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ハチミツ魔道譚  作者: 夏玉 希
第一章 地下都市の絆
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九林グループ

穴を抜けて落ちた先は赤い絨毯の敷かれている広い部屋だった。

魔法による明かりで地下であるという感覚はほとんどないが、生暖かい空気が漂っているなんとも息の詰まる空間だ。

三人が落ちた目の前には執務机が一台あり、イスには一人の女性が足を組んで座っている。



「おい」



女性が怒りを抑えたような声で、目の前で立ち上がろうともがく三人に呼びかける。



「なんだよ、ここは。 薄暗いし空気淀んでるし来るんじゃなかった……」

「八道さん! 九林さんはどこにいるかわからないんですから静かにしてください…!」


「おい」


「この部屋結構広いよねー、ほしいね、この部屋。」

「いやいや三葉さんも、ほしいなんて怖いこと言わないでくださいよ。」


「おい」



九林は執務机の上にあったペンを取ると、魔法を付加して二条へと投げる。



「いだっ! あっ! 九林さん!! いたんですか!! あ!! すいません!」


「ここにずっといたし全部聞いたいたよ! お前という奴は地上に行ったかと思えばなぜコイツを連れてきたんだ! よりにもよってコイツを!」



九林は八道を指してそう言った。

言われるばかりじゃ、と八道は負けじと前に出る。


「俺だって来たくて来たわけじゃねーよ、助けてくれって言われたから来たんだ。」


それだけ言うとささっと三葉の後ろに隠れた。


「ほら! お前はまたそうやって三葉ちゃんの後ろに隠れる! 私が怖いのか、 あ?」


九林は鬼のような形相で三葉のもとへと歩いてくると、後ろに隠れている八道の服の襟を掴み、ぐっと引きずり出した。


「お前の力なんていらねぇんだ! 帰れ、二度と来んな!!」


そのまま殴りかかりそうな九林を三葉と二条で止める。

九林は細く引き締まった腕で振って暴れるが、力ではクマのような二条には敵わない。


「九林さん、やめましょう! 仲間が殺されているんですよ!? 仇取らなきゃダメでしょう!!」


「うるせぇ!! コイツに頼るのが気に食わねぇんだ! コイツに頼るくらいなら私が自分でやる!!」


八道は九林に押し飛ばされ、後ろへとよろめく。

三葉が背中から支える。


「九林さんッ!! 我儘言わないでください、これ以上仲間が死んでいくのを見たいんですか!?」


二条が九林に怒鳴った。

静かな広い部屋に二条の声が響く。

おそらく二条が九林に怒鳴ったのは恐らく初めてで今後二度とないだろう。



「……だけど私はコイツが嫌いだ。」



八道をにらみつける九林。

八道は目をそらさず、じっと見つめ返す。

そして九林に一歩近づいた。



「俺はお前より強い。 でもお前は俺より強い。 ……から嫌われたくない。」



八道は言葉を考えながらなんとか紡ぎ、九林に伝えた。

一瞬九林は黙るが、その後顔を緩めると、腹を抱えて笑い出した。



「くくっ……、はっはっはっはっは!! 意味わかんねぇよ八道、お前は昔から! 仕方がねぇな、この事件が解決したら嫌いじゃなくなってやるから、力を貸してくれないか。」


「今回だけだからな!」



二人がいがみ合っている中、二条は三葉に問いかけた。


「あの二人はどういう関係だったんですか?」


「うーん、ハチが天才魔導士でアカデミーでいつも一番でさ、九林さんは2番だったんだよ。 ハチは冷たいし勝手だからあまり好かれてはなかったけど、九林さんは才能に恵まれない人のことを知っているから人気者だったんだ。」


「そんな九林さんがなんで地下なんかに……。」


「……それは本人から聞いたほうがいいよ。」


そんな話をしていると八道が三葉のほうへと歩いてきた。

その足取りはガチガチでまるで面接を終えた受験生のようだった。



「き、緊張した……!」


「ずっと言いたかったんだよね、言えてよかったじゃん。 多分九林さんも言いたかったと思うよ。」


三葉は頑張ったねー、と八道の背中をさする。

ふぅ、と一息ついて八道はいつもの表情に戻る。



「よし、じゃあ早速犯人を捕まえる。 んで殺す。 二条、今からできる限りの人数を集めてくれ。」


「はい!」


九林は執務机の後ろの壁に掛けてあった一振りの魔導剣を取ると、ついてきてくれ、と八道と三葉を連れて部屋を出て長い通路を歩いていく。

その通路にもところどころに明かりが灯っているが、どこか薄暗い。

三葉はこんなところで生活するのは嫌だなぁと思いながら九林についていった。


「九林、 お前よくこんなところに住めるなぁ。」


八道は三葉の思ったことをまっすぐ九林にぶつけた。


「ん、あぁ。 地下ならお前がいないから。」


「「 はっはっはっは! 」」


八道の直球な言葉に九林も直球に返す。

そしてなぜか笑いあう二人を見て三葉は思わず微笑んでいた。

八道と九林はさっきまで嫌いあっていたとは思えない、まるで昔からの仲のようだった。

それからも他愛のない話をしながら歩いていく二人の会話を三葉はついていきながら聞いていた。


「ここだ。」


10分くらい歩き、一つの扉にたどり着いた。

そして九林が扉を開くと中からは人のざわめく声が聞こえてきた。

中に入ると、そこはとても大きな空間で、数千人の黒スーツの男たちが集まっていた。

九林が入ってくると、二条に退けをとらない体格をした屈強な男たちはビシッと整列し、誰一人口を開くことなく直立不動で立つ。

この男たちが九林グループに入るまで犯罪者や貧しい者たちだったとは思えない。

九林は八道と三葉を連れ、小さな階段を数段上って、メンバー達に向き直り、広いその部屋全体を埋め尽くすメンバー全員を見渡した。



「みんな、おはよう。」



砕けた調子で九林が挨拶をすると全員が揃えて挨拶を返した。

部屋がビリビリと揺れている。九林グループの魔導士たちはどの国の軍隊にも劣らない。

この光景を見た全員がそう思うだろう。



「今日は仲間たちの弔い合戦に行く。 突然決まったことだが勿論お前ら準備できているよな!?」



突然の事に一瞬間が空いたが、次の瞬間にはメンバー全員が「「 おおっ!! 」」と答えた。



「それに当たって地上より私の友人の魔導士に応援を頼んだ。 S級魔導士の八道と

その助手の三葉だ!」



八道と三葉が紹介され、メンバー達がここで初めてざわついた。

二条を含めるメンバー全員が、九林の地上嫌いを知っていたからだ。



「私は地上が嫌いだが、仲間が殺されていくのを黙っているわけにはいかない!! 私より強いこの二人と共に仇を取ろう!」


「「 おおっ!!! 」」



そして二条を含める幹部数人が九林をサポートして作戦を説明していく。

作戦は至って簡単だった。


八道が描いた魔法陣を巡回班全員に配る。

そして仇が現れれば無線にて司令部へと報告、八道の移動用の召喚物によって九林をはじめとする幹部たちがその場所へと乗り込む、というものだ。


そう作戦を立てたものの、その敵を見たメンバーはすべて殺されているため情報がない。


グループのメンバーは全員九林自らが鍛え上げた精鋭のつもりだった。

魔法が使えない者たちを一人前へと仕立て上げたのもすべて九林だ。

なので九林グループの魔導士達の属性はそのほとんどが九林と同じ身体強化属である。

身体強化は魔力の才能がなくとも技術を磨けば、体を鍛えれば伸びる属性で、基本的に魔力量が少ない者たちが身体強化の属性となる。

九林もその一人で、己の才能が一般より劣ることを自覚し、早々に身体強化に打ち込み、ただひたすらに技術を磨いた。

その結果、魔導協会にも名を残すことができるほどまでに成長した。


自分と同じような者たちを自分がやったと同じように鍛えたメンバーたちが次々と殺されているのだ。

その実力も並ではない。

数人が同時に殺されていることもあったため、多人数が相手でも勝てるほどの実力ということになる。


九林はこれ以上の被害を出さないため、早急な発見と解決を期待して、作戦を開始した。




「じゃ、私は一度帰るね。 鍵も閉めなきゃいけないし、しばらく店を休むことも知らせておかなきゃ。」


三葉はそういうと八道を残し、二条に繋いでもらった扉を使って地上へと帰っていった。

八道と九林は最初に居た九林の執務室に二人きりになった。



「八道、私がたとえお前を許そうと地上をよく思うことはないからな。」



九林が厳しい口調で言い切る。

その言葉には八道を嫌っていたことよりもっと深い、憎しみのようなものがこもっていた。


「わかってる。 よく思う必要もない。」


八道も事情を知っているのか短く返し、執務室は静寂に包まれた。

そんな雰囲気を感じてか、九林が突拍子もないことを言い放つ。



「三葉ちゃんとは最近どうなんだ?」


「はっ!?」



八道はガクンと体を震わせて声を発した。

ほとんど反射の声だ。



「いや、三葉ちゃんも大きくなったじゃないか。 人気あるだろ、美人だし。」


「人気あるのは知ってるが、俺には関係ないことだ。」


「ふ~ん、へぇ~」


「お前こそアカデミーで人気あったじゃないか、今もそうなんだろ?」


「ふっ、人気の意味が違う。 私のはそういうんじゃない。」


「男から好かれていたの、知らないのか?」


「そ、そんなことあったのか…?」


「あったな。」


「ふ、ふーん。 まぁ私はあいにく興味がないのでな。」


「だろうな。 疲れたから俺は寝る。」


「ここでか!?」



「あぁ、『妖怪譚 総大将の寝具』」



八道が魔導書に手をかざすと魔法陣が絨毯の床に現れ、魔法陣から布団一式が出てきた。

妖界の素材でできた最高級の布団に八道はもぐりこむ。

そして間もなく寝息を立て始めた。



「お前も何気に女の子にモテてたんだぜ、八道。」


そう小さくつぶやくと九林は八道たちが来る前にやっていた仕事の残りを片付けることにした。

九林グループ……魔導士九林率いる地下世界の男たちで結成された組織。その規模は地下世界一で、全メンバー約5万人と言われている。全員が九林による手ほどきを受けた身体強化の魔法を体得しており、それなりの実力を持っている。九林の人柄に惚れた貧しい者たちや世捨て人が九林を慕っていることで地下世界は平和に収められているといえる。この事実を知るのはごく少数である。


地上の八道さんから一言

「九林と仲直りできてよかった……よかった……」


地上の三葉さんより一言

「確かに空気は悪いけど、雰囲気は地上とあまり変わらないと思います。九林さんのおかげで無事まとまっているのでこのまま九林さんには頑張ってほしいです!」



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