「魔王の追憶」
「魔王の追憶」
10年前、某大学「TRPG同好会【獅子の泉】」の部室
若き日の副長、ミユが下を向いて泣いている、そんなミユを先輩達が囲んで励ましている。
「ミユちゃんごめん、引退式で選んでくれたダンジョン、攻略できなくて…」
「あと…、折角TRPG同好会に入ってくれたのに、解散なんてな…、なんとか俺達が卒業するまでに、ミユちゃん以外にも新入生を集めようと頑張ったんだが…」
「テレビゲーム人気の煽りを、まともに受けちゃって、どうにもなぁ…」
ミユは顔を上げる
「そんな、大丈夫です先輩、私は諦めてませんから」
TRPGの手書きのマップがあり、一か所に印がしてある
「いつかきっと、新しい仲間とTRPGやります、私絶対諦めませんから」
ミユはそう言って、一枚のキャラクターカードを手に取り見つめる
それから数か月後、某大学のサークル募集の掲示板前
シンゴ、タフ、ミノの三人が、募集の掲示板を見ているミユに、声をかけるかどうか相談している
「シンゴ、どうするんだ、声かけないのか?」
ミノがシンゴに言うと、それを聞いてタフがシンゴをせかす
「あの子だろ、ゲームが超上手いって噂の子、うちのサークルに持って来いじゃんか、なんだっけか、サブマリンを全力で楽しむとか何とか…?」
ミノがそう言うと、シンゴがツッコむ
「【サブカルチャーを全力で楽しむ】だよ、何がサブマリンを全力で楽しむだ、潜水艦乗りにでもなる気かお前は、全く…いい加減に覚えろよな、まぁとにかく声かけてくるよ」
シンゴはそう言って、副長に話しかける
「あのさ、カメザキ ミユさんだよね?、すごいゲーム上手いって聞いたんだけど…、うちのサークルどうかな、サブカルチャーを全力で楽しむって感じで、ゲームとかも積極的に取り組んでるんだけど…、なんというか、その…」
ミユは必死で勧誘してくる、シンゴを一時見つめた後、質問する。
「そのサブサンプション・アーキテクチャってなに?」
そう言われて、シンゴはハッとし答える。
「ああ、サブサンプション・アーキテクチャってのはね、複雑な知的振る舞いを…じゃなくて、サブカルチャーだよ、ていうか、そんな長い単語言ってないでしょ?」
ミユはそれを聞いて吹き出し、笑いながら再度質問する
「アハハ、じゃあ、そのサブカルチャーって何?」
シンゴは頭を掻きながら説明を始める
「サブカルチャーってのはね…」
そんなシンゴと副長のやり取りを見ながら、タフとミノは呆れつつ見守っている。
そして10年後、雑居ビル二階のカメザキ ミユ(副長)の趣味スペース
2月14日 日曜日
「うっうーん」
副長は円卓で寝てしまっていたようだ、
「夢か…」
目を覚ました副長は時計を見る、時刻は既に朝8時を回っており、
横ではゲームマスター(GM)のミヨシと、高校生アルバイトのフクヤマが準備を始めている、
「あぁ、ゴメン寝てしまってた」
副長がそう言うと、ミヨシが答える、
「いえいえ、気にしないでくださいな、それより早く迎えに行ってください、もういらっしゃってるんじゃないですか?」
ミヨシにそう言われ、副長は席を立ち、窓から下の通りを見ると、シンゴ達が雑談している
「あら、もう来てるんだ、迎えに行ってくるよ」
副長はそう言うと、部屋を出てシンゴ達を迎えに行った。
それから、1時間ほど経過し、シンゴ達が円卓の席に座ると、
副長がスタート前の説明を始める。
「今日挑戦してもらうのは、昨日部長が引いた紙に書いてある、「地下大空洞」だ、昔からある定番ダンジョンで、とても人気が高い、きっと楽しんでもらえると思う」
副長がそう言うと、シンゴが聞く
「ルールは昨日聞いたのと変わらないよね?」
副長は答える
「ゲームの進行は昨日とほぼ変わらないよ、ただ、初心者用のダンジョンじゃないから、こちらから積極的に助言はしない」
それを聞いて、ミノが嫌な顔をして言う
「厳しいな…、というかそれが普通なんだろうな、昨日より慎重に行こう」
それを聞いてタフが言う
「そうだな、今日が本番なんだしな、気合入れて行こうぜ」
そんなミノとタフのやり取りの横で、シンゴがハッちゃんを見て言う
「ハッちゃん、お酒飲んでもいいけど、程々にね」
ハッちゃんは、苦笑いして答える
「ホントに昨日はすいませんでした、今日はあんなことには絶対なりません、頑張ります」
ハッちゃんの返答を聞いて、シンゴが頷くと、
ハッちゃんの横で見ていたユキが、目を細めてシンゴに言う
「そう言う先輩こそ、マップ作成、お願いしますよ?」
ユキにそう言われ
「おう、任せといてくれ」
そうシンゴが答えると同時に、
時計の針が10時を指し、【GMミヨシ】が宣言する
「マップ開放、ゲームスタートです」
【GMミヨシ】は一呼吸おいて続ける。
「ようこそ、「地下大空洞」へ、途方もない年月により作られた闇の大空洞…、
最近タウンの娘が、大空洞へ連れ去られる事件が頻発しています、
大空洞奥底に住む、悪しきモンスターを退治し、タウンに平和を取り戻してください」
続いて副長が【魔王(副長)】として告げる
「昨日のようにはいかんぞ、冒険者たち、さぁ来い」
それを聞いて、シンゴはバレンタインデー最初のダイスを振った。




