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ハチミツ魔道譚  作者: 夏玉 希
ハチミツ魔導具店
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動き出す魔道譚

「諸君も知っての通り我々魔導士にはいくつかの種類がある! 召喚属、自然操作属、能力強化属の大きく3つに分けられ、その中で細かく分けられている。 どの属性も究めれば一国に匹敵するほどの力を手に入れることができるだろう!」



魔導士見習いアカデミー約三千人、将来、いろいろな場所で活躍を期待されている卵たちである。

教壇に立つのは学校長であり魔導士の最高位である大賢者マイチ。四十の若さにして約十五万人の魔導士の頂点に立つ。



「君たちの先輩である八道S級魔導士は君たちと同じ年で『円卓への扉』を召喚した。 そう、ここにいる全員が我々の実施した適性検査を受け、才能があると認められた者たちばかりだ。 その才能がいつ開かれるかはわからない、どんな才能なのかもわからない。 だが、努力をすれば必ずや開けるだろう! 我々はそれを確信している。 入学おめでとう、励め!!」



学校長マイチは手元の魔導書を広げると、とあるページに手をかざす。

淡い青い光が手元を包むと、会場に大きな五角形の魔法陣が現れた。

やがてその魔法陣が古い木製の小さなドアへと変わり、キィと音をたててドアが開く。


小さなドアから現れたのはどこか大人びた少年だ。尖った耳と闇のように濃い黒い髪、それは魔族の特徴であり、彼が魔族であることを表す。



「こんにちは、みなさん、この度はご入学おめでとうございます。 私の名前はリゼフ、魔界に住むものでございます。 みなさんの中にはわれらの主となる方も居られると思います。 ですがどうか勘違いしないでほしいことがあります。 それはあなた方人間より私たちの方が圧倒的に強いということ。 くれぐれも自分の方が上だとは思わないようにしていただきたい。 私たちも主は選びます。 傲慢は身を焼きますよ。」



「では」と言い残し、それだけ言うとリゼフは扉の中へ戻っていった。


新入生たちはざわめく。


リゼフといえば数ある魔界の一つを治める魔王で、史実にも多く登場する有名な魔族だ。



「今のは召喚属の者に対する警告だ。魔法というものは本来我々人間の術ではない。 常に命の危険を伴う。それをくれぐれも肝に銘じておいてほしい。以上で私からのあいさつを終わる。」















「へっくしょい!」


ぐしぐしと鼻をすすって目を覚ます。

そして八道は体を起こして寝ぼけ眼でキョロキョロ辺り見回す。



「今日は早いじゃん。 どうしたの?」


「くしゃみで目が覚めた……、風邪引いたかも知れない……。」


「誰かが噂してるんじゃない?」


「気色悪い……。」



いつもと変わらぬ店の奥の八道の部屋。

この店は住居も兼ねているので店の半分以上は生活スペースとなっている。


店の入り口から入って正面にカウンターがあり、その奥が八道と三葉の共同スペース。

そして共同スペースを挟んで右側が三葉の部屋、左側が八道の部屋がある。

店頭に並んでいる魔導具はごく一部で、ほとんどが三葉の技による異次元の倉庫に収められている。


昨日の少女のような依頼が、魔導士としての本業であり、本来ならば共同スペースで依頼を受けるが昨日のように場合によっては違う場所になることもある。

そしてその報酬に関しては依頼を受けた魔導士が自由に決めることができるので、同じ依頼でも魔導士によっては要求される報酬の額が変わる。




「客は来てるのか?」


イスに座ってぐるぐると回転しながらカウンターへとやってくる八道。

三葉は掃除をしながら「そこそこねー」と返答する。


二人の店「ハチミツ魔導具店に訪れる客は一日に百人いくかどうか。


D級からB級までの中級魔導士が扱える品から、A級以上の上級魔導士が扱う品まで豊富にそろうこの店には様々な魔導士が来店する。


品物は店主八道の価格設定が適当なため、他で買うより二~三割安くなっている。

だが一日に売る数にも限りがあるので、貴重な物は早々に売り切れてしまうことが多い。


もっぱら八道は客が居る時に店に顔を出さないので、ここに三葉のほかに店員が居ることを知っている人は少ない。


他愛もない話をしていると、店へ続く階段を上ってくる足音が聞こえた。



「さ、奥に行ってて。」


「言われなくても。」



シャーーッとイスを滑らせて奥へと引っ込む八道、三葉も営業モードに切り替える。


カランコロン......と古めかしいベルが鳴る。



「いらっしゃいませ、おはようございます。」



訪れたのは若い男性、魔導士としてはB級辺りと見た。

男は三葉に挨拶を返した後、何を買うでもなく店の中をうろうろしていた。

長く店員をやっている三葉はこの客が魔導具を買いに来たのではないことに気づいていた。

三葉は掃除を終え、カウンターへと戻る。

すると、待っていたかのように男がカウンターへとやってきた。



「三葉……さんですよね。 前々から聡明な方だと思っていたんです。 どうですか? 私とパートナーになってもらえませんか?」



ここでのパートナーとは魔導士と伝導士の関係である。

魔導士は単体でも強い力を発揮するが、防御面に弱く、直接攻撃には特に弱い。

伝導士はサポート術に長け、様々な小技や事務まで習うので伝導士でありながら店を開いたり事務所を持っていたりする者もいる。

なので一般的に魔導士と伝導士はパートナーとして活動を共にし、魔導士が怨霊だの魔物だのを退治し、伝導士がその他雑務をこなす。


もちろん三葉にはパートナーが居る。




「すみません、お断りさせていただきます。」



きっぱりと三葉は断るが、男は引き下がらない。



「僕はB級のトップにいてもう少しでA級になる。 A級魔導師のパートナーになれるんだ、こんなチャンスめったにないよ。」


「いえ、結構です……。 というよりこれ以上はやめたほうがいいと思います……。」


「なにがだい?」



しつこく男はカウンターから身を乗り出して詰め寄ってくる。

それを三葉は体を引きながら苦笑いで受け流す。

そしてついに男が三葉の腕を掴もうと手を伸ばしたその瞬間、一本のナイフが店の奥から凄まじい勢いで男の頬を掠めて壁に突き刺さった。



「なっ――――――」


「あー……悪い悪い、手が滑った。」


店の奥から出てきたのは八道。

手首をさすりながら三葉の横に来ると男を横目で睨み付ける。確信犯だ。



「あれ、三葉。 何やってるんだ?」


「ん? この人がパートナーになろうって。」


「はは……はははは」



男は後ずさりしながら店を出ようとする。



「まさか、八道S級魔導士のパートナーだったなんて……、すいませんでした!!」



男はそう言って転がりながら店を飛び出していった。



「あれ、嫉妬でもしたの? ねーねー」


「うっさい、誰がするか!」


「嘘つけー あっ! いらっしゃいま―――」


ドン、と八道が三葉を店の奥へと突き飛ばす。


「下がってろ、三葉」



男と入れ替わりに店に入ってきたのはシルクハットに季節はずれの分厚いコートを着た謎の人物。

ベルの音はなぜか鳴らなかった。

突然店内の空気が張りつめ、肌を刺すようなピリピリとした緊張が走る。




「お初にお目にかかります。 八道殿。」


「誰だてめぇ。 人間じゃねぇな。」




男はシルクハットを脱ぎ、コートのボタンを上から二つほど外した。

見た目は人間、だがどこか人間離れした雰囲気を持つ男だった。



「そんなに睨まないでいただきたいですな。 なに、今日はお話に来ただけです。」


「魔族か?」



人間の数倍髪の色は黒く濃い。闇に染まっているかのようだ。

だが耳は尖っていない。



「その通りです。 私のことをあなたもよく知ってるかと。」


「……! ヘルメスか、なんの用だ。」


「はい、一言。 『七雀(ななすずめ)』が魔界に現れ、魔族を殺して回っています。」


「……!!」



「七雀」は八道も三葉もよく知る人物だ。

アカデミーの同級生、卒業式の日に八道らの目の前で魔物に食い殺された。

他に大勢いた生徒たちの中で、それがなぜ七雀だけだったのかはわからない。



「では失礼致します。」



今度はドアを開くことなく、ヘルメスは自分の影の中へと姿を消した。



「ねえ、あの人は? 七雀って……」


「アイツはヘルメスだ。 敵でも味方でもない。 伝えるべき情報を伝えるべき場所へ運ぶ配達人(メッセンジャー)だ。 七雀についてはお前の想像している通りだ。 俺もよくわからない。 だから今からマイチのところへ行く。 早く準備をしろ。」


「う、うん!」



八道は魔導士の証でもある黒く長いコートを羽織る。左の襟には魔導書に八角形が描かれた八道を表すS級のバッジがついている。

持ち物は魔導書一冊のみ。

あとの必要なものは三葉が持っている。




「準備できたよ。」


三葉は白いコートをなびかせながら店のカギを閉め、札を「CLOSE」に代える。


「よし、行くぞ。」


魔導街中央大通りに出た二人は様々な店が立ち並ぶ大通りの先にある魔導協会を目指して歩きだした。

魔導士見習いアカデミー……将来国を支える魔導士・伝導士を養成するための学校。国内から毎年数万人が受験するが、才能の有無でハッキリ合否が決まるため、年によって合格者数は変わる。八年間の全教育課程の三年間で、魔力量の底上げ、精神力トレーニング、各種の適正検査を行い、各属性ごとにクラスを振り分ける。そして残りの五年間で適性を伸ばし、一人前の魔導士・伝導士へと育て上げる。その教育はとても厳しく過酷なもので、途中退学者も少なくない。だが卒業を迎えたものは他国の軍隊にも劣らぬほどの力を持って卒業でき、国内外で活躍する。


八道先輩から一言

「ここでは色々あったな……。 ケンカもした、もちろん魔法で。 負けたことはなかったけどな。」


三葉先輩からの一言

「とても充実した三年間でした! 伝導士は魔法に関係ない勉強も多かったけど、今になってその意味がよくわかります。 助手は大変です……」

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