睡眠薬は食事中に
「「おかわりでっ!」」
7杯目。
「清々しいまでの食べっぷりですね……。でも、作る側も嬉しくなってきます」
森には食べるものはあったけど、味は……アレだったから。
料理は久しぶりだ。
「ただいま〜、あれ?お客さん?」
いきなり誰かが入ってきた。
少し構える。
「旅人さんよ。困ってたみたいだから」
「そうかそうか、俺はクルー・サリエ。そんなに構えなくていいからさ」
困った様子で言われた僕達はすごく恥ずかしかった。
「榎谷鞘です。お邪魔してます、サリエさん」
「クルーでいいよ」
「それじゃあ……クルーさん」
僕がそう言うとクルーさんはニッコリと笑った。
笑顔の似合う男性だ。
「私は諸刃唯です。よろしく、クルーさん」
「よろしく、うちにこんな美人が来るなんて久しぶりだなぁ」
クルーさんに褒められて諸刃さんは嬉しそうだった。
ユウカさんも嫉妬する様子はない。
いい夫婦だ。
「アナタも座って、もう少しで出来上がるから」
「おぉっ!野菜スープか!ユウカの野菜スープは絶品なんだよな」
「褒めても何も出ないわよ」
「事実を言ったまでさ」
リア充だあぁぁぁ!
この会話はリア充特有のアレだ!
すごいなぁ。
「はい、どうぞ」
「「「「いただきます」」」」
全員で声を揃えて言った。
「これ美味しい!」
「んー!やっぱり美味い!」
クルーさんと諸刃さん大絶賛。
確かに美味しい。
でも、何かがおかしい気がする。
「榎谷さん?お口に合わなかったですか?」
「い、いえ!とっても美味しいですよ!」
何なのだろうこれは。
僕がそう思った次の瞬間。
強烈な眠気が僕を襲った。
隣を見ると諸刃さんも眠っている。
「まさ……か、睡眠薬……」
テーブルに頭をぶつけて眠りについた。
「ふぅ、何故あんなに耐えられたんだこのガキ。一応早めに地下へ運んでおけ」
「…………わかったわ」
偽善を具現化させたようなその男に僕達は騙されていたのだと、やっとわかったのであった。
───地下牢獄
「うっ……ここどこ?って、寒っ!」
先に起きたのは唯の方だった。
辺りを見回し、隣の檻の中に鞘を見つけた。
「榎谷君!起きて!」
「ここ、は?」
「わからない。でも、閉じ込められてるのは確かだよね」
鉄格子の檻。
いくつも並んでいるけど……。
人はいないのかな。
「君らも捕まってしもたん?」
「え?」
一体どこから……。
「こっちやこっち、見えへん?」
2人とも唯の目の前、鞘の右斜め前を見る。
そこには、樹木に巻かれたような女性がいた。
「おっ、やっとわかってくれたんか。ここはサリエ家の地下牢や」
「地下牢……ですか」
「せやで。うちはここに2ヶ月おるけど、この檻は壊れそうにないなぁ」
少しずつ目が慣れてきて彼女の姿が見やすくなってきた。
たれ目で、緑髪の天然パーマ。
そして、胸が大きい。
まだ10代だと思われる。
「ところで……貴女は?」
ここで諸刃さんが彼女に尋ねた。
「うちは、アスタルト・ビュブロス・レバノン。能力は豊穣や、気軽にタルトって呼んでくれて構わんよ」
アスタルト?
アスタロトという悪魔なら聞いたことはあるが、アスタルトは聞いたことがない。
「諸刃唯です。タルトさん」
「タルトちゃんだと嬉しいなぁ」
「……タルトちゃんのさ」
「うんうん、なんや?」
「その木は何?」
僕も気になっていた。
生えてるように見えるが、タルトさんに巻き付いている。
2ヶ月での成長速度ではない。
「あぁ、これはうちの能力や。クルーはんは火術を使ってきてな、火傷してもうたからこの木に治してもらっとんねん」
能力……は豊穣じゃなかったのか?
「うちの豊穣はこんな植物を育てれば、自由に使えるんや」
便利な能力だ。
「そっちの君はなんて言うん?」
「えっ!はい、榎谷鞘です」
「鞘はん、あんた大事なものなくなったりしてへん?」
「大事なもの?」
体中を触る。
仮面が……ない!
慌てて辺りを探すも、見つかるはずはなかった。
「やっぱり。唯はんはどうや?」
「私は特に……」
諸刃さんはなにも盗られてないようだ。
「うちも盗られたものがあってな。それがないとあと一週間で死んでまうんや」
「「死ぬ!?」」
そんなに大事なものを盗るなんて……。
いい人だと思ってたのに。
「うちの豊穣は自分の生命力と引き換えに植物を育てるんや。その生命力を保つための道具“精霊の涙”って名前なんやけど、そのネックレスがないと……この木に喰われてまうんや」
そんな……。
「へぇ〜、これはそんなイイもんだったのか。高値で売れそうだ」
響いた低い声に3人共体を乗り出した。
クルー・サリエ。
「貴方は一体」
「俺は遣神の下っ端だ、こうやって自分の評価を上げてるのさ」
自分の評価を上げるために……自分のためだけに人を殺してるのか、この人は!
怒りが込み上げてくる。
でも、檻の中ではどうすることも出来ない。
ニヤリと笑うクルーは自己紹介をした時の彼ではなかった。
その後ろからユウカさんも出てきた。
「ユウカさん!こんなの間違ってるでしょう!」
諸刃さんは必至に訴える。
しかし彼女は顔を背け、「ごめんなさい」と言うだけ。
「まあ、せいぜい足掻くんだな。明日には遣神の上の奴が来て全て買い取ってもらう。そしたら、もう死んじゃうねぇ!アスタルトさぁん!ハハハハハハッ!」
このゲスを僕は許さない。
仮面のないこの状況で……殺シテミセル!




