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ハチミツ魔道譚  作者: 夏玉 希
第一章 地下都市の絆
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戦闘開始

始まりは突然だった。


ある時間を境に、数百の班から一斉に無線が入ったのだ。

幹部たちが待機する部屋からは無線が鳴り響き、隣の部屋に居る八道、三葉、九林の耳にも入る。



「一斉……か。 八道、敵は何だと思う?」


向かい合わせになったソファに座る三人。

九林は驚きもせず目の前の八道に問いかける。

八道も驚いた様子はなく、淡々とした口調で答える。



「人間じゃないことは確かだ。 その辺の人間相手にお前の鍛えたやつらが数人がかりで殺されることはないだろう。」



彼女の腕を認めた上での発言に、九林はふふっと微笑む。



「そうか。 なら何だ、魔物か?」


「あぁ、そうだろうな。 三葉、魔物共を一度に大量に呼ぶ魔法はあるか?」



三葉は八道の隣で「うん」と頷く。

一度地上に帰った三葉は必要な魔導具を適当に鞄に詰めて先ほど再び地下へと戻ってきていた。



「大量の魔物を呼ぶには魔界の門を開くか、ハチのように召喚するかの二つがあるね。 でもこの数の召喚にはとても魔力が要ると思うからどこかで魔界の門が開いてるんだと思う。」



三葉は鞄から魔法陣の描かれた紙を取りだす。

そして魔法陣を指して補足して説明する。



「多分この地下都市のどこかに魔法陣があると思う。 そこがきっと魔界の門よ。」


「でも地下はとてつもなく広いぞ? しかも魔法陣は小さい。 見つける方法とかないのか?」


「ある。 一般人が近づかないところだ。 人気(ひとけ)のないところは魔力が濃い可能性が高い。」



人が近寄らないところ、人気(ひとけ)の少ないところは魔力が濃いとされる。

魔力を持つ魔導士たちには過ごしやすい環境だが、一般人には不快に感じるその場所を特定するのは思っているよりも簡単だ。

なんせ九林達は地下都市の情報には精通している。

大体の場所は特定できるはずだ。



「聞いたことがあるな……、二条、二条はいるか!」



「はい! ただいま!」



二条は隣の部屋からそう叫び、仲間に担当していた無線を預けると、バタバタと執務室へと駆けこんできた。



「地下都市の中で人が寄り付かない場所はあるか? 私たちには快適で、一般人は近寄りたがらない場所だ。」



九林の言葉に二条は少し考える。

その場所は案外すぐに思い当たったようだ。



「おそらく九番街だと思われます。 以前人々に誘致した時、九番街だけは誰一人住もうとしませんでした。ですが我々にはとても息のしやすい場所でした。」



「八道、どうだ、当たりか?」


「恐らくな。 二条、そこだけ異常に朽ち果ててなかったか?」


「は、はい。 なので我々も修復する手間が省けたと喜んでいました。」


「よし! そこだ、そこへ向かうぞ! あと二条、お前少したるんでるな、これが終わったら鍛え直してやる。」




九林は自分の魔導剣を持って立ち上がると、幹部たちを集めるよう二条に言った。

二条の呼びかけに幹部達は執務室に集まった。



「今から動く! お前たちはここで状況管理に全力を注いでくれ。 私が本体を叩く。」


「魔物どもは俺に任せろ。」


数百体の魔物の討伐を八道が引き受けた。

メンバーが次々とやられていった魔物達を一人で相手するということに九林を含め幹部たち全員が驚く。



「ま、魔物は八道がどうにかする。 それまで耐えろと無線で全部の班へと伝えてくれ!」



「はい!」


「連絡を始めてくれ」



幹部たちは部屋を後にし、九林の指示通り全ての班へと連絡する。

騒がしくなる隣の部屋、こちらも早く動かなければならない。



「八道、大丈夫なのか?」


九林が少し心配そうに聞く。

八道は笑うと「俺を誰だと思ってる」と九林の心配を一蹴する。



「三葉、九林のサポートをしてくれ。」


「う、うん。 わかった!」



三葉が頷くのを見て、八道は満足げな顔をして魔導書を開く。

そしてとあるページに手をかざすと魔力を込める。



「英雄譚 円卓への扉」



円卓の扉は八道が初めて召喚した物だということは九林もよく知っていた。

アカデミーの入学式、彼はこの扉で協会へとやってきたのだ。

目の前でそれを見た九林は八道の才能に嫉妬を隠せなかったのを覚えている。



光溢れる聖なる扉が現れ、ゆっくりと迎えるように開く。



「二条、お前も付いて来い。」


「はい!」



二条は待っていたかのように返事をする。

九林、三葉、二条の三人は光に包まれ、扉の中へと入っていく。

三葉と二条が光の中に消え、最後に九林が入る。



「九林。 三葉になんかあったら許さねぇからな。」


九林はそう言った八道の目を見て微笑む。

八道が誰かを心配する姿を初めて見たからだ。


「あぁ。 わかってるよ。」


そう言って九林も光に包まれていった。

そしてゆっくりと扉が閉まる。






「やるか。」


八道は一人つぶやき、別のページを開いて手をかざす。

魔力を込め、詠唱を始めた。

詠唱とは従者との対話で、より強力な従者を呼び出すときに必要となる。

込める魔力も、桁が違い、八道ですら詠唱をしなければならない従者は日に一度しか呼び出せない。


やがて手を包んでいた魔力が八道の体全体を包む。

八道が詠唱を終えると、体を包んでいた魔力がページの魔法陣へと注ぎ込まれていく。



「妖怪譚 大江戸百鬼夜行」



八道は息を切らして書を閉じる。

額には汗が浮かび、相当の魔力を消費したと見える。


点滅したかと思うと部屋の明かりが消え、執務室は暗闇に包まれる。

すると、どこからか太鼓の音と篠笛の音色が聞こえてきた。


いつのまにか部屋の四方には行灯が設置され、床の絨毯は草で編まれた敷物になっていた。

行灯の明かりによって、執務室の壁に百鬼夜行の影が浮かび上がる。



百鬼夜行とは、遥か昔に遠い国を統一した魔物の組織である。

妖怪(ようかい)』と自らを呼ぶその組織はその時代、全世界に名を轟かせたという。

百鬼夜行の妖怪たちはそれぞれが各地で最強と()われた者たちで、更なる強者を求めてぬらりひょんのもとへと集まったという。

国全土を巻き込んで繰り広げられた最強同士の戦いを治めたのが総大将のぬらりひょんだ。




「しかんや、そうなり。 (若造、我々を呼ぶとは何の用だ)」



深く地面の奥底から響くような声がする。

行灯に照らされた執務室には部屋を埋め尽くすほどの百鬼の妖怪たちが立っていた。


そしてその中央、顔に刻まれた皺と、歴戦の証である大きな傷を持つ妖怪が八道へと問う。

この妖怪が百鬼夜行の総大将ぬらりひょんである。



「りりしか、さらん。(戦いでございます、総大将殿。)」



八道はソファから立ち上がり、その場に膝を付くと、ぬらりひょんを見上げながら伝える。

八道が敬語を使うことは滅多にない。

それくらいの従者がこのぬらりひょんだ。



「かしるならし? (楽しめるものなのだろうな?)」


「きいじ。 (はい。)」



「しゅりんか、きいたる! (皆の者、今宵は戦のようじゃ!)



ぬらりひょんの声に百鬼の雄叫びがあがる。

その声の大きさに執務室がぐらぐらっと揺れる。



「ききあかそうら? (この辺りに数百感じる力がそうか?)」


「きいじ。 (はい。)」



「しがらみや。 (殺してもよいのか?)」



ぬらりひょんが冷酷な目で八道を見下ろす。

百鬼たちの手にかかれば魔物はおろか九林グループのメンバーたちまで殺されてしまうだろう。



「ぎぎや、さはれん。 (人間と魔物が戦っており、殺していただきたいのは魔物だけございます)」



八道の言葉にぬらりひょんが顔をしかめる。

ぬらりひょんの機嫌を損なえば、この場で八道も殺されることだろう。



「しはたき、ろう。 (ふむ、よかろう。)」



そういうとぬらりひょんは百鬼たちに合図をする。

八道が百鬼たちに目を移した時には既にそこには誰もいなかった。

執務室には八道とぬらりひょんの二人だけだった。

最強と云われる妖怪たちを一つにまとめあげた大妖怪、それがこのぬらりひょんである。

その力は魔王にも神にも匹敵するのではないかと八道は考えている。

ぬらりひょんの力は本物、それは後ろに従う百鬼たちと、何よりその姿を見ればわかることだ。

覇気と貫禄、その滲み出る魔力は幾千の妖怪たちの中にいても一瞬で見分けられることだろう。



「しがん、されよ。 (さて我々も行くか。)」


「あかいし。 (一番強い魔力へと飛びましょう。)」


「さん。 (当り前だ。)」



八道はぬらりひょんの背中に触れ、影の中へと溶け込んだ。


百鬼夜行……大昔、遠い国にてつくられた妖怪たちの組織。その一人一人が各地で最強と謳われた妖怪たちであり、それらをまとめあげたのが総大将のぬらりひょんである。ぬらりひょんの戦う姿を見たものはいないが、挑む者すら現れないという。あの八道魔導士でも頭が上がらないという。



八道魔導士より一言

「ぬらりひょんには礼儀が要る。絶対にだ。前に勝手に布団を使った時は殺されそうになった……」


三葉魔導士より一言

「ぬらりひょん……。 はい!アカデミーの教科書に載ってました!」

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