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ハチミツ魔道譚  作者: 夏玉 希
ハチミツ魔導具店
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八道と三葉でハチミツ(八三)魔導具店!

初めまして、夏玉です。


ありがちな魔法モノを自分の好きな雰囲気で書いてみました。

ほのぼの恋愛を楽しんでもらえればと思います。


完結までしばらくの間お付き合いくだされば嬉しいです。


気が向いたらブックマークの末端にでも加えてくださいませ。

カランコロン......


年代物の古めかしいベルが来客を知らせる。


世界最大の魔導国家。

ここはその街中にある一軒の石造りの建物。

二階建てのその建物の一階は住居になっているが現在は空き家だ。

建物と同じく石でできた階段を上った先にある二階は小さな店になっている。

魔導国家にはありふれた店でもある。


ベルの音を聞き、パタパタと店の奥から現れた黒髪ショートヘアの少女は、いそいそと何かの準備をしてカウンターに立つ。

彼女が準備しているのは今日の目玉商品だ。

どう客に紹介しようかというのも事前に考え済みである。

彼女の明るく天真爛漫な性格とそれを感じさせないキリッと整った容姿、身長は女性にしては少しばかり高いが、漂わせる雰囲気が少女をどこか幼げに見せる。


彼女を狙う男たちがいてもおかしくないが、ここに訪れる客を含めこの国に住む人間の半数は異性にあまり興味がない。

その半数の人間にとっては魔法こそが全て、探求心という欲求が何よりも上回っているのだ。



「いらっしゃいませー! ハチミツ魔導具店へようこそ!」



この店は魔導具店。

魔導具店とは、魔法の錬成や開発、異世界の者と契約する時に便利な様々なアイテムを取り扱う店である。

この国の中に魔導具店は数百軒あると言われ、アイテムを仕入れるのも魔導士であるため、店によって品数や種類が変わってくる。



「本日は地獄蜘蛛の糸がお安くなっております、一メートルからどうぞ~。」



少女はびろんと束になった蜘蛛の糸を両手に広げながら見せる。

真っ白い絹のようなこの糸は地獄に住む蜘蛛が出す、弾力と耐久性に優れた糸の中でも高級な部類に入る。

彼女もまた、魔導士の中の『伝導士』という職にある。

伝導士の証である彼女の白いコートの右襟に付いているネームタグには、「三葉(みつば)」と名前が刻まれ、左襟には彼女の伝導士としての階級を表すバッジがつけられている。

万年筆のような不思議な形をしたペンに、模様の横線が二本。それがB級のバッジだ。

C級では模様の横線が一本、A級に上がるとこれが三本に増えるのだ。




「えっと……」


訳ありげに俯いている客は少女だった。

それも、ブラウスにスカートという服装をしているところを見ると、魔導士ではなく一般人だ。

魔導士は外出する際、職を表したコートの着用を義務付けられており、それがステータスにもなる。魔導士見習いアカデミーの学生たちも魔導士たちのコートに似た制服を着るため一般人と間違える可能性は低い。

いくらこの店が一般市街区と魔導区の境にあるとはいえ、魔導具店に一般人が買い物をしにくるということはまず、ない。




「何をお探しですか? この店は低級魔導具から上級魔導具まで大抵のものはそろってますよ。」


「違うんです……」



少女の肩が小刻みに震えている。一般人が魔導具店に来る理由のほとんどは、こういう場合である。



「た、助けてください……、助けてください!!」



突然泣き崩れながらカウンターにすがりつくようにしがみつく少女。

三葉はカウンターを出て少女の背中を優しくさするが、何も聞きはしない。

言ってくるのを待つのがルールなのである。



「こ、このことを誰かに喋ると聞いた人も呪われてしまうんです! だから……誰にも相談できなくて……!」



『言霊』一部の怨霊が持つ能力。

他人に話すことで呪いが伝染し、呪われた人は誰かに話すか、魔力を吸いきられるまで解放されない。


彼女がこの店にやってきた理由だ。



「大丈夫、話してみて。 だからここに来たんでしょ?」



三葉は少女の目を見て「大丈夫」というと、頭をなでる。

少女は半泣きの状態で、微かな希望を掴むかのように三葉のコートを強く握る。



「……いいんですか? ぐすっ……他のところでは断られてしまって……。」



言霊の怖いところは呪いをかけた怨霊の強さがわからないところにある。

この能力(チカラ)は低級の怨霊から上級の怨霊まで使うことができ、その症状はほとんど変わらない。そして呪われた者は徐々に衰弱し、やがて立つことすらできなくなるのである。

一年間に数千件起こると言われる依頼の中でも最も多いものだが、その実、魔導士たちも年に二、三人言霊に呪われて命を落としている。

その理由のほとんどが、祓おうとしたが魔導士より怨霊の方が力が強く、返り討ちに遭ったというもので『木乃伊(ミイラ)取りが木乃伊(ミイラ)になった』という古いことわざのとおりである。


そして魔導士の場合、豊富で上質な魔力を持っているため、怨霊を一度取り憑くと離れてはくれない。

しかも怨霊による魔力の吸収量が一般人より多く、数日で死に至ってしまう。精神力でもある魔力がゼロになると、何も考えられなくなり、やがて廃人になる。

それでも吸収し続けられると、脳の活動が停止し、死に至る。


だから自分に自信の無い魔導士達は、言霊についての依頼を受けたがらず、この少女のように たらい回し にされてしまうのだ。

特にこの少女の症状はひどい。

既に目の下には濃いクマがあり、頬はこけ、顔は青白い。明らかな睡眠不足である。

少し前に呪われたにしては進行も早い。

症状にここまで大きな違いが表れるということは、少女を呪っている怨霊はかなり手強いのだ。


魔導士達が相手にしたがらないのもうなずける。




「えっと……、この話は友人に起こったことなんです。 その日、たまたま無限墓地の前を通ったらしいんです。するとそこにお婆さんが立っていて、少しだけ話をしたそうなんです。そしたら自分の昔話を始めて……。危ないって思って逃げたらしいんですけどもう遅かったみたいで……」



少女は話しながら苦しそうな表情を浮かべ、頭を押さえる。

三葉が支えようとするが「大丈夫です……」とカウンターを支えに話を続ける。


「それで友人はなんかおかしいと気づいて、逃げようとしたらしいんです。だけど足を掴まれたらしくて……」


少女はそこまで話すとその場にうずくまった。

三葉はかけよるが、その時、店へとつながる階段を上ってくる足音が聞こえた。

急いで表の札を「OPEN」から「CLOSE」に変えようとドアへ向かうが、三葉がたどり着く前にドアが大きな音をたてて開かれた。









「ヒッヒッヒ! 話したねぇ! とうとう話したねぇ! あんたのせいで別の人間が呪われるんだよ。 ヒヒヒ! ありゃ、次は魔導士じゃぁないか、こりゃぁまたうまそうだねぇ。 ヒッヒヒ!」



野太いしわがれた声で入口に立っているのは、焼けただれた顔に腐敗して肉が削ぎ落ちた老婆。

とても生きているとは思えない。

顔の右半分には皮膚がなく、二つの大きな眼球があらぬ方向を向いている。

口には歯の代わりにウジ虫がうごめき、老婆が言葉を発するたびにウジ虫が床に落ちる。


老婆は次の獲物である三葉に向かって手を伸ばそうと店内に足を踏み入れる。



三葉(みつば)、そんな汚ねぇもん店の中に入れんなよ……」



店の奥から聞こえる男の声を聞くと三葉は、(きびす)を返してうずくまる客の少女の手を引くとカウンターの奥へと連れて行く。

そしてカウンターの下に隠れる。



「ヒヒヒヒ! 逃がさないよ! 逃がしてなるものかい! ヒヒヒヒッヒ!」



老婆はニタッと笑うともう一歩店の奥へと踏み入る。

だが老婆がそれ以上前に進むことはなかった。



「地獄譚 無間地獄巡りの船頭」



店の奥から聞こえる男の声を合図に、老婆の足元に巨大な穴が開いた。

そしてその穴から木の船べりが現れ、狭い店内に入りきらないサイズの木製の船が一隻現れた。

その上には大きな一つ目の船頭が一人、鎖を片手に立っていた。



「ゼアロアグロフォレス (そいつを連れて行ってくれ)」


「ギアグロ (承知しました。)」



船頭は影のような手を伸ばし、老婆の首を掴むと船に引きずり込む。

老婆がもがき暴れるが、船頭が呪文のような言葉を唱えると太い鎖が老婆に巻き付き、動きを封じた。

そして船頭が船べりを叩くと再び暗い穴がぽっかりと開く。



「ぞ、ぞんなぁ!! いやだぁっ!!! いいいいいいいやだぁぁ!!」


「アロ、ザガロギルス? (黙れ、更に罪を重くしたいか?)



船頭が腰に下げていた細い鎖を老婆の首に掛けると、太い腕で強く締め上げる。

老婆は呼吸困難に陥りジタバタと暴れながら呻き、声を紡ぐ。


「ぐぐっ! 小娘ぇ、助けを求めたのがここでよかったなぁ! ヒヒ…! ヒヒヒヒヒ!!」


船と一緒に穴に消えていった老婆の声はどんどん遠くなり、やがて穴は何事もなかったように消えた。







「――――――もう大丈夫だよ。」


三葉はもう一度少女の背中を優しくさすりながら体を起こさせた。

少女を襲っていた頭痛も老婆が消えたことで収まってきたようで、表情は和らいできた。



「あ、あの……、ありがとうございました!」



少女は頭を九十度以上下げて三葉に礼を言った。

三葉は苦笑いをしながら首を横に振る。


「いや、お礼ならあそこに座ってるアイツに言ってあげて!」



三葉が指さした店の奥には、ギィと揺れる椅子にふんぞり返って座る少年がいる。

その少年の手には辞典のような分厚い本がある。


「あいつがここの店主兼魔導士、八道(やみち)。そして私が店員兼助手の伝導士三葉。 ちなみにさっきの変なのはハチが呼んだんだよ。 あっ、ハチってのは八道のニックネームみたいなもので――――――」


「うるせーよ、三葉。 で、要件は済んだのか? 何も買わないならさっさと帰れ。」


「え? あ、お、お金はいいんですか? なんでもこういうのにはとてもお金がかかるって……」


「この程度の霊で金なんかとらねぇよ。 ちゃんと貯金しとくかここでなんか買っていけ。」


「……はいっ!」



それからしばらく少女は店内を三葉とうろうろした後、小さなお守りを手に取ってカウンターへ持ってきた。

そのお守りは鮮やかな色で縫い合わされていて、お守りの袋は三葉が、中に入っている厄除けの板は八道が作ったものだ。


「それは八道特製のお守り、厄除けやちょっとした除霊効果もあるんだよ。 魔導具店には一般の人にも役立つものがあるから、よかったらまた来てね。」


「はい! あの、ありがとうございました! 三葉さん、八道さん!」


「うん、ハチミツ魔導具店をよろしくね。」


「はい!」


少女は今度は三葉と八道に頭を深く下げると、カランカランと小気味よい音を鳴らしながら店を出て行った。


ドアが閉まると三葉がクスクスと笑いながら八道を見る。



「嘘ついちゃって。 さっきの怨霊、無限墓地から逃げ出したやつでしょ。 協会からの手配リストに載ってたよね。」


「さぁ、なんのことだか。 昼寝を邪魔しやがって……。疲れたし寝る。 店のことは任せたー。」


「はいはい。」


店の掃除と時々訪れる来客の合間、店の奥から八道の寝息が聞こえてきたので三葉はそっと毛布をかける。

魔導士は魔力を使いすぎると脳が疲労し、眠気が襲ってくる。八道の場合、依頼の後は大抵数時間眠るのだ。



「まだ少し寒い時期なのに、冷えるでしょ。」



とある魔導具店のお話。





言霊……下位から上位までの怨霊が持つ能力。最初の一人に怨霊自信が自分の恨みを聞かせることが条件。そして呪われた者が他人に話すことにより伝染していく。怨霊は呪われた人間の魔力を餌にし、自分の存在を維持する。発生の多い事件の一つだが、言霊だけでは怨霊の強さがわからない上、魔導協会からの評価も高くないため魔導士たちは避けたがる。上質な魔力を持つ魔導士は怨霊に憑かれると他人に移すことができないため注意が必要である。

魔力は精神力でもあるため、魔力を吸い取られた人間は廃人になってしまう。魔導士の場合は死んでしまうこともあり、死傷者は一年間だけで数十名にのぼる。


魔導士の八道さんの一言

「怨霊ごときに怖がるなんてあり得ねぇよ」


助手の三葉さんの一言

「怖いね…、怪しい人に話しかけられても聞いちゃダメだよ。」

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