丘の中央部分だけが見えている。
並んで椅子に座り眺める。
「よく分からないけど、続いてるんだな」
レムルの森でさえ、わずかながらもここまで見えるのだから、やはり大きい戦争なのだろう。
「さて、帰ろうか」
皆は戦争に興味が無かったのだけれど、俺に付き合ってくれた。悪かったから今日はご馳走にしよう。
◇
戦地
ヴェルデル王国の外、タレーヌの丘を目前とした野営地の一画。
フェーニ達の中隊が寝泊まりしている、広く大きい中隊用のテントの中。
休息している夜。
十数人の隊員と、長テーブルを囲み食事をしているフェーニとミケリ。
二人の他は全員男の冒険者だった。男達は酒を飲んで戦果などを語り合っている。
その中の一人が正面にいるフェーニに話しかける。
「俺達は、フェーニ隊長に付いて行きます」
「そうか、ありがとう。この戦争が終わるまで、よろしくね」
「あ、いえ、フェーニ隊長には、戦争が終結しても、ずっと付いて行くと言ったのです」
「あー、それは無理だよ、ね、ミケリ」
「うん、無理ニャ。終わったら急いで帰って嫁になるニャ」
「嫁……ですか? 隊長より強い人では無いといけないのですよね」
「そうさ、私達よりずっとずっと、もっともっと上の人だよ」
「隊長や副隊長より強い人がいるのですか?」
「とても優しく、とても強く、格好がいい、私とミケリの憧れの人なんだ」
「も、もしかして、お二人が一緒に嫁になるのですか?」
「うん、そうだよ」
「フェーニと私ニャ」
「な、何て羨ましい。何処の部隊所属ですか?」
「いや、戦争には参戦していない」
「それはないでしょう。隊長より強いのなら強制的に参加させられるのでは?」
「よく分からないけど、この戦争には参加していない。事実は事実だよ」
納得していないようだが諦めたようだ。
また別の兵が、フェーニとミケリに話しかける。
「隊長、一つ聞いていいですか? 隊長と副隊長は、いつも敵を殺さず、無力化だけで終わらせていますが何故ですか? 敵なのに……」
「うん、私もミケリも人は殺せない。無力化できるに越したことはないけど、相手も必死だから反撃できないくらいの傷を負わせれば、それでいいと思う」
フェーニ曰く、敵と言っても逆の立場になれば味方。相手国の兵も冒険者がいるしどこかの町で会えば冒険者仲間。
もしかしたら、以前住んでいた町の冒険者が相手国にいるかもしれない。こちらも向こうも冒険者の兵に罪はない。
「なるほど、隊長や副隊長くらい強ければそれもありですね」
「今の所、何とかなっているけどね」
「相手も必死ニャ。気を付けるニャ」
フェーニとミケリは、参加当初、一兵士として精悍な男達や大男に混ざって戦うが、強く、功績も高く、女性ながらも周囲の兵を助けながら戦い、評判も良く中隊長と副隊長に抜擢された。
集まった中隊の中には、不満そうな男も数人いたが、手合せしながらファルタリアの受け売りで、見よう見まねで指導した。
その強さに全隊員が、眼を見張り尊敬の眼差しに変わって来た。他の隊からも模擬戦では勝てないので一目置かれている存在になっている。
フェーニとミケリの率いる中隊では死者が出ない。
全兵隊の中でも、群を抜いて凄まじい強さを発揮しているから、戦っている最中にも関わらず、自分の隊の援護している。
その噂が広まり、フェーニの隊には入隊志願者が殺到していたが、ヴェルデル王国からの取り決めと、これ以上増えても困る、とフェーニとミケリの希望で入隊できないのが現状。
就寝時、緊急時に備え、装備を身に付けたまま、フェーニとミケリは一緒に並んで寝る。
「ねえ、ミケリ。早く戦争を終わらせて、レムルの森に帰りたいね」
「そうニャ。ラサキさんのお嫁さんニャ、お嫁さんニャ」
「うん、ファルタリアさんやサリアさん。コーマさんにルージュ。早く会いたいし戻りたいなぁ。今頃何しているのかなぁ」
「決めた事ニャ。早く終わらせるニャ。頑張るニャ」
「そうだね、頑張ろう。ミケリ、おやすみ」
「うん、おやすみニャ」
戦場での一時の休息――。




