怪物はゆっくりと目を醒ます
「はぁはぁ……打つ手は…あるの?」
『あったらこんなことになってるはずがない』
諸刃さんの問に走りながら答えるピエロ。
今は、あのオルレイトという奴から逃げているのだ。
「この氷、どこまでついてくるんやろな」
「なんとか……出来ませんか?」
タルトさんはまだ余裕のようだが、ユウカさんは限界に近いな。
どうするべきか。
『ってか、お前夫殺されたのにやけに冷静だな』
「えっ……まぁ一段落ついたというか……ありがたいというか」
『は?なんでだ?』
「私達には子供がいたんです。10歳のフランという子が……」
───その日も普通に過ごしていたはずだったんです。
「バイバーイ!また明日ー!」
フランは元気ないい子で、みんなに慕われていました。
夫の事情は言っておらずフランは何も知りませんでした。
でも。
「俺!母さんを守れるような人間になる!」
その言葉をいつも繰り返していて、私はその言葉に救われていたんです。
帰ってきたフランは遣神と父が話しているのを聞いてしまいました。
「この村の子供を全員殺せ。この村が邪魔だ」
「今日の夜でもいいのか?」
「あぁ、出来るだけ早いと助かる」
フランは絶望しました。
自分の友達が全員死ぬ。
そんなことは避けたかった。
しかしそんな祈りも届かず、子供達は1人残らず焼死しました。
フランはその現場を見ていたのです。
「なんでっ……みんなを…………。お父さんなんて大ッ嫌いだ!死ね!くたばれ!」
必死の思いでフランは叫びました。
その時、あの人は笑いました。
笑いながらフランの頭を掴んで炎の中に投げ入れました。
「そーいえばコイツも子供だ。殺さねぇとな」
そう言って。
私はそんなことも知らずに呑気に家で夕飯を作っていました。
3人分作りました。
でも、3人目の夕飯が食べられることはありませんでした。
その日から彼は私に暴力を振るうようになりました。
「お前は誰の金で生きてると思ってんだ!?俺が生かしてやってるんだ!お前には権利なんてないんだよ!」
そう言いながら毎晩毎晩、殴られて蹴られてそれを耐えてきました。
耐えながら、ずっと彼についていきました。
そしてある村についてから、私はフランの形見を見つけました。
見つかってはいけないと思い、森へ埋めてそこをフランの墓にすることにしました───。
「それがあの森です」
ユウカさんの指差した先は、陰陽の森。
「フランは〝反転〟という能力でした。きっと、フランはこれ以上被害を拡げたくないと願ったのでしょう。能力があの森に反映され、誰も近づかなくなりました」
あの〝反転〟はそうやって出来ていたのか。
森の能力なんて異例だろうからな。
「あの子は死んでもなお、私を守ってくれていたんです。夫への思い入れはありません。だから……その、ありがとうございました」
走りながらも礼を言うユウカさん。
父親か。
僕の父もそういう人だったんだろうか。
今となってはあまり記憶がない。
いじめの影響で色々なことをなくしてしまった。
記憶もその1つ。
仮にそんな父だったとしても……僕はそうなりたくない。
人に優しく、そう在りたい。
『さて、そろそろその森だぜ。俺は弱くなるがどうするべきだろうな』
陰陽の森がもう目の前だった。
後ろには氷が迫っている。
「マズイですね……」
考え込むユウカさん。
「いつまで逃げるつもりですかな!?飛べ!雪時雨!」
オルレイトの叫び声と共に無数の氷の刃が飛んできた。
「ダメや!うちの〝豊穣〟じゃ間に合わん!」
万事休す。
かな。
「私のなら!」
ユウカさんは立ち止まって地面に手を着いた。
「はぁっ!」
地面から出てくる植物。
大きな壁となった。
「ふぅ、これでひとまずは……」
「すごいですね、ユウカさんの能力って?」
諸刃さんが聞いた。
僕も気になる。
「〝育成〟です。〝豊穣〟より量は少ないですけど、スピードが早いんです」
すごい。
いくら能力が劣っていようと、使える場面は必ずあるんだ。
「今のうちに作戦……をっ?」
身を乗り出したユウカさんの体に刺さっていたのは、氷。
心臓を射抜くように刺さっていた。
そこから凍り始める。
「私も……今日なのですね」
「ユウカさん!まだ、諦めちゃダメだよ!」
「大丈夫です。向こうにはフランもいますし、夫を止められなかった報いです」
僕は仮面をつけていたのに、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
なにも……出来なかった
「どうか皆さん、お元気で。そして……ご武運を」
そう言って凍った彼女の体は割れた。
弾け飛ぶようにして割れた。
僕は……また。
アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
『ガッ……アァッ!〝鞘〟!落ち着け!』
僕はまた人を。
目の前で人を。
イヤダイヤダイヤダイヤダ。
『早く殺サなキャ。僕ガ!』
森に落ちていた弓と矢と手に取り、力強く引いた。
僕が殺すンダ!
アイツヲ!
筋力強化×矢の重力制御×気圧変化。
全てを使い。
放つ矢。
その矢は音速を超え、オルレイトの心臓を貫通した。
矢が刺さったのではない。
貫通したのだ。
「なっ、カハッ!……適合者……ここまでとは、降……参だ」
仮面が外れる。
そして広がっていた氷も消えた。
村から人も消えた。
誰1人残っていない。
「さ、鞘はん?」
「行こう。諸刃さん、タルトさん」
「行く?ってどこへや?」
「まず向かうべきは天冥の境界。最後はギノフタル神殿」
「で、でも」
「早く行こう。僕はもう……人の心に近づきたくない」
こんなに悲しいのに。
こんなに苦しいのに。
なんで涙が出ないんだ。
それどころか僕は……僕の口は微笑んでいるじゃないか。
もう…………嫌なんだ。
全部が。
僕達3人は次の場へと向かった。




