13.『稽古』
なんかお気に入り登録数が増えてきた!
ちょっとテンションが上がってきました。
二人は約5Mほどの距離を隔てて立っていた。
クライフは剣こそ抜いていたが、特に構えもせずに軽く足を開いて立っているだけ。
対して、リディエールは緊張した顔で剣を正眼に構えていた。
ほんの数秒対峙していたが、リディエールが一瞬身体を沈ませると一気にクライフの懐に踏み込んだ。
そこから勢いを利用しての刺突を放つ。
クライフはその突き出される剣に自身の剣を重ねるように合わせると瞬時に手首を返した。
リディエールの剣はその衝撃で上空に跳ね上げられてしまう。
クライフは落ちてきた剣を左手で受け止めて、唖然とするリディエールへと差し出した。
「馬鹿正直に正面から突っ込んでどうすんだ。
アーツの並行起動ができないなら、使いどころ・使い方には気を付けないと。
もう一回。」
リディエールは剣を受け取って離れ・・・ようとして身を沈め、振り返る勢いで下段から斬りつける。
しかし、クライフはそれをあっさり受け流し、開いている左手でデコピンを放った。
ッ!?
おでこを押さえてリディエールが一歩下がった。
「今のは良かったよ。
特に、アーツを使わずにそのまま来たのがよかった。
アーツは強力だけど、その分隙ができやすいから読まれる可能性がある。
間合いとタイミングによっては、今みたいにそのまま攻撃した方がいい。
1撃では倒せないかもしれないけど、当たれば戦力を削げる可能性が高い。
動きが鈍ったなら、そのタイミングでアーツを使えばいい。
要はその瞬間瞬間で最善の一手を選択すればいいんだ。」
「最善の一手ですか・・・
それを判断できるようになるのは、いつなのでしょうね・・・」
溜息交じりのリディエール。
「そのためにこうやって稽古に付き合ってんじゃん。」
「早く師匠みたいになれるように頑張ります。」
「目標が小さいなぁ・・・Dランクだぜ俺。」
「身近で一番強いのが師匠ですから。」
「まーいいけど・・・」
(リディは知らないけど、フェルニーさん・・・ありゃたぶんAランクレベルだぞ(汗 )
そんな調子でアドバイスと指摘を繰り返しながら午前中はずっと立ち稽古を続けた。
昼食を挟んでの午後、ギルドの鍛錬場に戻ると今度はアーツ制御の練習に入った。
「それで、アーツ制御の練習は何をするんでしょうか?」
「走る。」
「・・・走るんですか?」
「そう、ひたすら走る。
FastMove(高速移動)は使えてたが、制御が甘いから速度が全然出てない。
目標は俺と並んで走ることだ。
んじゃ、お先~」
と言って一気に走り出した。
リディエールも慌てて走り出したが、クライフに全く追いつけない。
あっという間に周回遅れになり追い越される。
「全然速度出てないぞ~」
リディエールは一旦足を止め、供給魔力を多くしてFastMove(高速移動)を再起動する。
しかし、それでもクライフには全く追いつけなかった。
「アーツの自然制御で走っても早くならないぞ~」
「だから供給魔力増やしても急に早くなったりしないぞ~」
こんな調子で、追い越すたびにクライフからのアドバイスと指摘が与えられる。
「ヒント~アーツ無しで走ってみな~
死ぬほど一生懸命ね~」
リディエールは一旦FastMove(高速移動)を解除し、走り始めた。
アーツを使っていた時と違い、すぐに息が弾み汗が浮いてきた。
「俺一生懸命走れって言わなかったっけ~」
「はい!」
返事をして足に力を入れた。
爪先で力強く地面を蹴り、身体を前へ押し出す。
足に合わせて腕も勢いよく振る。
あっという間に息が上がり、身体が熱くなった。
「ほれほれ、もっともっと~」
冒険者として多少鍛えてはいたが、元お嬢様。
そんな身体で耐えられるはずもなく、10分ほど走ったところで足がもつれて地面に転がってしまった。
クライフも足を止め、倒れているリディエールの傍に座り込んだ。
そのまま、リディエールの息が戻るのを待つ。
息が整ったのを見計らって声をかけた。
「どう?自分の身一つで一生懸命走ってみた感想は。」
「きつかったです・・・」
「だろうなぁ。
んじゃ、次はアーツを使って走ってみようか。
ただし、FastMove(高速移動)を使いつつ今みたいに一生懸命走ってみようか?」
?
リディエールは疑問に思いながらもクライフの言う通りにアーツを起動して走り出した。
そして、すぐに驚きの表情になる。
早いのだ・・・
「何故・・・?」
風を切って走りながら呟くと、横に並んだクライフが応えた。
「簡単な事だよ。
継続効果系のアーツは使用者の動きを補助するものでしかない。
なのに、リディはアーツの効果だけで走ってた。
だから身体の動きとアーツが噛み合わなくて速度が出てなかったんだよ。」
「つまり、アーツを上手く使いこなすためには自身の鍛錬も必要・・・ということでしょうか?」
「うん、そうだね。
Eランクから上に上がれないやつは大抵この罠にかかって自爆してるやつだ。
アーツの効果にばかり目がいって、強力なアーツさえ覚えれば強くなれると勘違いしてる。
結局はそれを使う自分自身がレベルアップしなきゃ最低限の効果しか得られないんだよ。」
「肝に銘じておきます。」
神妙な面持ちでリディエールが頷いた。
「後は繰り返し使って、身体の動きにアーツを馴染ませていけばいい。
注意するのは使用してない時としてる時の切り替えくらいかな。
普段は気にしなくてもいいけど、強敵と戦う時は細かくアーツをOn/Offしたり、切り替えをしたりする場合がある。
そういう時にきちんと切替できないと、身体が事前の状態に引っ張られて上手く動けなくなってしまうんだよ。」
「そうなんですか・・・」
「切り替え方は人それぞれだけど、俺の場合は頭の中にスイッチをイメージして、それを切り替えるような感じにしてるかな。
人によっては掛け声だったり特定のモーションだったりするみたいだけど、やり易いやり方でいいと思うよ。
どっちかっていうと俺のやり方は異端だからお勧めしない。」
「どうしてですか?」
「頭のイメージだけってのは結構難しいんだよ。
明確なコレってものが無いからね。
人によっては精神状態次第では上手くアーツが発動しなかったりするんだ。
ただ、俺は小さい頃から山で狩りとかしてたから。
狩りの途中で声を出したりモーション挟んだりすると獲物に逃げられちゃうから、自然とイメージだけで切り替えるようになったんだよ。」
「なるほど。」
「色々試してみるのが一番だから、すぐに決めなくても大丈夫だよ。
よし、んじゃ一旦ストップ。」
クライフの掛け声で二人ともその場に止まった。
「次は瞬間効果系にいこうか。
あの人型を使わせてもらおう。」
二人は空いている人型の方へ移動していった。
人型は鎧が着せられており、打ち込み練習に使われるもののようなのでこれを利用することにした。
「継続効果系のポイントは、アーツはあくまで補助として使うことだった。
じゃぁ、瞬間効果系のポイントはなんだと思う?」
「・・・・・」
リディエールは顎に手を添えて考え込む。
「・・・アーツを使う最適なタイミングを見極めて発動させる・・・でしょうか?」
「まぁ、だいたい合ってるけど、そんなに難しく考えなくて大丈夫だよ。」
「はぁ・・・」
「そうだね・・・
簡単に言うと、アーツを道具として考えるって感じかな。」
「道具・・・ですか?」
「うん。
例えば、敵と切り結んでいます。
上手く相手の体勢を崩せたので、次の攻撃は攻撃力をUPさせて必殺の一撃にしたい・・・とかね。
まぁ、実際やってみようか。」
そう言ってリディエールを人型の前に立たせる。
「ImpactBrade(衝波斬)は覚えてきたんだよね?」
「はい。」
「じゃ、使ってみようか。」
リディエールが剣を構える。
「あ、構えないで素立ちの状態で使ってみて。」
「え?・・・はい。」
言われた通りに、構えずにぽんっと立った状態でImpactBrade(衝波斬)を使用して人型に斬りつけた。
剣が肩口にめり込んで止まる。
リディエールが剣を引くと人型のめり込んでいた部分が一瞬で元に戻った。
「おお、こりゃ便利だな。
これなら好きなだけ打ち込み練習ができるじゃん。
じゃ、次は構えから斬りつけてみよっか。」
「はい。」
リディエールは、今度は構えた状態から人型に斬りつけた。
前回とは違い人型は肩口から脇腹に向けて真っ二つに切り裂かれた。
「おっけー。
前回と今回の違い、それはリディがきちんと体勢を整えていたかどうかだ。」
「はい。
つまり、アーツだけで攻撃しても意味が無いということですよね?」
「うん。
きちんと本人の技量で攻撃を行い、その延長としてアーツの攻撃を上乗せするんだ。」
「だから、アーツを道具として考える・・・なのですね。」
「そういうこと。
理解が早くて助かるよ。」
「いえ、師匠の教え方が分かりやすいからですよ。
こうやって、実際に使ってみて比べると全然違うのでわかりやすいです。」
「そりゃよかった。
じゃ、理解したらあとは実地練習だ。
各アーツに最適な動き、タイミングを掴んでいけばいい。
相手が欲しけりゃ俺が付き合ってやるから。」
「はい、ありがとうございます。」
「今日はどうする?」
一応、今日教えようと思ってたのは以上なんだけど。」
「では、QuickMove(瞬動)の練習に付き合っていただけないでしょうか。」
「OKOK。
FastMove(高速移動)やQuickMove(瞬動)なんかの移動系は筋力補助と同時に知覚系の神経伝達速度も上昇している。
だから、本来はQuickMove(瞬動)も意識して動けるはずなんだ。
リディはどうやら知覚系の認識が追いついてないようだね。」
「そのせいで瞬間効果系と勘違いしていた・・・ということでしょうか?」
「たぶん、そうだね。
まずはそこの認知力の練習から行こうか。」
「はい!」
リディエールの力強い返事が響いた。
どうやらアーツの理解が進むことで、強くなれるという自信も多少ついたようだ。
この日は結局日が暮れるまで練習をしていた。
やりすぎてヘロヘロになり、クライフに宿屋まで背負ってもらったのはリディエールの黒歴史とかなんとか・・・