第10話 何を勘違いしたのかな
翌日の昼に、ファルタリアが巨大な布袋を背負ってやって来た。力持ちだとは聞いていたけど、普通に歩いて来るし。
力比べしたら負けるな。
剣は腰に装備しているけど、片手にバトルアックスを持っている。え? 買ったのか? どうやって……それは後で聞こう。
手を振りながら、笑顔で近づいて来るファルタリア。
「ラサキさーん、お言葉に甘えて来ましたー」
「お。おう。いらっしゃい。しかし、凄い荷物だな」
「必要最低限の家財道具です。残りは売って処分してきました」
「はい? 泊まっていいよと言ったけど――処分?」
「はい、こちらに住まわせて貰えるので、家を引き払い処分してきました。売ったお金と手持ちの全財産をつぎ込んで、ラサキさんの言っていたバトルアックスを、町の武器屋で購入してきました。なので無一文です。エヘヘ」
聞く前に教えてくれたよ。しかし、まいったな。住んでいいよとは言っていないんだけどな。今さらファルタリアの勘違いとも言えないし。すでに帰る家が無くなっているし。
これで帰したら鬼だな……仕方がないか。
「家の中にコーマがいるから、部屋に案内してくれるよ。荷物の整理をしてくるといい」
「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
本気だな、住む気十分だ。今後の事も考えないと。
あー、荷物が入口に引っかかっているし。無理に入れようとしているし。ファルタリアは少し馬鹿なのか?
「ファルタリア! 無理に入れると入口が壊れるから、そこで荷解きしろ!」
「は、はい、すみません」
荷解きをしているファルタリアに聞いてみる。
「その格好で来るのに、魔物は出なかったのか?」
「出ましたよ。でも、ラサキさんが言った通り、バトルアックスの使い勝手が良くてオーガくらいなら簡単に倒せました。荷物を背負っていても問題ありませんでした」
本当か? 荷物を背負って重量級の武器を振り回すって凄いぞ。ファックスピープルって、本当は強いんじゃないのか? 後で確かめてみよう。
コーマはファルタリアに部屋を案内した後、テーブルの椅子に座って果物を食べているし、我関せず、って感じだな。
しばらくして、荷解きが落ち着いたのかファルタリアが部屋から出てきた。居間の椅子に座っている俺達を見る。
「終わりましたー。ラサキさん、コーマさん、よろしくお願いします」
「よろしくな、ファルタリア」
「よろしくね」
ファルタリアは、他の部屋に入る扉を見回す。
「ラサキさんのお部屋はどちらですか?」
「俺は一番左の扉だよ」
「コーマさんのお部屋はどちらですか?」
「私は一番左の部屋よ」
「はい? え? ええぇ? 同じ部屋ですかぁ?」
「まあ、そうだな」
「同じベッドですかぁ?」
「そうよ」
「……私はダメですか?」
「今、部屋を決めただろ、そこにベッドもある」
「いいなぁぁぁぁ、私も同じベッドがいいですぅぅぅ」
懇願の眼をして俺に向けてくるファルタリア。
何を考えているんだ? フォックスピープルはこんななのか? 人懐っこい性格なのか? 獣人もそうなのか? うーん、わからない。
「俺とファルタリアは知り合って間もないし、一緒に鍛錬してまだ数日だよな。なんでそうなる?」
「私は、初めてラサキさんに会った時に、心が躍りました。さらに助けていただいたなんて、もしかしたらと思いました。さらにギルドで助けていただいたときには、私はラサキさんが好きなんだと確信しました。だから……」
またもや懇願の眼を俺に向けてくる。
「わ、わかった。でも、自分の部屋で寝ような、ファルタリア」
「ううぅ、はい、わかりました」
「そうね、まだダメよ」
「え? うぇ? 聞きましたよ、聞き逃しませんよ。まだ、と言う事は脈ありですね、コーマさんが許していただけたらいいのですね」
「そうよ、ファルタリア。頑張りなさい」
天井に届きそうな勢いで飛び跳ねるファルタリア。
「いやっほーっ! 頑張りまーす!」
「おいおいおい、勝手に決めるなよ」
コーマの言った通りになっているな。そんなに俺がいいのかね。
「そんな事言って、コーマもいいのか?」
「もし私がいなければどうしたの? 好きと言われて嫌じゃなかったんじゃないかな。ラサキならその申し出を断らなかったでしょ。だから一人くらいいいわよ」
さすが神。すみません、読まれています。
落ち着いたところで、庭先に出てファルタリアと鍛錬してみる。
「ファルタリア、一人剣技してみて」
「はい、では行きまーす。ハッ、フッ、ヤッ」
何ともまあ、いとも簡単にバトルアックスを振り回している。短剣でも振り回すように軽々と、そして機敏に。
あの一撃が来たらやばいな。俺の剣が持つかどうか。心配している事を察知したのか、そこにコーマが歩いて来た。
「ラサキ、剣を貸して」
コーマに俺の剣を渡す。コーマは剣の刃先を二度さする。
「はい、これで大丈夫よ。強くしたから折れる事はないわ」
「おお、さすがコーマ。悪いな、ありがとう」
「じゃ、お礼……ん」
俺の首に両手を回し、濃厚な口づけをしてくる。満足したのか離れ、家に入って行った。
ファルタリアに見られたと思い、当人を見ればまだ剣技を続け、反対を向いていたので見られていなかったよ。
「もういいよ、ファルタリア」
「ハアハア、どうでしょう。ハァハァ」
「いい感じだね。手合せの前に少し休憩しよう」
庭先にある椅子に並んで座り、汗を拭くファルタリアに聞いてみる。
「ファルタリアは剣技を習いに俺の所に来たけど、家族とか鍛錬の仲間とかいないのか?」
手を膝に乗せ、空を見ながら答える。
「言い辛いのですが、いません」
ファルタリア曰く、両親は冒険者で二人パーティだったが、幼いころ討伐に参加して魔物に襲われ死亡した。
その後施設で育ち、友達も出来ず一人で過ごしてばかりだった。そこで剣術を習い、ずっと練習に励んだ。一四歳で施設を出て働き出した。
両親の残した財産が少しあったので、全財産を使って一人で住むに十分な小さい家を購入し生活を始めた。
働きながらも剣の練習は、毎朝欠かさずしてギルドの冒険者登録に挑戦し、何度も落ちたが、やっと合格した。
ただ、パーティに入れず、一人で魔物の討伐に出かけ、レムルの森に何度か入った。危ない目にあって、俺に助けられたのを最後に今に至る。
「だから、知っている人はいても友達はいません」
「大変だったな、とても可愛いのに」
「ええぇ? 可愛いだなんて。やっぱりラサキさん、私が好きですね? 私も大好きですよ」
「いや、ありのままを言っただけだよ。他の男に言い寄られた事無かったのか?」
「全くありません。いたらパーティとか作っています」
「あー、そうだよな。悪い事言って悪かったな。さて、始めようか」
立ち上がり、手合せを始める。




