あのね
「ねぇねぇあのねお母さん」
少年は母親の袖を掴んでこう言う。
「僕、小説家になりたい!」
「え、小説家?どうしたの?」
いきなりの言葉に戸惑いを隠せないままそう聞くと彼はこう言った
「あのね、僕、面白い本見つけたの!見て!」
少年から受け取った本は『子へ回る』という本だった。
最近人気の山本下という一発屋の小説家の作品だ。
かなり昔の作品だがなにやら最近作者がなんとかと話題になっている。
なぜ彼がこの本を手に入れたのかはなんとなく想像がつく。
だがなぜこの本を読んだのか。決して簡単な内容ではなく、大人でも読むのに時間がかかる。
「あのね、この山本下って名前と僕の名前似てるでしょ?それでね」
ああ、なんだろう。思い出すとやっぱり辛くなる。やっぱり同じだ。
いつもそうだった。私に話しかけるときにはいつも「あのね」と始める。
純粋な楽しそうな目をしてこっちも見てくる。
彼は子供を産むと嬉しそうに名前を呼んだまま入れ替わるかのように息を引き取った。
そんな彼がずっと通院の傍書いていた本のタイトルが『子へ回る』だった。
国語教師だった彼の好きな偉人は孔子。漢文の時孔子を『子』という字で表す。
その孔子が弟子に自分の考えを伝えてずっとずっと続いていくという話だ。
だがこのタイトルは彼が孔子のように息子に自分ができなかった小説家になってその子供へ、また孫へと繋いでいってほしい。それだけだった。本当は子供へのメッセージ。
ああ、なんだろう。思い出すとやっぱり辛くなる。やっぱり同じだ。
この何年も見てきた天井ももう見れないのだろう。
「ねぇねぇあのね母さん。」
ああ、なんだろう。懐かしい。
「俺さ、やっとデビュー決まったんだ。」
また夢だろうか。でも何かいつもと違う。
「だからさ、これからもさ、繋いでくからさ」
ああ眠い。もう無理だ。最後に名前だけでも・・・
「だから安心して眠っていいよ」
薄く目を開き本を受け取る。
彼ができなかったデビュー。
本屋には並ばなかった本。
ヒットして息子が夢も持つきっかけの本。
全部夢の中のはずだった。
彼とは真反対の道を進むはずだった。
でもこの子は書いた。
『あのね』 作:本山上
ご覧いただきありがとうございます!
初投稿になります。
少しテストも兼ねての投稿になります。
ごちゃついてるかもしれませんが精一杯書きました。
次はまったく違うストーリーで行くつもりなのでまたよろしくお願いします!
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