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異世界で新しい家族

「わかった!?」

「いえ、あの……もう一度お願いできますか?」

「アンタねぇ……もう4回目よ!?」

「少し混乱していて……」

この状況の原因は……。

───「ちょ、ちょっと待ってください!扉を開けてください!」

「嫌!絶対に開けない!帰って変質者!」

「僕、服がないんです!」

ゆっくりと、扉が開いた。

「服がない?」

「はい、それにここにいる理由もここがどこなのかもわからないんです」

「記憶喪失ってやつ?」

「いえ、僕の記憶はあります。でもその記憶の中にこの世界のことがないんです」

「? 何を言ってるかわからないけど服を貸すから入って」───

そう言われ入り説明してもらっているものの全く理解できない。

「いーい?よく聞きなさい。私の名前はレキウナ・アルシス・フリルミア。それでこの世界の名前がサラテミス。アンタの言う、ちきゅー?ってのはこの世界にはないわ」

5回も説明してもらっているのだがイマイチ理解出来ない。

「は、はぁ……」

目の前に立っているブロンドの美少女……?はレキウナという名前で、上は長袖でフード付き下はホットパンツという格好である。

寒くないのかな……。

「わかった?」

「一応」

はぁとため息をつかれた。

にしても、僕は死んだんじゃないのか?

地球での僕はどうなっているんだろう。

「あの、レキウナさん」

「いきなりファーストネームで呼ぶなんて度胸あるわね」

「えぇっ!?ダメでしたか?」

「別にいいわよ、それで?」

「僕のこと思いっきり殴ってもらえます?」

「は?」

レキウナさんの顔には、なんなんだコイツドMなのか?と書いてあった。

少し戸惑っていたが決心がついたようだ。

「いくわよ」

「はい!いつでブッ!!」

ものすごい音と共に壁にぶつかった。

どんな力してるんだ……。

「い、痛い」

やっぱり実体はこっちにある。

遺体とかは向こうにないなら好都合だ。

葬式代を出さなくていいし、母には心配をかけるかもしれないけど迷惑はかけなくて済む。

「おーい、レキウナー。さっきの人はどうだ?」

「あ、はーい!今下に連れて行く!」

ここはレキウナさんの部屋。

2階にある。

「ほら、行くよ」

叩きつけられたことで酷く痛む体を起こし、階段を下りた。

「おぉ、君。大丈夫だったかい?」

1階へ行くとレキウナさんの父のクランさんに声をかけられた。

背が高く、坊主で額に傷がある。

なんとなく怖いのだが、そんなことも言ってられない。

なんせ家に入れてもらって服まで借りているのだから。

「はい、色々とレキウナさんに説明していただいたのでなんとか……」

「そうかそうか!それはよかった。もうファーストネームで呼ぶ仲になったんだな!」

全然違うところに食いつかれた。

面白そうなお父さんだな。

「なっ!違うわよ父さん!」

「レキウナにも春が来たか〜。母さん今日は飲んでいいか?」

喜ぶクランさんはその妻、ランフィリアさんにまで話を振った。

「えぇ!付き合うわよ」

そしてちゃんと乗ってくれる。

「もー!お母さんまで!」

楽しそうな家族だ。

僕もこんな家庭だったらな。

「あっ、そういえばアナタの名前聞いてなかったわね」

「申し遅れました。榎谷鞘といいます」

「うんうん、それで?」

「それで……?」

「能力は?」

沈黙。

能力って何?

「なんですかそれ」

「えっ!?能力ないの?」

「ないと思いますけど……」

クランさんとランフィリアさんは顔を見合わせ首を傾げている。

「そもそも能力ってなんですか?」

「んーと、そのこう……何と言うか、お父さん!」

説明出来なくなったのかクランさんへ振った。

「はいよ」

そう言うと席を立ち、何かを唱え始めた。

「〝我が身に宿りし龍神の剣よ、時は満ちた。今ここで貴殿の封印を解く。我に力を!〟」

唱え終わると彼の前に剣が現れ、剣から出た炎に包まれた。

そして炎が消えて中から出てきたのは、ゲームでいう伝説の装備のようなものを纏ったクランさんだった。

詠唱は厨二病要素がたっぷりだったが、それでもすごくかっこよく思えた。

「これが私の能力だ。人それぞれあるからな」

「おおぉぉ」

ついつい拍手してしまった。

「なんか照れるな」

頭をかく仕草をした彼は装備を外しもう一度座った。

「レキウナさんの能力はどんなのなんですか?」

「えっ?私の?いや、私のはちょっと……」

「見せてください!」

この時に彼女の両親の顔が強ばっていたことに僕は気づかなかった。

「……わかったからちょっと、避ける準備しといて」

「? はい、わかりました」

レキウナさんは少し離れ、唱え始めた。

「〝我が身に宿るアテネの杖よ、その膨大な知識の一部を我に分け与え戦略をさずけたまえ〟」

終了と同時にレキウナさんの綺麗な碧眼は色が濃くなり、光を放った。

僕がそれに見とれた一瞬。

レキウナさんの姿が消え、次に見えたのは僕の頬ギリギリに拳を構えた姿だった。

「はい、これが私の能力〝アテネの杖〟よ。戦略を即座に考えることができるの」

「………かっこいいですね!」

「へっ?」

「色々なことに使えそうじゃないですか!すごくかっこいいです!」

「そ、そうでしょう!もっと褒めていいのよ?」

「かっこいいです!」

レキウナさんはエッヘンと言わんばかりに胸を張った。

僕もこんな能力だったらアイツらに復讐を……。

僕はもう死んでいる。

向こうにもう僕はいないんだ。

諦めて考えるのをやめた。

「レキウナ、お茶を持ってきてくれるか?」

父親の言葉でレキウナさんは上機嫌のままキッチンへ向かった。

「鞘くんと言ったね」

「はい?」

「本当にありがとう」

いきなり2人に頭を下げられてなにがなんだかわからなかった。

「レキウナは戦闘向け能力で普通の学校には通えなかったんだ。それに戦士見習い学校でもずば抜けて強くて友達すらいなかったんだよ。あんなに生き生きとしたレキウナは久しぶりに見た。君ならレキウナを変えてくれる気がする」

「僕はそんな大層な人間じゃないですよ」

「それでも、私はそう思う」

生き生きしてる……か。

自殺を選んだ僕みたいな弱者には似合わない言葉だ。

「だから、これからも末永くレキウナをよろしくね」

「は、はぁ」

それから、僕の事情を全て明かした。

最初はわからない様子だったが、要点に絞って理解してくれたようで家においてもらえることになった。

「お風呂お借りします」

「はーい、よく温まってきてねー」

まるで本当の家族のようだ。

不自由のない生活。

僕が望んだ生活。

取り戻すことはできない。

風呂場のドアを開けると、レキウナさんがパンツを履いている途中だった。

「あ」

みるみる赤くなっていく。

「あ、じゃいわよ!さっさと閉めなさいこの馬鹿ー!」

思いっきり腹の殴られた。

「うっ!」

臓器が飛び出さないか心配なくらいに。

そして、壁にめり込んだ。

自分で言うのもなんだけど僕って不憫だな。

夜の寝る部屋はレキウナさんの部屋。

空きの部屋がなかったらしい。

床に布団を敷いて寝ている。

「鞘」

「はい……」

「風呂はごめん、やりすぎた」

「いえ、大丈夫です。僕が悪いんですし」

正直言って全く大丈夫じゃない。

骨何本かいってるんじゃないかって思うほど全身が痛い。

「そうね……おやすみ」

「おやすみなさい」

それから僕達は一週間ほど一緒に暮らした。

しかし、絶望というのはいつも突然やってくるものだ。


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