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STEP7:難儀な大団円

「大丈夫かあ?」

 らくらは背中の未来に呼び掛ける。

 起きている気配はあるのだが、返事は無い。代わりに無言の怒りがひしひしと伝わってくる。

 歩けない程に衰弱している自分にひどく腹を立てているのだ。

 卵の封印解除は10分ほどしか持たなかった。元々そういう物だったのか、らくら専用に調整されていた為、効果が完全に発揮されなかったのかは分からない。封印が復活したとたん、使いすぎた魔力の回復が出来なくなった。魔力とは生命の力だ。その回復が出来ないのだから、体が動かないのも仕方がない。

 カエンがさっさと身を引いてくれて助かったのだ。(媒体を壊され、彼女も力の大半を失ったからだろう)

「着いたで、グローリー。」

「おお。懐かしの我が家よ!」

 小さな一戸建ての前に着くと、らくらの腰に括りつけられていたグローリーが歓喜の声を上げる。

 M.E.Te.O.の手で引き裂かれた相棒との再会を果たす。それが彼の望みだったのだ。(抜け出そうとしたらくらに連れて行ってくれと頼み込んだらしい。その道草のおかげでらくらがカエンの下に到着するのが遅れたのだから、未来にとっては幸運だった。)

 らくらがチャイムを鳴らす。

「誰ですか?」

 若い女性の声が応対する。

「あのー、アリスさん居てはりますか?」

「我輩じゃ!アリス!帰ってきたぞ!」

 堪え切れず声を上げるグローリー。その声を聞き、女性が絶句した雰囲気を感じる。プツンとインターホンが切れた。

「今のがアリスか?」

「そうだ。二代目我が相棒。じょしこうせい・アリスだ。」

 それは名前じゃないだろう。

 突っ込みたいが、その元気もない未来であった。

 玄関のドアが開いた。出てきたのは髪の長い少女。赤いタンクトップにミニスカートというラフな姿。手にはバットを持っている。

「アリスぅぅっ!!」

 歓喜のあまり、動けないはずの魔剣の身でありながら、グローリーは跳んだ。

 アリスに向かって。

 彼女も走り寄る。

 大地に伸びる影、二つの影が交わる瞬間、彼女はバットでグローリーを叩き落とした。

 そして、地面に転がるグローリーを外にたたき出す。

 そのまま無言で家の中に消えようとする彼女にらくらが声をかけた。

「あのー、アリスさん?これの相棒ちゃうんですか?」

 “これ”と指して言った時、グローリーはショックを受けた。

 しかし、無視された。

「違う。」

 断固たる否定であった。

 血も凍るような声であった。

 鬼のような怒りの形相であった。

 グローリーはさらにショックを受けていたようだが、やっぱり無視された。

「父さんが古道具屋で買ってきたガラクタよ。なのに、勝手にわたしに取り憑いて……毎日毎晩喋り続けるのよ!のべつ間もなく、休む事なく延々と!ようやくお祓いしてもらったのに、どうして帰って来るのよ!」

 一息でまくし立てると、一つ深呼吸して叫んだ。

「さっさと消え失せろ!このストーカー!!」

 言いたい事を全て言い終えると彼女は家に入ってしまった。

 後に残ったのは呆然とするらくらと、納得顔の未来。

 ――M.E.Te.O.が本人の意志を無視して、仲を引き裂くような真似をするなんておかしいと思ったよ。

 未来は心の中でそっと思う。

 人を好んで傷つけるような組織ではない。それだけは理解している。好むか好まないかはまた、別の話。

 地面に倒れ伏していたグローリーが「ふっ」と笑った。

「そうだな。お前には戦いの道は似合わない。お別れだな。アリス。……アディオス・アミーゴ!!」

 最高に爽やかな表情でグローリーは言った。

 なんか、もう。どうでもいーや。

 投げやりにそう思う未来であった。


 ――三日後。

 未来は自分の部屋の前に立っていた。

 帰着するとすぐに病院に送られ、治療と精密検査、それと報告に追われていたのだ。

 帰りたい場所ではなかったが、一人になれるのは心地いい。

 味気ない扉を開け、中に入った。

「お帰りー。」

 耳を疑った。続いて、目を疑った。

 床に広がる漫画にゲーム、DVD。散らかった室内は3日前に出て行った部屋と似ても似つかない。

 そして、そのガラクタの山の真ん中に居たのは。

「らくら?」

「おー、遅かったな。もう大丈夫なんか?」

「何でここに居る?!」

「俺はふらふらどこでも行けるタイプの妖怪とちゃうねん。誰かに取り憑いてんと存在が危うくなるねん。早よ宿主見つけんとあかんかってんけど、また、そいつが不幸になる思たら、決心がつかんかってな。まあ、お前やったら簡単にくたばりそうに無いな思て。」

「それで、俺に憑きに来たのか?」

「そうそう。」

「断る。」

 きっぱりと言った。

「旅鬼にでも取り憑くんだな。俺は御免だ。」

「そーやな。そしたら、あの人の運が良くなって、夢も叶うかもな。」

「夢?」

「お前にお父さん言うてもらうのが夢らしいで。」

「止めろ!」

 背筋が寒くなり、鳥肌が立つ。

 想像したくも無い状況だった。

「まあ、それが嫌なら諦めて、な。」

「断る。お前程度の力ならそんな事態には断じてならない。」

 頑なに拒否する未来だった。

「ええんか?そしたら……お前が卵を隠したこと言うで。」

 未来は絶句する。

 らくらは勝ち誇って笑った。

 駄目で元々と、あの卵を懐に入れたのだ。(後の虚脱感は辛いが、力を取り戻せるのは堪らなく魅力的だった。)報告をごまかし、後はらくらたちが喋らないことを祈る。(一応、口止めはしておいた)上手くいったと思っていたのに、こんな事態になるのは予想外だった。

 笑っているらくらを殴り倒したい衝動をこらえながら、計算する。

 彼を受け入れれば、封印解除の卵と彼のもたらす幸運が手に入る。対するデメリットは能天気な彼に振り回される事態だけ。

 メリットの方が大きいような気がするが、簡単に受け入れるには心理的抵抗が大きい。

 (デメリットを受け入れ、諦めるための)葛藤を続ける未来であった。

 そんな彼が、部屋の隅の段ボールの中で、拾ってもらうのをじっと待っている子犬のふりをしているグローリーを見つけるのは。

 もう少し後の話。


冒頭の未来の台詞と「我輩はグローリー・剣!」が書きたいだけで始めたので、どんどん長くなる話に泣きそうに。カエンも最初は名前なんてありませんでした。『魔女』で通せなくなったので、急遽つけた名前です。少しでも、お気に召したら幸いです。

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