その日も、家に帰ると皇帝がいた。
『ある日、家に帰ると皇帝がいた。』の続編になります。
ブクマも評価も感想もPVもありがとうございます…嬉しくて手が震えてます…。
今日のご飯は何にしようか。
そう思いながら、仕事終わりにコンビニへと寄る。
一人暮らしをし始めた当初は自炊の努力をしていたのだが、料理というものはとても面倒くさいと言うことに気づいてしまった。
まず米を洗って、炊飯器のスイッチを入れる。しかしこれが炊き上がるのはお急ぎモードで30分後だ。
その間に食材を切って、フライパンを熱して、炒めて味付けして…食べ終われば片付けが待っている。
面倒くさい。非常に面倒くさい。
これを毎日だなんて辛すぎる。
そしてついつい楽なコンビニ弁当に手を出してしまうのだ。
特に最近は冷凍コーナーの食品が気に入っている。日持ちもする上に安くて、味も悪くない。
独身が捗るなあ、なんて思いながら飲み物コーナーへと行き、缶のコーラをかごに入れてレジへと向かった。
今日も、家に帰ると皇帝がいた。
「よく戻った、マユミ」
「…はい、ただいま戻りました」
先日できたばかりの友人は、相も変わらず我が物顔でベッドに座っている。
…初めて出会った日の翌日の夜、彼はまた部屋へと訪れた。
確かにまた会えたらいいなとは思っていたが、まさか昨日の今日で会うとは思ってもみなかった。
柄にもなく感傷に浸っていた私の気持ちを返してほしい。
そんな私の思いなど全く汲み取りもせず、皇帝さまは自慢気に言った。
「ワードローブを余の私室へと移動させたのだ。これで気兼ねなく来られるぞ」
「はあ、そうですか…」
それからというもの、彼は本当に気兼ねなく…というよりもほぼ毎日私の部屋へと訪れるようになったのだ。
鍵も掛からない扉で家族でもない異性との部屋が繋がっているのは少し気になる。
しかし皇帝さまはそう言った気遣いはできる人のようで、むやみやたらとこちらを覗くような真似はしない。
私の仕事が終わり、帰宅するタイミングを見計らって訪れているようだった。
お願いした通り、靴もしっかり脱いで待ってくれている。
それならばまあ、いいかな。と今日も彼の出迎えを受けるのだった。
「コーラは?」
「買ってきてますよ」
「流石は余の友だ」
皇帝さまは一度買い与えたコーラが気に入ったらしい。
嬉々としてコーラを受け取り、慣れた手つきでプシュと缶を開けた。
「エールではないのか?…ゴホッ!泡がきつい上に甘い!なんだこれは!?」
初めはその炭酸の強さにむせて涙目になっていた。
予想以上の反応だったので、申し訳ないが吹き出して笑ってしまった。
持てる限り沢山お土産にしたいと言い張ったため、あんまり沢山飲むと太りますよ、と忠告したらこっちに来るときだけ飲むことにしたそうだ。
うきうきとコーラを楽しみにするその姿は、見ていて大変微笑ましい。
「今日の食事は何なのだ?」
「たこ焼きですね」
冷凍のたこ焼きをレンジに入れ、時間を設定してスイッチを押す。
そのままトレーごと温めれば良いなんて、なんて素晴らしいのだろう。
最初は遠慮していたが、今はもう皇帝さまの目の前で一人ご飯を食べることになんの躊躇もしなくなっていた。
皇帝さまは向こうで夕飯を食べてきているらしい。
それでもいつも少しだけ私の夕飯も食べたがるので分けてあげているのだが。
「たこ焼きとはなんだ?」
「ええと…小麦粉と卵を溶いたものに『たこ』という魚介を入れて焼いたものですね」
そう言いながらパッケージの袋を見せる。
「しょっぱいソースを掛けて食べるんです」
「…丸いな、どうやって作るんだ?」
「半円の窪みがある鉄板で焼くんです。なんか上手いことやると丸くなるんですよ」
「ふむ…一般的な食べ物なのか?」
「そうですね。専用の鉄板が必要なので、お店で食べることの方が多そうですが」
「ほう、それが『冷凍食品』であれば家で食べられるのか」
「便利ですよねえ」
そうこう問答してる間にレンジが出来上がりをお知らせしてくれる。
たこ焼きを取り出して、その中から二つほど小さなお皿に取り分けた。
「どうぞ、中身が思ったより熱いのでお気をつけて」
「うむ」
箸に馴染みがないらしい彼にフォークを渡しながら、邪道かもしれないが半分にしてから食べることをおすすめする。
口内を火傷して味わえないほうが悲しいと思う。
「…うまい!この柔らかい生地は生焼け…というわけではないのか?ソースを掛けずとも味がついているな。中の歯応えのあるのが『たこ』か?」
「そうですね」
顔を綻ばせる皇帝さまにたこ焼きを食べながら返事をする。
今日のご飯もお気に召したようだ。
大の男に思うことではないかもしれないが、子どものようにはしゃいでいるので可愛く見えてしまう。
…考えてみれば皇帝さまのおかげで洗い物が増えてしまっているが、それでもあまり苦にならないのは、彼の見せる反応が楽しみだからかもしれない。
なんだかんだで彼と過ごすのは楽しいのだ。
そうしてご飯を食べつつ暫く話をして、最後には必ず愚痴を言って皇帝さまは帰っていく。
去り際にはいつも額にキスを残して。
これがここ最近の日常となっていた。
そしてある日、皇帝は言った。
「余もこちらの服が着てみたい」
と。
テレビで見て気になったらしい。合わせて素材やら縫製方法やらの質問攻めにあった。
いつもの通り、わかることの方が少なかったのだが。
着たい、と言われても、当然ながら恋人もいない独身一人暮らしの女の家に男物の服があるわけがない。
サイズ間違えで買ったなんて都合の良い服もない。
…となれば買わなければならないわけだが。
皇帝さまを改めて眺める。
本日は青を基調として金の刺繍が施された高級感溢れる服だ。
正に皇帝然としていて、気位の高さを匂わせている。
錯覚かもしれないが、イケメン補正も相まってキラキラと輝いて見えた。
これは…流石に外には出られないだろう。世間さまの注目の的になってしまう。
となるとまさに『服を買いにいく服がない』という状態だ。
それなら仕方がない。
「ネットで買いましょうか。届くまで時間がかかりますけど」
「ネット?」
軽く通販の説明をしながら、ノートパソコンで量販店のオンラインストアを開く。
試着もできず、届くまでは多少の時間が必要だが、外に出なくてもものが買えるだなんて便利な時代になったものだ。
皇帝さまに商品一覧画面を見せた。
「気になるのはありますか?」
「ほう、既製品が一覧で見られるのか。絵もついていてわかりやすいな」
そういえば、皇帝さまは既製品なんて買わないのだろうな。
と思って聞いてみれば、全てお抱えのデザイナーがオーダーメイドで用意するんだそうだ。人前に出る服はほとんど一回きりしか着ないらしい。
一着でも高そうなのに一体いくらかかるのだろうか。考えるだけで恐ろしい。
「あの、申し訳ないのですが…私は裕福とは言えない稼ぎなので、この中でも金額によっては買えないものもあります」
「そうか…貨幣が同じなら余が出すのだがな。ふむ…宝飾品を持ってきても駄目か?」
「うーん…換金が必要ですし、出所が怪しいと捕まってしまう可能性があるので避けたいですね」
服をワンセット、靴も含めて買うとしても1万円前後で済ませたい。
皇帝さまに安物を着せるのは心苦しいけれど、甲斐性がないのだから仕方がない。
本人にも納得してもらった。
「Tシャツと上に羽織るシャツとジーンズ…はサイズが難しいな。うーん、メジャーあったかな」
この家に越してきた時に買ったものがはずだが、どこにやっただろうか。
場所の心当たりはあるのでその辺りを探す。
その間に、皇帝さまには好きなTシャツを選んでもらった。シンプルなものばかりだったので、奇抜なものを選ぶことはないだろう。
「あ、あった。ちょっと立っていただけますか」
「ああ」
上着も脱いでもらい、もたつきながら皇帝さまの丈や腹囲、腰回りを採寸していく。
普段は服に隠れていて見えない皇帝さまの体は意外とがっしりしていた。
途端に男性に触れているということを意識してしまい、気恥ずかしくなる。
「…ええと、すみません…」
「ん?何だ?」
「あ、いえ、なんでもないです。足長いですね」
「そうか?」
「はい。羨ましい限りです」
何故だかつい謝ってしまったが、皇帝さまはあまり気にしていないようでこっそり胸を撫で下ろす。
いけない、独り身を拗らせてしまっている。落ち着こう。
皇帝さまから目を逸らすように手元に目を落とし、サイズをスマホに書き込んだ。
話し合いの上決定したワンセットをカートに入れて注文ボタンを押せば、少しした後に『ご注文が完了しました』と画面にメッセージが表示される。
思っていたより安く済んでよかった。
「届くのは少し先ですね。3~4日後くらいでしょうか」
「そうか!楽しみだ」
スマホでカレンダーを開けば、丁度土日に届きそうだと気づいた。
良かった、再配達にはならなそうだ。
「私の休日に届きそうなので、多分ちゃんと受け取れると思いますよ」
「休日?3日後か?」
「はい、3日後と4日後です」
「そうか、ならば余もその日は休日にしよう」
皇帝さまに休日とかあるのだろうか。
偉い人のことは良くわからないが、皇帝さまが休めるというのであれば休めるのだろう。
「昼頃に来る。構わぬな?」
「はあ…別に構いませんが」
よっぽど服の到着が待ち遠しいのだろうなあ。
その日の皇帝さまは、いつもよりも足取り軽くクローゼットの中へと帰っていった。
それから3日後。
約束通り皇帝さまは昼過ぎに現れた。
「来たぞ」
「あ…はい、どうぞ」
今までベッドに背を預けて座っていたが、立ち上がり場所を移動する。
皇帝さまは遠慮なくベッドへと座った。
靴は既に向こうの部屋で脱いできたらしい。ありがたい。
「して、例のものは?」
「あ、届いてますよ。午前中に」
「何!?」
座ったばかりだというのに勢いよく立ち上がる。
その剣幕に思わず一歩後ずさった。
「早く見せろ!この為に明日までの仕事を全て片付けたのだぞ!!」
「は、はあ…ちょっと待ってください」
キラキラと輝かんばかりの表情が眩しい。
どうやって休日を作るのだろうと思っていたが、なるほど仕事を先行して終わらせてきたのか。
思っていたよりも待ち遠しかったらしい。
「この箱に入ってます」
「早く開けろ」
「…あ、はい」
ダンボールを開けてみたかったりするかなとそのままにしていたのは余計なお世話だったようだ。
ガムテープをはがし、中のものを取り出せば皇帝さまの目線はそちらに奪われた。
全て取り出して、それぞれのビニールを開けようとすれば。
「待て!それは余がやる」
「はあ…」
じゃあなんでダンボールは開けさせられたんだろう。
そう思いながら、楽しそうにビニールを開けていく皇帝さまを横目に、パチリパチリと服のタグを切っていった。
「着方がわからん」
そりゃそうだよなあ。と、タグを切った服を差し出してから気づいた。
Tシャツなので上から被るだけなのだが、着たことのない人は戸惑うだろう。
「…では、お手伝いします。服脱いでもらえますか」
「ああ」
健康な成人男性の着替えを手伝うことに、それなりの抵抗があるのだが、彼は慣れているのだろう。
躊躇いなくポンポン脱がれていく服をしわにならないようにとハンガーへと掛けていく。
…が、ハンガーが足りないので何枚か重ねた。厚着すぎやしないか。布が多すぎる。
「脱いだぞ」
そう言われて振り向けば、下着を残し全てを脱ぎ去った皇帝さまが仁王立ちをしていた。
…思っていたより良い身体をしている。筋肉もしっかりついて、腹筋も割れていた。
眼福である。
「ではまず下から履きましょうか」
流石にじろじろと見るわけにはいかない部分から潰していこう。
ジーンズを持って皇帝さまへ近づけば、なんだか微妙な顔をされた。
「つまらんな。男の裸を見ても動揺ひとつ見せんのか」
「え」
「よもや見慣れている、なんてことはあるまいな」
「え、ええ…?」
ずいっと皇帝さまが身を乗り出してくるので、一歩後ろへと下がる。
「伴侶も恋人もいないと聞いたが?」
「いませんけど…」
「ではどうして赤面すら見せない」
「そう言われましても」
どんどんと近づくので当然後ろへ逃げる。
こんなの動揺するに決まっている。皇帝さまの目は節穴なのだろうか。
それとも乙女らしく顔を赤らめないと彼の中では動揺に入らないのだろうか。
「上半身くらいはテレビでも目にしますし…」
「ほう」
「ですが下は結構目のやり場に困るので早く穿いて頂けるとありがたいです」
ジーンズを持ち上げて皇帝さまとの間に壁を作る。
視界の肌色が減ってホッとしたのもつかの間、その腕を掴まれた。
更にはいつの間にか腰に手が周り、力強く引き寄せられる。
これには流石に抗議の声を上げた。
「ちょ、皇帝さま!」
「なんだ?慣れているんだろう」
「実物に慣れているわけないでしょう、離してください」
「そうか」
そうか、じゃない!
離れようともがくが、皇帝さまはびくともしない。
嫌でも密着している身体を意識してしまう。くそ、なんて良い身体なんだ。
「マユミ」
名前を呼ばれたので素直に見上げれば、吐いた息がぶつかりそうな程の距離に皇帝さまの整った顔がある。
…近い!
思わず勢いよく頭を後ろに引いた。
その私の様子がお気に召したのか、皇帝さまは口の端を持ち上げて、とても楽しげに笑った。
「そう言えば、約束を守っていないようだが」
「…え」
「次会ったときは余の名を呼ぶと」
「…」
そういえば先程咄嗟に『皇帝さま』と呼んでしまった気がする。
世界が違っても立場が上の人を気軽に呼ぶなんてできずに、今までなんとか誤魔化して来たのがバレてしまったようだ。
「約束したな?」
「…そうですね」
あれは約束と言うより命令だったような気もするけれど。
「余の名は覚えているだろう?言えたら離してやっても良い」
「…ハルバード皇帝陛下」
「ほう、よほど余と離れたくないようだ」
「…離して頂ければ呼びます」
「それならば仕方がない。ずっとこうしているしかないな」
ぎゅっと皇帝さまの腕に力が入り、体が隙間なくぴったりとくっついた。
布越しに皇帝さまの熱がじんわりと伝わる。
目の前の、透き通った緑の瞳が私をじっと見つめる。
その顔は彫りが深く、鼻筋もすっと通って、まつげもバシバシに長い。
見惚れそうになって思わず目を逸らした。
「…ええと、ハルバード様」
「…『様』?」
「……ハルバード殿」
「……『殿』?」
名前も入っているし、敬称も入っている。
自分でもいい落としどころだと思ったのだが、どうやら気に入らなかったらしく不機嫌そうに聞き返された。
『様』や『殿』が駄目となると、次はどうしたものか。
…大分恐れ多いが、もはや他に思いつかない。
仕方なくその案を口に出した。
「…ハルバード、さん」
「ふむ。どうしても敬称は外れんのだな」
「流石に呼び捨ては…」
「わかった、わかった。仕方がない、ここは余が譲歩しよう」
やれやれといった風にそう言われたが、我儘なのは皇帝さまの方ではないだろうか。
恐れ多いが、ひとまず気に入って頂けたようで一安心だ。
今後も『ハルバードさん』と呼ぶことを約束させられ、何度も念押しされてからようやく解放された。
離れ際、頬に柔らかな感触が伝わる。
耳に届く軽いリップ音に、今度は頬か、と心の中で溜め息を吐いた。
この外国風挨拶はどうにも居心地が悪い。
「何するんですか」
「…お前は本当に反応が悪いな」
頬を擦りながら抗議すれば、何故か呆れたように息を吐かれた。
「この国では挨拶でこういったスキンシップはしませんから、咄嗟に返すのは難しいです」
「…そういうことでは…いや、良い。そうか、なるほどな」
「ご納得頂けたようで良かったです。ではとりあえず下を履いてください。風邪引きますよ」
皇帝さまにジーンズを押し付ければ、眉根を寄せたまま受け取った。
そして口頭で指示を出しつつ、上半身を多少手伝えば、意外とあっさりと服を着ることができた。
「どうだ?」
「いやあ…よくお似合いで…」
その出で立ちは、ファッションモデルだと言っても差し支えがないほど決まっていた。
シンプルな服だが、スタイルの良さが逆に引き立つ。
街を歩いたらモデルや芸能事務所にスカウトされても可笑しくはないだろう。
量販店の服をここまで着こなせるとは…流石皇帝さま。
私がこの10倍も高価な服を着て横に並んだとしても、見劣りするに違いない。
「随分と薄着だな」
「今の季節はこれが普通ですよ」
「落ち着かん」
「動きやすいでしょう?」
開けたビニールやダンボールを潰してごみ袋へ詰めていれば、横に皇帝さまが立った気配がした。
「これならば外に出られるか?」
「大丈夫だと思いますよ」
急に服を欲しがったと思えば、どうやら外に出てみたかったのだそうだ。
まず服装を合わせる選択をしたのは懸命な判断である。
「そうか、お前と並んで歩けるのだな」
皇帝さまはそう言って嬉しそうに笑った。
…不覚にも胸が掴まれたようにときめく。
その表情と言葉は卑怯じゃないだろうか。
そんな風に言われてしまったら、嬉しいに決まっている。
「…明日、お休みならお出掛けしましょうか」
「本当か!」
「はい。折角ですし」
より顔を輝かせる皇帝さまに、提案して良かったなぁと思う。
こんなに喜んでくれるのなら、色々なところへ案内してあげたい。
「明日に備えて今日はもう戻る」
「はあ、そうですか」
何を備える必要があるのだろうか。
外に出るというだけで心を浮き立たせている彼は、まるで遠足前の小学生のようだ。微笑ましい。
向こうに戻るためには、また服を着替えさせなければならない。
「はい、手を伸ばしてください」
「うむ」
しかし今度はただ引き抜けば良いだけなので意外とあっさりと脱ぐことができた。
更に皇帝服へは私の手伝いも必要なく、あっという間に着替え終える。
こちらの方が布地も枚数も多いというのに。
「マユミ」
「はい」
皇帝さまが名前を呼ぶので、傍に寄る。
慣例となってしまった別れの挨拶だろう。
そう思って黙って見上げていたが、私を見つめたまま動かない。
「…マユミ」
「?はい」
もう一度名前を呼ばれる。返事をしたがその後に言葉が続く様子はない。
皇帝さまは不機嫌そうに顔を歪めた。
「マユミ!」
「…あ」
急かすような声色で名前を呼ぶ。
そこで、ようやくその原因を思いついた。
「ええと、明日、お待ちしてますね。…ハルバードさん」
ようやく導き出したその答えは正解だったらしく、皇帝さまは満足そうに笑って額にキスを落とした。
「では、また明日に」
そう言い残して、皇帝さまはクローゼットへと消えていった。
…先ほどのキスなんて、もはや慣れた筈の別れ際の挨拶だ。
それなのに今日は何故か、いつもよりも心臓が高鳴ったような気がした。
…裸を見てしまったせいかもしれない。独り身を拗らせた私には刺激が強すぎたのだ。
額を数度強く擦って、思考を明日のお出かけへと切り替える。
「…どこいこうかな」
どこなら喜んでくれるだろうか。子どものようにはしゃいで、笑ってくれるだろうか。
ノートパソコンを開いて、お出かけスポットを検索する。
ああ、でも明日着る服も決めないと。
あの皇帝さまの隣に並ぶのだ。並んで恥ずかしくないように気合を入れなければ。
もちろん化粧にも時間が必要だ。
明日は早起きをしよう。
ふいに皇帝さまの『明日に備えて』という言葉を思い出す。
なるほどこういう気持ちだったのか、と小さく笑った。
コンビニの冷凍食品進化しすぎですよね。けしからんもっと頼む。
お出掛け回もその内書けたらいいな…!!