勇者召喚したら勇者侯が来た件
勇者召喚、それすなわち起死回生の賭け。
異なる世界より異質の存在を呼び込むことで、その力を事態への対処に活用する。
しかしそのリスクがまた軽視し切れないものでもあり、召喚がより大きな災厄を呼ぶことすらあった。
だがそれでも、人類は苦境に陥るたびに勇者召喚という他力本願な方法に頼ってばかりいた。
「おお、勇者よ現れたまえ。その大いなる恩手で邪なる者を払い、再び白く清浄なる世界を我々の下に授けたまえ――」
その時代も人は禁忌の力に手を染め、異界より力ある英雄を聖地へと召喚していた。
それが、自分たちの望むものとは大きくかけ離れた姿をしているとも知らずに。
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「……………………」
ある存在が聖地へと呼び出された。
「こ、これはなんだ……。神よ、なにがどうなっているというのですか……!」
召喚に用いた聖堂は無惨にも大破していた。
その中央に一体の――巨大ロボ。
世界を救う力にしてあまりに巨大で迷惑な、言わば現在進行系でどこにも置き場のない存在だった。
「こ、ここハ……。なんてことダ、また始末書モノノ、宗教建築物を破壊してしまったノカ……!」
「お、おおおおおお……喋る鉄の巨人……! おおおおおおおお……!!」
災害にも等しい現れ方だったが、意外とそれが理知的な存在であり、しかも鉄の巨人とあれば救世主としての資質だけは十分だった。
「鉄の巨人よ、我々が貴方をここに召喚したのだ! どうかその力でこの世の悪をほふってほしい!」
「なるホド。いや私ハ、鉄の巨人などという名前ではナイ、雷の勇者侯ガガガーン、ダッ!!」
ブォォォンと勇者侯の瞳が光る。
だが不必要なポージングにより聖堂がついに完璧な残骸へとなり果てた。
白髪の老人が青ざめる。聖なるトーガまとう彼こそがその勇者侯ロボを召喚した本人だったからだ。
「……勇者侯ガガ様、あのですな、あまり、物を壊さないでもらえますかな?」
「す、すまナイッ! だが私の元居た都市はもう少シ、ロボに動きやすい都市設計だったのダガ……ムッ」
勇者侯気づく。
この聖堂はやむを得ずぶっ壊しながら出るとして……。
彼の周囲はところ狭しビッシリと文化財やらお墓やら同じような聖堂が過密建築されていた。
「……悪を倒す前ニ、相談なのダガ。俺ハ空を飛べナイ」
「はあ、つまりどういうことですかな?」
勇者侯アイが周囲を確認する。
どこを見ても足場が無い。絶対に踏んだり壊しちゃいけないものしかどこにも無いッ。
勇者侯ガガガーンが困惑した。
「……町を壊さずニ、外ニ出れる気がしナイ。どこナラ壊しても良いだろうカ……?」
「なっなりませんぞ!! ここは大陸中の信徒が崇める聖地!! 一カ所でも損壊すれば勇者侯ガガ殿でもただでは済みません!!」
そんなの絶対無理だと勇者侯の電脳が回答する。
どんな魔法を使っても町を壊さずに動くことなど無理無理不可能、ロボは願いと現実のジレンマに硬直を続ける。
「そこハ、こう……税金デ? 補償したりトカ……」
「いいえ破壊だけはなりません!!」
そうだそうだと市民のブーイングが勇者侯に集まる。
哀れ、善良な勇者ロボはロジックのドツボに飲み込まれ、思考すらもその場へと完全にハマってしまった。
「動けナイ……」
「わかりました……。ではあちらの、歴史のやや浅い通りをお使い下さい」
「オオ、わかっタ」
勇者侯ガガガーン発進!
瓦礫と化した聖堂に最後のトドメをブッ刺して、西へ西へと進んでいく。
ドスーン、ドスーン! パリーンッ、バキッ、ズドーンッ!
軟弱な石だたみが割れ、ちょっと当たっただけの街路樹がへし折れ、地響きだけで近隣の神殿にあるステンドグラスにヒビが入った。
「や、やはりお待ち下さい勇者侯よ!」
「エ……?」
「歩くだけで町が……町が壊れてしまいます……。なにせ古い聖地ですので、ちょっとした衝撃で損壊が……!」
勇者侯ガガガーン停止。
ロボがよく見ると隣の神殿まで軽く傾いていた。
「す、すまナイ……始末書、いるカ……?」
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完全に手詰まりだった。
来る日も来る日も聖地のお偉いさんは会議を重ね、いっそこのロボをどうにか返品出来ないものかと、そんな本末転倒な議題も上がった。
だが召喚技術が発達しているからといって、逆に送る技術があるとは限らない。
いや実際こんな巨大なものを異界に送れば、どんな反動がこちらに帰ってくるかもわからない。送り返すという案はすぐに断念された。
なら代わりの勇者を召喚したらどうだろうか?
アレはもう動かせないのであそこに居てもらう他に無い。
日照や地盤沈下、ロボの視線がどもう落ち着かないなど苦情が山ほど殺到しているが、いずれ市民も慣れるだろうと。
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だが召喚にはリスクが伴う。
必ずしも望み通りの存在が呼び出せるとは限らない。
それは町のオブジェと化した勇者侯ガガガーンの姿が生ける証明そのものだったはずが、人々は愚かにも都合の良い救世主をえり好みした。
「ここに居たカ、好敵手ガガガーンよ!!」
「ムッ、き、貴様ハ、なぜここニッ!?」
結果、聖地にはさらなる災害、天罰が降り注いでいた。
新たに召還された者もまたもや人間の勇者ではなかったのだ。
「知らんナ! ここで会ったが100年目! 決着を着けようゾッ!」
「ま、待テ! ここは聖地、我々がチョットでも動くト……止めロ、邪勇者ロディマーズ、ヨ?!」
聖堂は復興を始めていたが邪悪ロボ・ロディマーズによりまたもや汚い瓦礫となった。
邪竜剣グラン・グラムがにょぃぃ~んとどこからともなく現れ、問答無用にガガガーンを斬り伏せる。
黙ってやられるわけにいかない、勇者侯ガガガーンも英雄剣を取り出しそれを防いだ。
「お、お止め下さいっ! 聖地がっ、聖地がっ、歴史ある聖地が壊れてしまいますぞーっ!!」
「見ロ、何て傲慢で身勝手な生き物ダ。勇者、それすなわち利用され、裏切られる宿命ッ! これが現実ヨ、ガガガーンヨッッ!!」
「ダガッ、ダガ彼らノ、都市を守りたいという想イ、私にはどうしてモ、裏切れナイ……! おのれロディマーズッッ!!」
剣と剣がぶつかり合い、その超振動で聖地中のステンドグラスが飛び散る。
ガガガーンがロディマーズの邪剣を弾き返すと、後方にあった白亜の塔がまっ二つに斬れた。
ロボとロボによる死闘が教会を蹴り壊し、聖人の墓場が吹き飛ばされたガガガーンの下敷きとなり、見るも無惨にただの瓦礫の墓標と化してゆく。
だが勇者侯ガガガーンは最強である。あと一歩のところまで邪勇者ロディマーズを追いつめていた。
「滅びヨ、ロディマーズ! ガガガーン奥義ッ、エレクトロォンブレェェェェドッッ!! ヌグゥッッ?!!」
その邪悪ロボさえ倒せば終息する話だった。
「あの巨人どもを倒せっ、共倒れを狙うのだー!!」
しかしあと一歩のところで何かがガガガーンの装甲をぐらつかせた。
聖地の術者たちによる特大のマジックアローがその脚部を撃ったのだ。
「グハハハハハ!! 見たカ、ガガガーン!! 人間はこうやっテ我々を裏切るノダ!! さぞや失望しただロウ、ワハハハハ、笑いガ止まらヌワァァ!!」
「黙れロディマーズ!! それでも私たちは人間ヲ、弱き人間ヲ、守るのが勇者侯という存在なのダッッ!!」
ロディマーズは油断していた。
てっきりガガガーンがついに人間に失望し、自らの味方に堕ちるのだと思い込んだ。
だが、そこにいる鋼の勇者はどこまでも人類の味方として不器用に立ち回る、揺るぎ無き正義を持つ存在だった。
ガガガーンの英雄剣エレクトロンブレードが、長年の宿敵ロディマーズの胴体心臓部まで斬り食い込み……激しいスパークを飛び散らせた。
「ククク……どこまでも愚かナ……哀れな機械ヨ……。ガガガーンヨ、人ハ、この先もお前ヲ、裏切り続けル……。それでモッ、この醜い生き物ヲッ、貴様は守り続けるト言うノカァァッッ……!! グ、グワアアアアアーッッ!!」
「我が名は勇者侯ガガガーン!! 人類と平和の守護者ナリ!! 場所! 相手! 問ウつもりナドはなから、無シ……!!」
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ただ……ガガガーンは肝心なことを忘れていた。
ロディマーズの動力は無限の邪悪エネルギーであり、うっかりその心臓部を損傷させてしまうと……計測不能級の大爆発が起きるということに。
聖地は水爆でも落とされたかのように大地ごと跡形もなくえぐれ、その中心地に灰燼と勇者侯ガガガーンだけが残されるカタストロフィとあいなった。
大丈夫か勇者侯ガガガーン!
いいや大丈夫だ、なぜなら彼は最強の勇者ロボなのだから。
「アア、しまっタ……始末書出す相手モ、全テ、吹っ飛ばしてタ……。アアアア……」
……がんばれ勇者侯ガガガーン!
結果はどうあれ確かに君は英雄だ!
負けるなガガガーン、それゆけガガガーン、ただひたすらに人類と平和のために!
世界に平和が訪れたその瞬間から、自分が再び邪魔な置物扱いされると知っていても、ガガガーンの正義は揺るがない。
なぜなら彼は勇者侯なのだから。
利用されようとも、裏切られようとも、その正義の心臓部が稼働を止めるまで! 彼の信念は常に正義と共にある! 勇者侯ガガガーンよ悪を撃て! 始末書も書け!
あくまで勇者侯です、断じて王ではありません。(権利的に・・・




