14.『成果』
これで2章終了です。
次はリセリアのターンですw
お楽しみに~
リディエールがクライフに師事するようになって3ヶ月が経過した。
その間、リディエールはEランク依頼を中心にこなしていたが、時々クライフと一緒にDランク依頼を請けて実戦でのアーツ練習を行ったりもしていた。
そして、11月某日ギルドの鍛錬場にて。
二人はいつも通り5Mほどの距離を開けて立っていた。
クライフが銅貨を指で弾く。
数秒、空中でくるくる回りながら落ちた銅貨が地面に着いた瞬間、二人は同時に動き出した。
二人は常人の目では追えないほどの速度でステップを繰り返し、間合いを計る。
一瞬接近して剣を打ち合わせたかと思えば、すぐに離れる。
何度か繰り返し、リディエールがPressAttack(瞬圧)でクライフを弾き飛ばした。
その隙にQuickMove(瞬動)をかけ直・・・そうとしたら、クライフが手にした剣を投擲してきた。
リディエールは慌ててその剣を弾き飛ばす。
が、この隙に接近したクライフの足払いを食らって膝をついてしまう。
そのリディエールの目の前に、クライフの踵がピタリと止まった。
足払いをかけた後にそのまま体を回転させて足を跳ね上げたのだ。
「・・・参りました。」
その言葉を受けてクライフは足を引いた。
「ちょっと強引だったな。
しかし、PressAttack(瞬圧)で弾いてアーツの継ぎ目を補う発想はなかなか良かったよ。
ただ、今みたいな返し手もあるからアーツの再起動に集中してちゃダメだ。」
「アーツと敵の集中力のバランスが難しくて・・・」
「まぁ、そうだろうなぁ・・・
息をするみたいに自然に切り替えられるのが一番なんだが。
とはいえ、たった3ヶ月でここまで来たんだから自信を持っていいよ。」
「まだ1回も師匠から1本取れてないですけどね・・・・・」
ちょっといじけている気がしなくもない。
「そりゃそうだろ。
俺は小さい頃からアーツを実践(狩り)で使ってきたんだ。
2~3か月のやつに抜かれたら俺の17年どうなるんだよ。」
リディエールはきょとーんとした表情の後、納得顔で頷いた。
「確かにそうですね。」
「まぁ、でもリディは才能あるからすぐに強くなるよ。
自信持ちな。」
「はい、ありがとうございます。」
「じゃ、今日はDランク獣を一人で狩ってもらおうかな。」
「一人で・・・ですか?」
少し自信がなさそうだ。
「ああ、もうできるはずだぞ。」
「できるでしょうか?」
「あれだけ動けるんだから、できない方がおかしいよ。」
「・・・・分かりました。
行ってまいります。」
二人は一路アルヌード山を目指した。
リディエールは既にクライフと並んで走れるほどにFastMove(高速移動)を使いこなしている。
まぁ、さすがに本気のクライフには追いつけないが・・・
小さい頃から野山を駆け回っていたおかげか、クライフは本気になれば時速240km出せる。
リディエールが本気で走っても(限界まで頑張って)時速100kmが限界だろう。
使い慣れているというのはそれだけ有利と言う事なのだ。
1時間もしないうちに2人はアルヌード山の密林を臨める所まで来ていた。
リディエールは森へ入るための準備を進める。
クライフは何も言わずにそれを見ていた。
今回は本当にリディエール一人でやれと言うことだろう。
アドバイスも何もしない。
3分で確認と準備を終えると二人は森へと分け入って行った。
リディエールはMagicSonar(魔力波動探信儀)を定期的に使い、慎重に森を進む。
そうして30分ほどした所で大型獣の反応をキャッチした。
気配を消し、慎重に近づく。
姿が見える所まで行くと、正体が判明した。
ヤヌークだ(山羊っぽい感じ。高さは3m近い、重量は1tを軽く超えるものもいる。)。
リディエールはQuickMove(瞬動)を起動させ、枝伝いに移動する。
そして、そのまま頭上からヤヌークへと迫った。
ヤヌークも何かに気付いたようだが、まさか頭上からだとは思わなかったようで反応が一瞬遅れる。
その隙をついて、リディエールは落ちる体を捻り剣を一閃、延髄に剣を突き入れた。
メェ・・・
と断末魔の呻きを漏らしてヤヌークが倒れる。
はぁ・・・と安堵の溜息を漏らし、ヤヌークを圧縮バッグへ押し込めた。
そして、MagicSonar(魔力波動探信儀)で周辺を警戒しつつ山を降り始めた。
森を抜けて草原に出ると、緊張が切れたのかリディエールが座り込んだ。
「まぁまぁかな。
倒した後に気を抜いてるとやられちゃうぞ?」
「すいません・・・つい。」
「ま、気持ちは分かるよ。
これからは気を付けるんだな。」
「はい。」
「じゃ、こんなもんで大丈夫だろう。」
?
クライフの言葉に訝しげな表情になるリディエール。
「そろそろ卒業だ。」
「え?」
「Dランク獣は問題ないし、魔法の対処も覚えたからCランク魔獣も相手によっては行けるだろう。
もう一人前だよ。」
「でも、まだ・・・」
「忘れてるかもしれないが、俺も現役の冒険者なんだぜ?」
その言葉を受けて、納得できるけど不安といった表情を浮かべて、しゅーんと項垂れた。
「ま、組み手の相手くらいならたまに相手してやるから、そう気を落とすなよ。」
「はい!」
(俺も甘いなぁ・・・)
苦笑いを浮かべつつも見捨てられないクライフなのでした。
王都に戻ってヤヌークを清算し、それで酒盛りとなった。
フェルニーとリセリアも呼ばれ、4人集まる事となる。
初めてリディエールとリセリアが顔を合わせた時は一悶着あったのだが、それはまた別の話・・・としておこう。
あまり思い出したくない・・・
まぁ、それは置いておいて、とりあえずリディエールの卒業記念と言うことで飲み会が開始された。
「「「「かんぱーい!」」」」
「卒業おめでとう~」
と、リセリアがとても嬉しそうに告げる。
「ありがとうございます。
せっかく師匠が時間を割いてお教えくださったのですから、自慢できる弟子になれるよう頑張ります!」
「・・・・・」
そんなリディエールをじぃぃぃっと見つめるクライフ。
「ふむ。
期待しとこうかな。
と言う訳で、これをやろう。」
クライフが差し出したのは一本の短剣だった。
「これは・・・」
リディエールは素直に受け取る。
「風の神ウィーデュールの加護がかかってっから素早さに補正がかかる。
攻撃力が低いから戦闘時は使いどころが難しいけど、移動時は結構重宝すると思うよ。」
お酒に口を付けながら答えた。
「そ、それって凄いんじゃないですか?
いただいても良いんでしょうか・・・」
「俺は別にそれ無くても早いしな。
おまえ今日のFastMove(高速移動)目いっぱいだった?」
「・・・ええ、そうですが・・・」
「ふむ。
あれで大体、時速90kmってところか。」
「はぁ・・・」
「俺の最高速度は時速240km、あの速度の2.5倍ちょいってところか。」
リディエールが唖然とした顔でクライフを見る。
横でフェルニーも驚いた顔をしている。
リセリアはよく分からないようでキョトンとしている。
「っつーわけで、俺にはそんなに恩恵ないからやるよ。
お前だったら、それ使えば時速100km超えられると思うぞ。」
「あ、ありがとうございます・・・」
リディエールの口元がひきつって見えるのは気のせいだと思う・・・
そんなこんなで、宴会は楽しく過ぎ、程よい所で解散となるのでした。