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使い魔日記  作者: narrow
64/68

続き 5

 突風に吹かれた黒煙のように、黒い霧がレイに向かって高速で押し寄せる。

 「あたし?!」

 光につつまれた、スズキの天使らしい神々しい姿にみとれていたレイは、

 突然矛先が自分に向いたことに驚いてしまい、どうやら危ないような気はするのだが、逃げることすら思いつかなかった。

 そこへ、御雷の体の上にいたハズのスズキが飛び込んでくる。

 光る翼がはばたき、霧を押し戻した。

 「・・・おぉっ?」

 一方、いろんな意味で体の自由を取り戻した御雷が、なぜ自分が道端に転がっているのか理解できず、起き上がりもせずに疑問の声をあげた。

 「あ、お兄ちゃん元に戻った?」

 「レイちゃん、ちょっと目をつぶってね。」

 そんな声が聞こえて、視界が真っ白につぶれていく。

 レイは、あわてて目を閉じた。

 「おぉ?まぶしっ何だ?何だよこれー!」

 遅れて、兄がわめく声が聞こえてくる。

 すべてを塗りつぶす白い光の洪水は、黒い霧をも塗りつぶし、零の”影”らしいそれは一瞬にして、完全に消えた。

 「・・・もういいよ。レイちゃん。」

 スズキのやわらかな声がする。

 風景は、すっかり日が暮れたいつもの町に戻っていた。

 まぶしい光も、スズキの翼も消えていた。

 同時に、あの空気の違和感も消えており、よって家路を急ぐ人々の視線は視線を泳がせながらわめくその男に集中していた。

 「目がみえねーっ!闇かっ!ここはどこだっ!俺は死んだのか!?」

 あの光の中、御雷はずっと目をあけていたようだった。

 「空気を戻すの、ちょっと早かったかな?お兄さんすっかり目だっちゃって・・・ふふっ。あ、そうだ。記憶、消しておいてあげるね。」

 御雷の様子がおかしいのか、面白そうに笑いながらスズキが言った。

 「そんなこと、できるんですか?!」

 「まあね、影が入ってた間だけ消しておく。ふだんの自分じゃなくなってたとはいえ、多分、耐えられるもんじゃないだろうから。」

 そう言って御雷に歩み寄ると、

 「お兄さん。」

 声をかけた。

 「あ?・・・ぁ。」

 スズキと目が合うと、御雷は固まった。

 「安心しなよ。なにも、なかったんだ・・・ね、そうでしょ?」

 スズキの声は、どこまでも優しく響く。

 その声を聞く間だけ、ほんの数秒、目の焦点があいまいになって、御雷はもとの御雷に戻る。

 「なんも、なかった、うん。・・・って、俺なんでこんなとこにいんの?今までなにしてたっけか?」

 昨夜から今までの記憶が一気に飛んで、御雷は混乱する。

 そして、体から魔物が抜けた彼を待ち構えていたのは。

 「あれ・・・?あ・・・頭が・・・頭イテェ・・・ぅえ、気持ちわりぃ・・・」

 二日酔いだった。

 飲みすぎたにもかかわらず絶好調だったのは、魔物のおかげだったのだ。

 「やべぇ・・・何も覚えてねぇよ・・・ぅえっ・・・ぉぇ・・・」

 「うわ、くさっ!この人くさっ!」

 とたんに酔っ払いのニオイをさせ始めた御雷のそばから、スズキは飛びのく。

 「わー、スズキさん結構ヒドイ。」

 それを見て、レイが軽く笑う。

 「ぅーん・・・、レイ、お兄ちゃん、しにそう。家まで連れてって。」

 「やだ。じゃ、いこっスズキさん!」

 二日酔いは、自業自得。

 死にはしないし、くさい兄の面倒は見たくなかった。

 なにせ今回は、いつもよりさらに迷惑をかけられたこともある。

 たまには突き放すのも、彼のためだろう。

 「え?ほっとくの?んー、まあ僕もクサイのやだし。じゃ、お兄さんまたー。」

 御雷に手を振るスズキの服のはしっこを、レイはちょこんとつまむと、引っ張って二人でさっさとその場から逃げてしまった。

 「レイー、おにいちゃんがしんでもいいのかぁ!ぅおぇっ・・・つか、その男は誰だー!ゆーるーさーんーぞー・・・ぅぐっ」

 その場にしゃがみこんで悶え苦しむ御雷の言葉は、もう妹には聞こえていない。

 「ぁ・・・でちゃう。」

 直後に彼の口から噴射された、液状の何かが道路にぶちまけられる音も、幸い妹には聞かれずにすんだ。


 おにいちゃん、だいすき。

 耳元で聞こえた声のくすぐったさに、零が目を覚ます。

 まだ真夜中のベッド。

 隣に眠るレイが寝言を言ったようだった。

 舌打ち。

 俺を起こしておいて、テメーはニヤけた顔で寝てやがって。

 「あの兄にして・・・だな。ブラコンめ。」

 起こさない程度の声で、憎らしげにそうつぶやくと、零はもう一度目を閉じた。

 途端に、甘えた声でふたたびの寝言。

 「ん・・・れーさんも大好きぃ・・・」

 「・・・はいはい。」

 聞こえてなどいない相手に返事をしながら、大好きったって兄貴の次じゃねえか、と少しひがむようなことを考え、零はゆっくりと意識を闇に溶かしていった。

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