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ハチミツ魔道譚  作者: 夏玉 希
第一章 地下都市の絆
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才能と努力

ぬらりひょんと共に飛んだ先は、既に二人の死者が出ている場所だった。

強い力によって引き裂かれたメンバーの身体(からだ)が無残に飛び散っている。

残っている三人のメンバーも互いに背中合わせで、魔導剣を構えなにかに備えている。


「おい、お前ら。 敵はどこだ?」


八道は地面に降りると、ガクガクと震えながら辺りに眼を張っているメンバーたちに話しかける。


「あ、あなたが八道さんですか……、ここは危険です……。 あいつがどこから襲い掛かってくるか……」


一人がそういうと「来たぞ!!」ともう一人が大声を発した。



敵は大きな猿だった。


正確には猿に似た魔物。


八道は知っていた。

コイツは魔界の一角で魔物たちを支配するジェッカーと呼ばれる魔物だ。

普通なら人間界に現れることがない魔物に、八道は顔をしかめる。




ジェッカーは巨大な四肢で高く跳躍し、空からメンバーたちに圧倒的な力で襲い掛かる。


メンバー達は身体強化を使っているおかげでなんとか避けることができるが、反撃ができるほどの余裕はない。


「囲むぞ!! ……八道さん、ここは大丈夫です。 俺らがやります。」


「待てっ-----」


威力と切れ味を強化した魔導剣を振りかぶり、ジェッカーに切りかかる。


だが奴の表皮は堅い。

直接攻撃が効きにくい魔物に身体強化の魔法は相性が悪すぎる。


本来なら身体強化の魔導士でも使うこと出来る簡単な自然操作系の魔法でじわじわとダメージを与えるのだが、元々魔導士でないメンバーがそんな魔法を体得しているはずはなかった。


彼らは身体強化だけを磨いてきたのだ。



「き、効かないッ!!」


「コイツも生物だ! 心臓や目とかどこか弱い場所があるはずだ!」



効かないとわかっていても諦めないメンバー達を嘲笑うかのように、ジェッカーは腕を振ってメンバーを跳ね飛ばす。


石造りの壁に激突しそうになるところに八道が割って入り受け止める。



「お前らには相性が悪すぎる。 ここは俺に任せろ。」



ジェッカーの拳を正面から受け、いくら身体強化を使っていたとしても相当なダメージを負っているにも関わらず、メンバーは立ち上がろうとする。



「俺らがやらないとダメなんですよ! こんなときのために九林さんに鍛えて貰ったんです!!」



そういいながらよろよろと立ち上がる。


他の二人のメンバーも紙一重で避けてはいるが、無線を入れてからも数十分戦っていたため、既に体力の限界を迎えていた。






「なりろう。 しがらや。 (この戦いに手は出せまい。 見物するとしよう。)」



ぬらりひょんは空中に一反木綿を呼び出すと、その上にあぐらをかく。

そして男たちの戦いを見守った。



「おい! お前ら!」



ダメージを負っていくメンバーを見かねた八道が柄にもなく大声を発する。



「な、なんでしょうか!!?」



ジェッカーを相手にしながら返事をするメンバー。


魔導剣にはヒビが入り、切れ味もほぼゼロに近い。



「俺が身体強化をかけてやるからそれまで逃げていろ!」



八道が魔導書を開く。

自分の得意ではない属性だが、八道の膨大で強力な魔力による身体強化ならなんとかジェッカーも倒せるだろう。



「いりません! 俺らは九林さんから教わった俺たちの力でコイツを倒して仇をとります!!」



メンバー達は八道の提案を拒絶した。


「くそッ!」


八道は九林への憧れや尊敬がそうさせているのだとわかっていた。



「九林……! お前のせいで仲間が死んで行くんだぞ……!」



メンバーは息を切らしながら必死に攻撃を繰り出すが、どれも届く前に反撃を食らう。

だがそれでも立ち上がり、何度でも立ち向かっていく。



「ガラララララララララッッ!!」



ジャッカーは上を向いて雄叫びを上げながら、自分の胸を拳で叩き、興奮を表現する。



「にぎら。 えいか。 (ヤツも男どもに敬意を表しているのだ。 これぞ我らの求める戦いよ。)」



ぬらりひょんが一反木綿の上で「ふふっ」と微笑む。



「ふん! わからねぇな。」



八道は無謀な戦いに命を投げ出すメンバーたちが理解できなかった。



「へいだら、ろう。 (ふふ、自分の手で戦ったことがないお前にはわからぬよ。)」



八道は返す言葉もなかった。

召喚属の八道はいつも後ろでみているだけ。

いつも従者が自分の剣となり、盾となっていた。



「ずいかくや、ぎん。 (若造、お前も自分の手で戦ってみるといい。)」



ぬらりひょんの言葉がどこか胸に刺さった。



-------------------



八道は自分と正反対の九林をいつも見ていた。


九林はずっと自分を磨いてきた。

アカデミーの頃から、才能が人より劣っているとわかっていながらひたすらに技術を磨き、体を鍛えていた。


女のくせに、と馬鹿にされているところも見たことがあった。

うるさい! と言い返すもいつも裏で泣いているのを八道は知っていた。


才能のある自分はいつもなんでも当たり前にできた。

なぜコイツらはこんな簡単なことが出来ないんだ、と周囲の生徒たちに疑問を抱いていた。



だが大きくなるにつれ、九林は馬鹿にされるどころか、賞賛され、人々から慕われるようになっていた。


それに比べ自分はいつになってもなんでもできた。

賞賛されることもなくなり、誰も自分を見ない。

一人で先頭を歩いていた。



そのつもりだった。

だがいつの間にか自分の後ろには九林がいた。

なぜこいつが、と思ったが、それを軽く上回る初めての衝動に追いたてられた。


「追い抜かれる」


それからは努力をした。

誰よりも強く、誰よりも多く、最強の魔導士になろう、と。


九林に追われ、八道は一人先頭を歩いていた道を走った。


才能がない、と自他ともに認めていた九林が自分の後ろにいる。

そして抜こうとしている。



八道は才能の有無が能力を判断する、という自分の概念を捨てた。



するとどうだろうか。

自分の走る先に何人もの先人が見え始めた。


そして遥か彼方にいたのは大賢者で師匠のマイチ。


それからはマイチに向かってただひたすらに走った。

後ろにいる九林に追い抜かれないように。



そうするうちにA級を超え、S級魔導士へとなっていた。


そして今の自分がいる。

今も走り続けている。



向こうはどうだか知らないが、自分は九林に、これ以上ないほどの感謝をしている事実をいずれ伝えなければならない。


-------------------------



八道は目の前にいる男達の体力を回復させようと魔導書を開いた。



「俺がお前らの体力と傷を少しずつだが回復させる!! そいつはお前たちの手で倒せ!!」



八道は叫んでいた。



「あ、ありがとうございます! 必ず倒して見せますッ!!」




『九林の意志』とでもいうのだろうか。

彼らは諦めることをいつのまにか忘れているようだ。


九林のもとへやってくる前は、姑息な犯罪者、半ば生きることを諦めているような世捨て人や貧しい者達だったはずだ。



「九林のせいで、死ぬんじゃない……。 こいつらは九林のおかげで生き返ったんだ……」



魔導書に手をかざしながら、八道は一人つぶやいていた。



「にいにら、ひょん。 (ふふ、お前も何かつかんだようだな。)」



「しぎらに、ぬらり。 (はい、あなたの言葉のおかげで。)」



しばらく忘れていた感覚を胸に、八道は魔力を高め、召喚する。



「精霊譚 シエラの歌声」



書から美しい歌声が流れ出し、メンバーの体力と傷を少しずつ癒す。

この召喚は発動している間、微量だが魔力を込め続けなければならないため、八道の額にも汗が浮かぶ。



「ひゃるよりさむと、ぎいぎ。 (大丈夫か、百鬼を呼んだ上に更に召喚することはかなり負担がかかるだろう。)」



「しだら……、そる。 (俺も……、やらねばならないときなのです。)」



「さははははは! りぎぬ、しりあらす! (はっはっはっは! やはりお前は面白い小僧だ! お前が主で正解だったのぅ!)」




メンバーの士気は最高潮に達する。



「いくぞっ! みんなぁっ!」


「「 おおっ!! 」」



男達は回復した体力を惜しみなく発揮し、



ジャッカーへの攻撃をより苛烈に、繰り出す。



ジャッカーの攻撃を紙一重で避け、危険を冒しながら一歩踏み込んで懐に一撃。


更に反対側からジャッカーの体を駆け上がって頭部へ斬り込む。



懐は弾かれたが、頭部には深い傷ができた。



「コイツは頭が弱いぞ!!」



「よし! 俺が囮になる! その間に仕留めてくれ!!」


「俺も囮になろう! とどめは頼んだぞ!!」



二人が身体強化を生かしたステップで軽やかにジャッカーの攻撃を躱し、挑発にも似た攻撃を与えて囮のして最大限の働きをする。



ジャッカーはちょこまかと逃げ回る二人を捕まえようと腕を振る。



頭に血が上り、だんだんと雑な攻撃になるジャッカーを背後から強烈な斬撃が襲う。



鮮血が吹き出し、暴れるジャッカーに危険を顧みず頭にしがみついて攻撃を加え続けるメンバー。



「もう十分だッ! 一旦距離を取ろう!!」


「まだだっ!! 今なら殺せる!!」



「危ないっ!!」



頭部への攻撃を続けるメンバーの一人をジャッカーがとらえた。


太い腕と手に掴まれたメンバーは逃げることができない。



「くそっ! あと少しなのに!!」



「待ってろ!! 今助ける!!」



二人は必死にメンバーを掴んでいる手を斬りつけるが、怒りと大量出血により意識が朦朧としているジャッカーは離さない。



「ぐああぁっ!!」



ビキビキッと骨の折れる音が聞こえ、掴まれているメンバーが苦悶の表情を浮かべる。



「仕方ねぇなっ!」



八道は回復を中断し、ジャッカーへと飛びかかる。

手にはぬらりひょんの刀が握られている。



八道は一直線にジャッカーの腕に飛びかかると大きく振りかぶって真っすぐ振り下ろす。



「ギィッ、ガァアアアアアアァアッッ!!!」



身体強化された八道に総大将ぬらりひょんの愛刀、いくら得意分野でない八道でもジャッカー程度の腕を切り落とすのは容易(たやす)い。



腕を切り落とすと、八道は地面に落下するメンバーを担いで避難し、至るところの骨が折れて瀕死のメンバーの回復に専念した。



「早くとどめをさせ!! コイツは俺が回復させる!」


「 「 はいっ!! 」」



残りの二人が息絶え絶えのジャッカーに攻撃を仕掛ける。

本人達の体力は八道の回復がないためほぼゼロのはず。


だが、その攻撃は今までにないほど強く、そして深い傷をジャッカーに刻み込んでいく。



「「 止めだ!! 」」



二人は大きく悲鳴をあげるジャッカーの口の中に剣を突き刺した。



ジャッカーは短い断末魔を上げると力なくその場に崩れ落ちた。



二人のメンバーは自身も限界を迎えているはずなのに八道が回復させているメンバーのもとへと駆け寄る。



「八道さん! 魔物は倒しました!! コイツはどうですか!?」


「俺の専門じゃないから時間がかかりそうだ。 休んでてくれ。」


「ッはい!! お願いします……!」



二人は剣を放り出しその場に倒れこんだ。



「くっそ! 回復しねぇ! 三葉がいれば……!」



自分は殺すことしかできない。

八道は自分が守ること、助けることができないことに怒りが込み上げてきた。



「しがらや、よい。 (若造、私に任せろ。)」



八道の後ろにはぬらりひょんが立っていた。

言われるがまま横に移動すると、ぬらりひょんが瀕死のメンバーの体に手を置いた。


そして ドンッ! と力を込めたかと思うと、メンバーの息が正常に戻った。



「よいやし、ならす。 (これで大丈夫だ、もうこの場所に敵はいない。)」



「ぎんらす、おうど。 (少し、休ませてください。)」



ぬらりひょんは八道の後ろで最期の力を振り絞って拳を握りしめているジャッカーを睨みつけた。


すると音もなくジャッカーの頭は爆発し、空気に溶けて消えた。




八道はその場に仰向けになって荒い呼吸を繰り返す。

八道の場合は魔力の使い過ぎによる精神疲労だった。



「お、りぎるすもると。 (おぉ、他のところも片付いてようだぞ。)」



ぬらりひょんが八道へ百鬼が散った場所の情報を伝える。

八道は満足そうに頷くと目を閉じた。



「しぎんと、りょうる。 (その刀はお前にやろう、お前も自分の力で戦う日がいずれ来るだろうからな。)」


そういうと、ぬらりひょんは刀を残してすぅっと消えた。



「自分の……力で……か。」



咄嗟に動いた体に八道自身驚きを隠せなかった。

ぬらりひょんの刀を握りしめ、立ち向かっていった時のことをよく覚えてはいない。


刀を握ったこともアカデミー以来なかった八道だがその姿は明らかに身体強化属の魔導士のそれだった。



「九林たちは……、どうだろうか。」



そんなことを考えながら重くなる(まぶた)に八道は抗わなかった。


ジャッカー……魔王リゼフの治める魔界の一つの山を支配している魔物。基本的に魔物は獣で魔族に劣るが、ジャッカーは下級の魔族なら殺すこともある。基本的に縄張りから出ることはなく、縄張りに侵入したものに容赦なく襲い掛かる。


八道の一言。

「身体強化では分が悪い相手だな。相性を理解するにはもってこいの相手だ。」


三葉の一言

「じゃっかー……? すいません、よく知りません!」

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