続き 2
「今朝の話だ。」
何だっけ、と考えるレイだが、インパクトの問題か、イソギンチャク型のウインナーで頭がいっぱいになってしまう。
その考えが読めるワケではないが、表情から零にも、彼女がひどく的外れなことを考えているらしいことだけはわかった。
零の顔に、一瞬諦めがよぎったその後。
「俺はお前のイチバンになりたい。」
告白っぽくはなく、フラットに放たれた言葉。
一瞬ぽかんとしたあと、お約束のように
「えぇー?!」
叫びながらレイは持っていた空のカップを落としてしまった。
幸い、全く平静な精神状態だった零が素早くそれを片手でキャッチし、テーブルに置く。
「で、どうすればいい?どうしたら俺がイチバンになるんだ。彼氏ってヤツになればいいのか?」
半分くらいウソがまじっていそうな、このインチキな告白モドキをうけたレイは、夢よりも信じがたい展開に、すっかりパニックだった。
ウソだ、ウソ。
またからかわれてるんだ。
こんなカンタンな人じゃないもん!
でも、信じたいっ!ホントだったら超うれしいもん!
うれしすぎて死ぬかも。
だから、信じたい、信じさせてください!
彼女は、一応、確かめてみたくて、おそるおそるきいてみる。
「それって、あたしの事、・・・ぇと、ぇっと、好きに、なってくれたって事で、いいんですよね?」
彼の表情が豹変しませんように、と祈りながら。
「 うん」
妙な間があいてから、不自然に微笑みつつ彼が答える。
今まで一緒にいた時間がなければ、ゴキゲンすぎるその笑顔の不自然さに気づくことはなかったかもしれない。
が、彼女は気づいてしまった。
「・・・はぅ。もう、いいです。」
またからかわれたのだ、とガッカリした顔でレイがタメイキをつくと、零はウソがバレたことを悟る。
つくろわなくては。
「俺が信じられないのか?」
「とりあえず今は。」
すねまくったレイの恨めしそうな視線。
「・・・くっ」
いつもと立場が逆の新鮮な会話。
ただし両者とも、まったくうれしくない。
「あのね、零さん、無理しなくていいよ?」
ちょっと困ったような顔のレイ。
「彼氏、なってくれたら嬉しいけど、ウソはやだな。」
細い細い針が、ちくりと零の胸の奥に刺さる。
傷つけたのかもしれないという、不安。
「でも、もし・・・もしも、だから怒らないでくださいね?もし零さんがあたしを好きになってくれたら、その時は大歓迎ですから!」
照れた笑顔で彼女が言う。
傷ついたり、ウソに不快感を覚えている様子はない。
笑顔を合図にして、針の刺さった場所から毒が流れ込んだように、胸の奥がわずかにしびれた。
熱を帯びて、体の動きを奪う、甘い甘い毒薬。
薄く開いた零の唇からは、何の言葉も出てこない。
「ぁ・・・あきれないで、くださいよぅ。」
居心地悪そうにレイが言った。
「それに、そんな無理しなくても、零さんは・・・イチバン、か・・・ぃです」
恥ずかしそうにうつむいた彼女の、最後の言葉は小さすぎて、か○○ぃ、としか聞き取れなかった。
かっこいい?
かわいい?
どちらなのだろう。
かわいい、だとしたら大変不本意だ。
「おい、レイ聞こえなかった。」
「だって聞こえないように言ったんだもん。」
まだ照れたまま、ちょっとイタズラっぽく笑うレイ。
「ちゃんと言え、そこ大事だ。」
「いわなーい!教えなーい!ぁはは」
零をじらすという、珍しいシチュエーションをちょっとだけ楽んで、レイは笑う。
「言えって、コラ、おい!」
レイの腕に零が手をかけると、彼女は逆らって逃げようとする。
「だめー、きゃはは!いっつもイジワルだから教えないもん!」
「なぁ!カワイイっていっただろ?だから言えないんだろ!」
自分のほうをむかせようとする零と、そっぽをむくレイ。
じゃれあっていたが、不意に零がぱっと手を放す。
「あれ?あ・・・怒っちゃいました?」
「別に。」
表情にも声にも感情が見えない、いつもの零。
ちょっといい感じだったのになー、とレイは残念に思う。
「えっと、テレビみよっとぉ。」
きまずくなって、テレビのほうをむいて座る。
空気が動く。
「え」
抱きしめられていた。
「イチバン、カッコいいよな?」
すっかりハマってから、フェイントだったと気づく。
嬉しすぎるし、不意打ちだし。
レイは、うなずくので精一杯だった。
「くくっ・・・最初から素直になれよ。」
満足そうに笑うと、零はカラダを離した。
「・・・びっ・・・くりしたー!もう!」
すねた顔をしてみせながら、レイは思う。
なってるもん、最初から、ホントはそう言ってたんだもん!
どうやら彼女の使い魔は、少々被害妄想ぎみのようだ。
嫌われた、と思うと苦しくなる。
笑う顔を見ると、嬉しい。
触れたい、と思う。
お前は、イチバンに俺の名前を呼べ。
お前が、イチバン好きなのは俺だ。
お前の、イチバン近くにいるのも俺だ。
かなわなければ苛立ちが、無気力が自分を支配し、ふだんの自分でいられなくなる。
ショボいわりに、なんて強い力をもった欲望なのだろう、と零は思う。
彼は知らず、そして認めない。
人間はそれを、”恋”と呼ぶ。