諸刃の血
森の中を進んでいる途中。
「諸刃さん……ってさ」
「ひゃ、ひゃい!?」
「ははは、そんなに緊張しないで」
話し始めからこんなんじゃ、これからの会話が出来なくなってしまう。
「え、えっとね。その……諸刃さんのこと色々知りたいと思って」
「い、色々!?色々というのはやっぱり……彼氏と彼女がするあんなところやこんなところをあれするやつ!?」
「ちょっと、落ち着いて!諸刃さんのキャラがすごくブレてるよ!」
もっと清楚っぽい優等生みたいな感じなのに。
「そ、そうね……ごめんなさい」
「いや、僕の言い方に問題があったんだ。こちらこそごめんね。それで……その家系のこととか知りたいなと」
戦士の血筋。
戦士と言えば、圧倒的な強さを持つリーダー的存在。
そんなイメージが僕の中にはあるのだが、実際はどうなのだろう。
そもそも戦士の血筋なんていたんだ……。
まず驚くべきところはそこだよな。
色々ありすぎてあんまりインパクトなかったけど。
「家系……って言っても私は落ちこぼれなの」
「落ちこぼれ?諸刃さんが?」
「うん。うちは戦士の家系だけど嫁や婿は一般人なの。流石にうち以外に戦士の家系なんてないから」
それはそうだ。
公に存在しているのなら、立場を利用する輩だって出てくるだろうし。
「私は母の血を多く受け継いだの」
「それだとどうなるの?」
「うちには代々受け継がれてきた剣があるのだけれど……その剣が使えなくなったのよ」
「剣……」
それほどすごい剣なんだろうか。
剣自体が保有者を決めるような偉い剣なのか。
「名前は〝鬼丸国綱〟。ピエロを討つための剣よ。諸刃の血を引く者は己の意のままにその剣を取り出し、そして消すことが出来る」
「持っていなくても使うことが出来て、しまうことも出来るってこと?」
「そう、その通りよ」
なんて便利な剣なんだ。
それなら人を選ぶことも納得できる。
「私がダメだったから、剣は弟に継がれた。そして私と母は罵られ続けてきた。血の薄い役立たず共が……と」
「なっ!ひどい!」
「しょうがないのよ。それが諸刃なのだから。どうな状況でも母は笑顔を絶やさなかった。私を元気づけるために」
この話を聞いていると僕まで母を思い出す。
今頃どうしてるんだろう。
僕がいなくなって楽な生活になってるかな?
そうだといいな。
「だからこそ!私は努力して君の監視役になったの!」
「そっか、それでいつも僕にお昼ご飯をくれたんだね」
「あぁ、いや、その……そうじゃなくて」
「責めるつもりなんてないよ?責められるのは僕の方だ」
その優しささえも僕は踏みにじったのだから。
もう少し早く気づいていたら運命は変わっていたのかな。
いや、運命なんてモノは存在しない。
人も電車と同じ決められたレールの上を走っているだけ。
そこで分岐点が出てくる。
そこでの選択すら、決められている物なんだと僕は思う。
「あの……可哀想とか、監視対象とか、そういう理由じゃなくて……」
「なくて?」
「私、榎谷君を監視し始めてから榎谷君のいいところを……色々見てきたの。それでね、すごく優しい人だと思ったの。私は君に救われたかったの」
「救われたかった……?」
「うん、君なら私を助けてくれる気がした。そしたら今こんな状況でしょ?君は本当に私を……」
助けるか。
実際、自分自身すら救えなかった僕が。
知らず知らずのうちに諸刃さんを助けていたんだ。
結果オーライと、言うのかな。
「だから、その……さっきはごめんなさい!いきなり剣なんか向けちゃって」
「大丈夫だよ、僕が悪か……」
僕が悪い?
ボクガ?
アリエナイ。
ボクハワルクナンカ。
「榎谷君?」
その一言で正気に戻った。
「え?あぁ、僕が悪かったんだよ。気にしないで」
「ありがとう。本当に優しいね君は」
さっきのはなんだったんだろう。
でも、今気にすることじゃないと個人的に思う。
だから僕は気にしない。
今することはこの森から出ること。
「さあ、早くここから出よう!」
「うん!」
虚ろな存在は急成長し、僕の心に巣食っていた。
でも僕はそんなことも知らずに……みんなを傷付けるとも知らずに…………。




