全ての『恋』が報われませんように。
この作品はお試し用です。好評なら連載にでもしたいなぁ…。と、企む作者ゆうじんに感想をください。ではではお楽しみくださいませ!
「笹を買って来たよ」
「はい。お帰りなさい」
はじめまして。僕は『タニ』。無論、あだ名です。由来は知りません。
今、僕の目の前に時期外れな『笹』を持って立ってるのが、
山田 華。
僕の同級生且つ同居人です。
断じて彼女じゃありません。ええ。断じて。
「タニ!ほら早くするよ!」
「わかったよ」
僕は仕方なく立ち上がった。こたつから出るのは非常に億劫な時期な訳でして、ましてやベランダに出るなんて。
「早く。早く。」
笹を飾り付けるなんて…
「はぁ…」
誰にも見られないようにベランダに出た。
七夕の飾りを箱一杯に抱えて。
「さぶっ!」
僕は馬鹿かも知れない。いや、馬鹿に違いない。
「飾りつけおわった?」
こたつが喋った。否、こたつに潜った誰かが。
「華?なぜ僕がこの寒空の下、時期外れな笹を飾っているの?」
「私達の悲願の為よ」
「華?なぜ君は僕の家のこたつで暖まっているの?」
「寒いからよ」
僕は箱の中の飾りを階下に投げ捨てた。
マンションの3階からカラフルな雪が舞う。
あんまり感動できない。
「あっ!?何するのよ?」
華は蜜柑を片手にベランダに駆け寄った。
時既に遅し。
七夕の雪は無惨にも路上に散っている。
華はせれを見て肩を震わせている。まさか…
泣いてる?
あ、有り得ない。だって作ったの僕だし。華ってば手伝いもしなかったし。
どちらかというと、3日徹夜した僕が泣きたい。
「華…?」
それでも一応声をかけてみる。あれっ?僕は軽くテンパっている。やばい。もし泣いてるなら、本当に泣いてるなら、あの方に僕は殺されてしまう。
「タニ…」
「何?」
「私決めた。自殺する時は飛び降り以外の方法にするわ」
「そうですか…」
そんなことかよ。
心配した僕が馬鹿だった。いっそのこと飛んでしまえばいいのに。
まあ実際は自分が殺されないか心配したんだけどね。
ドンマイ。僕。
あ、涙が!
という訳で、只今、2人でこたつなわけ。
「何で笹な訳?」
「…………」
無視?
つか蜜柑食べ過ぎだよ。ハムスターみたいになってるよ。
華は口一杯の蜜柑?を飲み込んだ。
「七夕の先約よ」
えーと。
何時の間にか七夕は予約制になったらしい。
時代は進んだものだよ。
「なにお願いしたの?」
「え?」
一応聞いてみた。大体の予想はつくんだけど。
「それは…」
─────
僕と華の出会いは小学校で、その頃の僕は少し生意気な子供だった。
大した考え方もできないくせにいつも社会に反抗するふりばっかで。
そんな僕は華と出会った。
第一印象は最悪だった。華に後から聞いたんだけど、お互い同じようなもんだったらしい。
華はいつも1人でいた。その頃から華は綺麗な女の子だったけど、誰も華に近づきはしなかった。
1人を除いて。
その1人ってのも僕と同居してるんだよ。
名前は又、今度。
まあそのお節介焼きは華に四六時中付きまとって、やっと口を聞いて貰えるようになった。
大変だったみたい。
そいつでさえそんな感じだから、僕なんかもっとヤバかった。
無視。
口論。
の繰り返し。
何やってんだか、小学生よ。今にしてみればそれは華なりの心の開き方だったのかもと思う。
そんなある日。
「2人って好き同士なの?」
「「はあ?!」」
「綺麗にハモったね」
「いや、華…何言い出すのよ」
「有り得ないよ」
「そ…そうだよ」
「ふーん」
「そういう華こそ……」
「大丈夫だよ。●●。私は愛なんて信じてないから」
「へ?」
「良い?そんな間抜け面したあんたにもよく分かるように言ったげる。私は愛なんて信じてないの」
「「……」」
「いつか裏切られるなら信じなければいい」
それはひどく悲しかった。僕は胸の中に冷たい血液がひたすら脈打つのを感じた。
そして思った。
僕は華の愛になろうと。
─────
結局のところ華や僕らはあの頃と変わっちゃいない。
ただ少し賢くなっただけ。
色んな事を諦められるようになっただけ。
でも、これだけは諦められないんだ。
「華の愛になる」
これだけはね。
ベランダに笹が一本。
随分と季節外れな願い事。
「なんてお願いしたの?」
「『全ての『恋』が報われませんように』って」
「……うわっ!」
華はにっこり微笑んだ。
「叶うといいなぁ」
そういうわけで皆さん。
特に恋する乙女の方々は、恋が報われなかったらすいません。
多分僕らのせいです。
そんな風な事を考えて土下座。
華は痛い視線で僕を見る。この時点で僕の恋は報われねぇって思う。
ドンマイ。僕。
追記。
次の日の朝、撒き散らした飾りを掃除させられた。
笹も私有地から盗ってきたらしい。たんまり怒られた。
勘弁してほしい。
end.